無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「得た情報が、真実かどうかはわからない」
「当然だね」
「だが、偽りの情報でも、それが“偽りだと知っていれば”充分有用になる」
「つまり?」
「見極めが肝心だって事さ」


百二十七章 デコイ

SIDE インキュベーター

 

「真の目的?」

 

 深夜のベランダでの会話。

 僕と琢磨だけの情報整理は、意外な展開をみせていた。

 

「魔法少女を増やせるのはインキュベーターだけだ。

 美国先輩は新たな素質者をお前に教えてた」

「その通りだね」

「そうなると当然、お前は“契約の為に動く”事になる」

 

 深呼吸するように、煙を吐き出す琢磨。僕はその横で琢磨の言葉を待つ。

 

「黒い魔法少女による、魔法少女狩り。

 それを知れば当然、他の魔法少女達はそちらを注視せざるを得なくなる」

 

 なるほどね。確かにその通りだ。

 

「つまり、美国先輩にとって“相反する二つの行動”は。

 目的を隠す為の手段。

 すなわち“(デコイ)”でしかないって事だ」

 

 魔法少女を増やす事。魔法少女を減らす事。真逆と呼べる行動。

 そのどちらも“真の目的を隠す為”であるならば。

 その両方が“必要な事”となる。

 

「そして、真実を知る者に対して、相反する行動をとって見せる事で疑惑を持たせ、行動を迫害する」

 

 なるほど、よく出来ているね。でもこうなると。

 

「織莉子の“真の目的”は?」

「わかるわけないじゃん。

 あくまでもこれは“戯言”だし。

 仮に真実だったとしても“思いついたのはたった今”だぞ?」

 

 確かに“真の目的の為の情報処理”はこれからか。

 

「と言っても……情報が少ない通り越して、無い」

「駄目じゃないか」

「仕方なくね?」

 

 琢磨の言葉は、本人の言う通り“根拠のない妄言”にすぎない。

 ただ“相反する行動に対し、理論付け可能な事柄の羅列”でしかないのだ。

 

「しかし、よくそこに辿り着いたね」

 

 これまでの会話から、そこに至るまでの経緯。そこは非常に興味深いよ。

 

「ん?

 簡単な事だよ」

 

 電子タバコを咥え直し、琢磨は事も無げに言ってのける。

 

「暁美先輩と美国先輩。

 二人が共闘している要素はない。

 ならば当然“無関係”という結論に辿り着く。

 その“視点”で見ればいいのさ」

 

 琢磨と僕らの、絶対的な違いは“感情の有無”だ。

 それは、僕らは常に“客観的視点”しか持たない事を意味し。

 琢磨は“自分の見たい場所から物事を図る”事を意味する。

 だからこそ、成立する意見交換。うん、君は貴重な存在だよ。

 

「魔法少女を“増やす”事と“減らす”事。

 二つは相反している。

 ならば“どちらも重要ではない”と考えれば。

 それは“手段”であり“目的”ではないと結論付けられるって訳だ」

 

 戯言だけどね。

 そう言って、琢磨は深呼吸する要領で、白煙を吐き出す。

 

 確かに、琢磨の言葉には“物的証拠”どころか“状況証拠”すら、存在しない。

 辻褄が合う。それだけで真実とは呼べない。

 辻褄が合う。それだけで事実とは言えない。

 でも、辻褄が合うのなら。すべてが虚構とは言えないのではないか。

 そんな、どっちつかずの、成り行き任せ。

 

 有史以前より、人類を観察してきた僕らにとって。群雲琢磨という存在は“唯一”と言える。

 システムを理解した上で、受け入れて接する。

 劣る存在と理解した上で、受け入れて生きる。

 群雲琢磨が理解した上で、受け入れて過ごす。

 それが、どれほどの異端か。それが、どれほどの異常か。

 

「君は本当に“異物”と呼ぶに相応しい存在だね」

 

 僕のこの言葉すら、すでに66回目だ。

 

「異物か……普通でもないし、人でもない。

 うん、実にオレらしい」

 

 そう言って嗤う琢磨を見るのも66回目だ。

 

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「どちらにしても、だ。

 やっぱ、オレが直接会ってみないと、これ以上の情報が得られないな」

 

 どれだけの情報を分析しようとも。どれだけの情報を解析しようとも。

 決定的なものが無い以上、語られる言葉は、琢磨の言う“戯言”なのだろう。

 

「それでも充分だよ」

「うん、知ってる」

 

 例え、戯言であったとしても。

 

 “まったくの予想外”と“僅かでも予想内”では、雲泥の差だ。僕らにとっても、琢磨にとっても、ね。

 インキュベーターの目的は“宇宙延命の為のエネルギー回収”だ。すべてがそこに収束する。

 群雲琢磨の行動理念は“自分の為”だ。すべてがそこに集約される。

 

 

 

 

 だからこそ、僕らは言葉を交わすのだ。

 

 僕らは琢磨を“異物”と呼ぶ。

 

 男とも。女とも。大人とも。子供とも。当然、魔法少女とも違う“異なる物”と。

 

 琢磨は僕らを“ナマモノ”と呼ぶ。

 

 人物でも。植物でも。動物でも。無機物でも。当然、生物でもない“ナマのモノ”と。

 

 だからこそ、僕らは言葉を交わすのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「さて、そろそろいくよ」

 

 そう言って、ナマモノはオレの肩から飛び降りる。そのままベランダを乗り越えていく。

 

[そのまま死ね]

[わけがわからないよ]

 

 まあ、死なないよね。知ってる。

 見上げれば、夜空。雲ひとつ無い。でも、星がよく見える訳でもない。普通の街の空。

 

[無駄に潰されるのは、もったいないじゃないか]

[おや、意外。

 学習能力あったんだな、お前]

[当然だろう?

 学習した結果が“第二次成長期の少女を優先する”現状だからね]

[キュゥべえ……恐ろしい子!?]

[わけがわからないよ]

 

 まあ、このままここにいたら、そうなるだろう。キュゥべえは、そう判断したって訳だ。

 

「いや、まいったね、ほんと」

 

 空を見上げながら、一服。うん、落ち着く。むしろ、落ち着かないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 では

 

 

 

 

 

「逃げも隠れもしないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闘劇を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話があるなら、こっちに来たら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はじめよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐倉先輩」





























次回予告

百二十八章 幸運

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