無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「もし、オレが魔人じゃなかったら」
「この恋は、そもそも始まらなかったのかな?」


百三十章 Answer Dead

SIDE 群雲琢磨

 

 夜。二人っきりの時間。人知れず存在する、荒廃した教会。

 SG(ソウルジェム)を指輪に戻した佐倉先輩は、横にあったGS(グリーフシード)を後ろに放り投げる。

 当然、後ろにいたオレは、それを難なく受け止める。

 

 ……ごめん、嘘ついた。取り損なって、慌てて拾いなおしました。うわ、かっこわる。

 ステンドグラスを見上げていた佐倉先輩には気付かれて無いっぽい。セーフ。

 

 しばらくして、振り返った佐倉先輩は、複雑な表情でオレを見つめる。

 

「どした?」

 

 首を傾げるが、首を左右に振り。

 

「なんでもねーよ」

 

 なんでもない人がする表情じゃなくね?

 そう思ったが、下手にツッコんで、先輩のSG(ソウルジェム)が穢れるのはよろしくない。

 落ち着くために、オレはゆっくりと電子タバコを吸った。

 

 魔法少女システム。

 かなり強烈で、残酷な内容だ。

 それこそ、知ることで魔女化する危険を孕む“最悪の絶望情報”である。

 だからこそ、オレは誰にも言う事はない。

 筈でした。聞かれてました。最悪なのはオレか。

 どうやら、佐倉先輩はそうはならないみたいなので、一安心ではあるが。

 

「なあ、琢磨。

 少し付き合えよ」

 

 しばらく後、辛うじて原型を留めている椅子の一つに腰掛けながら、佐倉先輩からご氏名です。違ぇ!?

 そんなボケを脳内で展開させつつ、オレは僅かに口の端を持ち上げる。

 危惧していた最悪の事態は回避出来そうだが……穢れに直結する負の感情って、意表を突いてきたりするしな。

 気を紛らわせるのは、実はかなり重要だったりする訳で。

 

「まあ、断る理由は無いな」

 

 横に座ったオレに、佐倉先輩が微笑む。うは、照れる。

 そのまま、オレ達は会話をする事無く、時間が流れるのを感じる。

 ゆったりとした時間。心を落ち着ける時間。そんな時間になっていればいいな。

 なんて、ガラにも無い事を思いながら、オレは電子タバコを吹かし続けていた。

 

「なあ、琢磨」

「ん~?」

 

 しばらくして、スティックキャンディを咥えた佐倉先輩の問いかけ。

 

「お前、恋人とか欲しいと思うか?」

「まさかのガールズトークかよ。

 先輩達としなさいな、そういうのは」

「たまには良いじゃないか」

「むぅ」

 

 何ゆえにその話題? 新手のイジメですか? 実らない初恋真っ只中ですよ、こっちは。

 まあ、付き合わない訳にもいかないが。かといって“戯言”駆使するのも違う気がするしなぁ……。

 

「欲しい欲しくない以前に。

 ()()()()()()、かな」

 

 正直に言う事にした。ドン引きされそうな気もするが。

 

「オレは、オレの為に、オレを生きる。

 自分のやりたい事を、やりたいようにやる。

 そんなのと一緒になってみ?

 泣くのが目に見えてるだろ」

 

 進んで、誰かを泣かしてやりたい。なんて事は考えてないが。

 自分の為に生きる。これが“希望”だったのは、紛れも無い事実。魔人になれた事が、それを証明している。

 故に、この生き方を曲げる訳にはいかない。それは自分自身を否定する事と同義。

 

「寂しい奴だな」

「知ってる」

 

 佐倉先輩の言葉に、オレは苦笑する。

 孤独でも、優しくされなくても、知ったこっちゃない。

 魔人になる()に、家族すら忘れ去ったオレだ。

 既に欠陥だらけだったオレが、孵卵器によって、魔人になった。

 魂は物質化し、肉体は道具となり。

 それでもオレは、群雲琢磨のままで。

 人間として欠陥だらけで、人間ですらなくなって。

 魔法少女にすらなれない。素質ですら失格だ。

 それでも、魔女を狩らなければ。他者の(たましい)を喰らわなければ、活動すら出来ない。

 

 ……なるほど。

 美国先輩の言っていた【殲滅屍(ウィキッドデリート)】ってのは、最も正確なのかもしれないな。

 ただ、殲滅するだけの、生きていない(しかばね)

 自分が活動する為に魔女(ウィキッド)(デリート)していくモノ。

 

 

「仮定をした話をしよう。

 群雲琢磨に恋人が出来た話だ。

 仮に、オレと佐倉先輩が付き合っていたとしよう」

 

 せっかくの機会だ。いっそ徹底的に自分と向き合うのも一興か。

 

「……いや、仮定だからね?」

 

 狼狽した佐倉先輩に、思わず苦笑する。

 色々とネタを仕込むつもりだったが、そんなに嫌か、この仮定。泣くぞ。

 早急に結論を告げようと、オレは一気に言葉にした。

 

「付き合ってます。

 当然、デートします。

 

 『好き~!』『ガバァ!』『ちゅ~』『SG(ソウルジェム)に反応あり』

 

 どうよ?」

 

 うん、引いてるね。泣くぞ。

 

「同じ立場ですら、こうなる。

 片方が【純粋な一般人】なら、状況はもっと悪化する。

 一般人の視点で言えば。

 『仕事とあたしとどっちが大事なのよ、ぷんぷん!』

 って感じだ」

「一々、言葉にネタを入れるな」

「オレだからね」

 

 落ち込んだりされると、SG(ソウルジェム)が心配になる。だからネタを入れる。笑えないからね。

 

 それはさておき。

 魔人として生きると決めている以上、オレに“魔女を狩らない”という選択肢は無い。

 そして“GS(グリーフシード)がないと、魔人として生きていけない事”を、オレは知っている。

 魔女狩りを“仕事”と定義するならば、どちらが大事かと問われれば“仕事”と答える。

 

【恋人と仕事を天秤に掛ける事無く、即決で仕事を選ぶ】

 

 そんなオレに、恋人? むしろ恋人が不幸になるだろ?

