無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「泊まっていく?」
「勘弁してください、マジで」


十二章 調子が狂いっぱなしだ

SIDE 群雲琢磨

 

 初めての、魔法少女との邂逅。

 それは、得るものばかりの、幸せな時だったと、言えるかもしれない。

 巴マミ。

 鹿目まどか。

 暁美ほむら。

 見滝原の魔法少女達は、オレが今まで生きてきた中で、最も優しい人達だった。

 

 三人全員が“誰かの為に戦っている”のだ。

 “自分の為だけに戦っている”オレからすれば、眩し過ぎる。

 まあ、オレは後悔している訳ではない。

 ただ――――羨ましかったのだ。

 

「どうにも、調子が狂いっぱなしだ」

 

 呟いたオレは今、一人で工事中のビル現場の屋上にいる。

 あの後、もうすぐ夜なので御暇しようとしたら、夕食に誘われた挙句、泊まっていかないかと巴先輩に誘われました。

 断りましたよ、嘘ついて。

「実は、宿は予約済みなんですよ」とか言って。

 ……なんとなく、ばれてそうな気がしなくもない。

 そもそも、かわいい先輩三人と一緒にいる時点で、オレの精神が羞恥でマッハ。

 ……かわいいよねぇ……。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 自分以外の魔法少女との共闘は、充分オレの為になる。

 なので、オレは巴先輩の提案を承諾する事にした。

 ……むしろ、綺麗な先輩に誘われてるんだから、断る理由なんざ捨ててしまえと小一時間……。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 自分にとって、想像し得なかった、魔法の使い方。

 無論、願いによって魔法が変わるのだから、戦い方も千差万別。

 なればこそ、他の魔法少女の戦いから、自分の戦い方の参考にし、発展させる事も可能なはずだ。

 ぶっちゃけパクr

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 ……かぁいいよねぇ……。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 ナマモn……キュゥべえが今、この街にいるのも、留まるのに値する理由でもある。

 今までは、GS(グリーフシード)回収ぐらいの接点しかなかったが、魔法少女や魔人を契約により生み出しているのは、他でもないキュゥべえなのだ。

 情報源として、これほど頼りになるモノもないだろう。

 ……むしろ、なんで今まで気付かなかった、オレェ……。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「だあぁぁぁぁぁ!!」

 

 ガリガリと、頭をかきむしる。

 不安定だ。どうにも、不安定だ。

 今日は、想定外な出来事が多すぎた。

 初めて、魔法少女に会った。

 初めて、自分以外の魔法を知った。

 初めて、他人と一緒に魔女と戦った。

 

 はじめて、優しさに触れた。

 

「自分が弱い事ぐらい、充分自覚しているつもりだったんだけどなぁ……」

 

 思わず、漏れた言葉に苦笑する。

 セカイが未知に溢れている事は、知っていた筈なのに。

 いや、むしろ知識としてしか、知らなかったからこそ。

 体験する事の、えげつなさを痛感する。

 むしろ、自分の小ささに打ちのめされるのだ。

 自分の為の願い。

 自分の為の戦い。

 契約し、再び生まれたあの日。

 

 自分だけは、自分のままに。

 

 そう割り切り、切り替え、動いていた筈だったのに。

 

「オレ、よえぇ~」

 

 三人の魔法少女に。

 自分は、容易く揺さぶられたのだ。

 

「切り替えろ、徹底的に」

 

 驚くほど低く、恐れるほど深く。

 自分の呟いた声色は、自分自身が、聞いたことの無いコエだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

 琢磨がこの街に来たのは、完全に偶然。

 魔法少女、魔人としての強さは、本人の因果律に起因する。

 故に、琢磨から得られるエネルギーは、魔法少女に比べると少ない。

 しかし、魔法少女以外の一般人に比べれば、幾許かは多い。

 ノルマ達成の為の、小銭拾い。

 その程度の価値しかない。

 いや、無かった、と言うべきか。

 当初、琢磨はそれほど長く、生き延びはしないだろうと予想していた。

 使い魔相手に、逃げ出すような少年だ。

 しかし、現実は違う。

 SG(ソウルジェム)が穢れきる事無く、今も“魔人”として、生き続けている。

 統計的に、魔法少女に比べ、魔人の方が圧倒的に“寿命が短い”。

 以前の契約者は十日弱で、命を落としているのだ。

 なにより“魔女”にならない“魔人”では“GS(グリーフシード)を孕む事が出来ない”。

 これが、魔人が少ない最大の理由である。

 故に、キュゥべえと琢磨が契約したのは、全くの偶然。

 あの日、あの場所で出会わなければ、在り得なかった現実。

 

「でもこれで、皆の“絶望の切っ掛け”が出来たかな」

 

 琢磨が魔人から魔王になれば、三人の魔法少女も絶望に穢れるだろう。

 マミはどうやら、琢磨を気に掛けているようだし、可能性は高い。

 

「わけがわからないよ」

 

 一個人の死に、どうしてこだわるのか。

 だが、統計として、近しい者への不条理な現実ほど、絶望が深い。

 

「頑張って魔王になってね。

 尤も、本来は“魔王”という呼び方ではないのだけど」

 

 

 

 

 

SIDE 鹿目まどか

 

「群雲くん……かぁ……」

 

 自分のベッドの中で、一人呟く。

 キュゥべえと契約した男の子。

 魔女や使い魔との戦いから、とても強い子だと思った。

 

「かわいいだって」

 

 でも、年下の男の子。

 女の子と会話した事が無いからと、照れてしまうような子。

 キュゥべえにそぉい!ってやってる姿は、どう見ても照れ隠し。

 タツヤみたいな、可愛い弟って感じがした。

 

「でも……頭が良くて、冷たい子」

 

 キュゥべえの言葉から、即座に会った事の無い“先輩”を言い当てた。

 誰かの危険を、知った事ではないと、当然のように言い放った。

 

「優しくない訳じゃない……」

 

 マミさんの言ったように、私達を助けてくれたし、GS(グリーフシード)も譲ってくれた。

 

「よくわかんない……不思議な子」

 

 それが、群雲くんの印象。

 強くて、子供で、冷たくて、優しそう。

 でも、一番感じたのは

 

「……遠い……」

 

 距離がある、とでも言えばいいのか。

 近付いて来てくれない。

 むしろ、逃げようとしている。

 そんな、感じ。

 でも……なにから?

 

「また……明日…………」

 

 群雲くんも、一緒に戦ってくれる。

 なら、その時に確認してみよう。

 そんな事を考えながら、私は睡魔に身を委ねた。




次回予告

戦う事を定められても
それしか、してはいけない訳ではない

戦う事を望んでいたとしても
それ以外を、望んではいけない訳ではない

だが、それから逃げる事は許されず
それ以外が、手に入るとは限らない





十三章 よく解らない子だ

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