 欲しい。欲しくない。それ以前に。

 恋人なんて存在、オレに相応しい筈がないのだ。

 

 

「苦労するな……」

「しないよ?

 最初から“恋人をつくらなきゃいい”んだから」

 

 無い者に、気を使う必要なんて、無い。

 恋人をつくらなければ、そもそも悩む必要すら、無い。

 

「お前じゃねぇよ」

「?」

 

 うん?

 再度、問い掛けようとしたが、真剣な表情で瞳を閉じた佐倉先輩に、オレは開きかけた口を閉ざす。

 

 佐倉杏子。

 オレと同じように、独りで生活していた人。

 でも、彼女はオレとは、あまりにも違いすぎていた。

 そりゃそうだ。一般人なんて知ったこっちゃないオレとは、違って当然。

 ゆまの存在が、それを際立たせている。

 仮に、佐倉先輩の立場でゆまと出会っていたとして、助けるという選択肢が出てきたかどうかすら危うい。

 独りなのに、ちゃんと誰かを助けられる。

 すでに“生き詰った”オレとは、まるで違うモノ。

 だからこそ、彼女との“共闘”は、間違いなく“オレの為”になるのだ。

 

 ふと、先輩を見直してみれば、なんとも複雑そうな表情。

 

「どした?」

 

 耐え切れず、オレは声を掛けた。地味にSG(ソウルジェム)が穢れてました。なんて言われたら、むしろオレが死ねる。

 オレの声に反応し、佐倉先輩がオレを見る。その瞳が読みきれない。まあ、他人を読みきれるほど、オレは自分を卑下してない。

 ……うん、そんなに見つめられると照れる。

 

「お前は、さ」

 

 何よ? むらくもくんですよ?

 

「もし、魔女になるとしたらどうする?」

 

 ……oh。

 ここへきて、その質問が来るか。やっぱ、先輩の心に影を落とすか。最悪の絶望情報。

 無難に取り繕うか? どうやってだよ?

 結局、言いたい事しか言えないあたり、オレってばかだよなぁ……知ってるけど。

 

「ガールズトークから、いきなりのガチシリアスね。

 ま、いいけど」

 

 先輩から視線を外し、オレはゆっくりと煙を吐き出す。

 

「魔人の場合は、魔女じゃなくて魔獣らしいよ。

 見た事ないけど、まあ、魔女と同種なんだろうね」

 

 負の感情が凝り固まり、瘴気となって臨界点を越えると、魔獣という形になる。

 が、瘴気となる前に魔女の卵が孵化する為に蓄えてしまうので、魔獣の発生率が低い。

 と、ナマモノから聞いていた。

 さて、オレがそうなるのは、魔人なのでほぼ確定。覆す方法は一つで。

 

「なる前に死ぬのが理想かな」

 

 生きるモノの、最後の答えは決まっているなら。

 

「魔女みたいに、呪いと絶望を振りまくのって、笑えなさそうだし」

 

 それでも、未来は不確定。生き詰ったオレですら、可能性は零ではない。

 

「まあ、未来がどうなるかなんて、今のオレには解らないし、知ったこっちゃないけど。

 もし、魔獣になっちゃったら。

 佐倉先輩に退治して欲しいかな」

 

 きっと、これが理想系。最も幸せな逝き方。

 

「魔獣になって、見ず知らずの魔法少女に狩られるより。

 佐倉先輩に殺して貰った方が、逝き方としては幸せだと思うんだが、どうよ?」

 

 それでもきっと“人として終わってる”考え方なんだろうなと思いつつ。

 これがオレなんだから、終わってる。

 

「前の話題に戻るけど。

 ね? オレに恋人は“相応しくない”だろう?

 答えは一つ。Answer Deadだ。

 たった一度だけ。それがAnswer Deadだ。

 たった一度しか死ねないのなら。

 オレは、恋人に殺して欲しい。

 ホント、我ながらに情けない。

 そんなの、笑えるはずが無いって理解してるはずなのに、な」

 

 それでも、答えが一つでも。

 そこに至る()は、一つじゃない。

 きっと、それこそが可能性で。きっと、それこそが生きるって事で。

 だから、オレにとって最高の“答え”は。

 

 

 

 

 

 

 恋焦がれる相手に、終わりを告げて貰える事かな、なんて。




次回予告

全ての役者が揃い、時間が流れる意味

状況の変化 状態の変化 情勢の変化

一つ、一つを、順番に

だけれど、時間は待つ事はない








そんな、最も長い一日がはじまる

そんな、最も長い一日でおわる








見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)

百三十一章 私はあの子を知っている

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