無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

141 / 173
「聞いても良いかい?」
「どした、ナマモノ?」
「前書き、いるかな?」
「メタいな、おい。
 まあ、今更止めるわけにもいかないだろ」
「そんなものか」
「そんなものさ」

「聞いても良いかい?」
「どした、ナマモノ?」
「どうして、サブタイトルと内容がかけ離れてたりするんだろうね?」
「サブタイトルは“本文内から”という縛りプレイ中だからな、イヤン」
「つまり、あえてギャップのありそうなものをチョイスしているのか」
「あるいは、重要な言葉から、だな。
 ちなみに、選定基準はその日の気分」
「わけがわからないよ」
「この辺は“今の自分を柱として生きるオレ”にあわせてのものらしいぞ」
「厄介だよね、琢磨も」
「わけがわからないよ」


百三十四章 読書が好き

SIDE out

 

 見滝原郊外に位置する、寂れた教会。

 千歳ゆまは一人で、この場所を訪れていた。

 

 ここでの模擬戦。戦った記憶。会話した内容。

 それを思い出し、自分に足りないものは何かを探る。

 佐倉杏子。巴マミ。群雲琢磨。

 三人の先輩は確実に、ゆまの成長を促進させていた。

 

「み~つけた」

 

 教会を見上げていたゆまの背後からの声に、慌てて振り返る。

 その視線の先にいたのは………………呉キリカだった。

 

 

 

 

 呉キリカは魔法少女を狩っていた。

 織莉子の指示でターゲットを定め、自身の魔法を最大限に利用して。その殆どを不意打ちで仕留めてきていた。

 しかし、先日の銃闘士との戦い。

 正面からの勝負において、呉キリカは自分の弱さを目の当たりにする。

 織莉子が来てくれなければ、助からなかっただろう。

 それではだめだ。それではだめなのだ。

 弱いままでは、織莉子に無限に尽くせない。

 強く、ならなければ。もっと強く。二度と無様な姿を織莉子に見せない為に。満足いくまで、織莉子と共にいられるように。

 

 だから今回の魔法少女狩りは、正面から行くと決めていた。

 

「おね~さん、だれ?」

「魔法少女狩り」

 

 ゆまの質問に、キリカは簡潔に答える。その答えにゆまの表情が強張る。

 

「織莉子の為に。私の為に。

 狩られてもらうよ」

「……ゆま、負けないよ!」

 

 強くなりたい。強くならなければ。大切な人の傍にいる為に。

 そんな二人の魔法少女が、同時に変身して対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドロレス。ストロベリーカップ。銀世界。プリンセスダイアナ」

「薔薇が好きなの?」

「読書が好きなの。

 知識を得ている間、考えている間は“嫌な思い出を片隅に追いやれる”し。

 記憶はいつでも、好きな時に取り出せるもんでね」

 

 同時刻。美国邸の庭。設置されたテーブルにある紅茶を飲みながら。

 美国織莉子と群雲琢磨の“探り合い”は始まっていた。

 

「これだけの種類の薔薇。揃えるのは大変だっただろうね」

「お父様の趣味よ」

「なるほど。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 群雲のその言葉に、織莉子の表情が驚愕に彩られる。それを無視して、群雲は言葉を続ける。

 

「その上、ばれそうになったら死に逃げる。

 なんで、議員になれたんだろうねぇ?

 まあ、真っ当な方法じゃないのは想像に難しくないわけだが」

 

 さも、世間話をするかのような口調と声色で。群雲は死者を貶し、蔑み、冒涜する。

 

「……どうしてそれを?」

 

 目つきがきつくなった織莉子の怒気を受け流し、群雲は紅茶を飲み干す。

 

「言ったろ?

 読書が好きだって。

 当然、それには新聞も含まれているし。

 記憶した記録はいつでも取り出せる」

 

 <電気操作(Electrical Communication)>で、脳を操作すれば容易い。

 通常、人間は全ての記憶を意識的に思い出すことは出来ない。

 全てを意識的に記憶していたら、脳に掛かる負担は想像に難しくないだろう。

 その為、無意識というカテゴリで記憶される事が大半を占める。

 街中で擦れ違う全ての人を記憶する事は出来ない。だが、もしかしたら見た事あるかもしれない。なんて現象は無意識に記憶されている事が、無自覚的に呼び起こされた為に起きているという説もある。

 

 <電気操作(Electrical Communication)>で脳を操作する事で“無意識を意識的に操作”出来る群雲にとって、流し読み程度の事すらも明確に引っ張り出す事が出来る。

 当然、脳自体に負担は掛かるが、それすら魔力で“修理”出来る事を、群雲は知っていた。

 

 美国織莉子。フルネームが解れば、そこから戸籍を<オレだけの世界(Look at Me)>で盗み読み、家族構成を把握。

 父親が犯罪者ならば、当然その名前を“無意識の中から、いつ見たのか”を引っ張り出せば、過去の事件に辿り着くのは容易なのである。

 

「親が親なら、娘も娘。

 魔法少女を増やしたり減らしたりと、わけがわからない」

 

 電子タバコを咥え、深呼吸をひとつ。群雲はその言葉で、織莉子の心を削っていく。

 

「それで、何を言いたいのかしら、殲滅屍(ウィキッドデリート)?」

 

 しかし、白い魔法少女がそのままでいるはずもない。

 確かに群雲琢磨(ウィキッドデリート)は、織莉子の“過去”を調べ、そこから追い詰めようと目論んだ。

 この少年が“自らを敵とする存在に、容赦するはずも無い”のだ。

 

 しかし、織莉子の心は折れない。折れるはずが無い。

 群雲は、織莉子の過去を調べた。だが、織莉子が見据えるのは“未来”なのだ。

 

 揺さぶるだけ無駄。そう判断した群雲が口を開く前に。

 織莉子の言葉が紡がれる。

 

「そういう貴方はどうなの?

 自分が唯一の魔人。

 “誰よりも特定されやすい契約者”だと知った上で、見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)をキュゥべえに頼んで流布してもらった。

 自分が見滝原にいる事を“宣伝”するかのように。

 当然、貴方の目的はそこにはないのでしょうね」

 

 その言葉に答えず、群雲は電子タバコを咥える。

 

「まるで“本当の目的を隠す為に、解り易い情報を大げさにしている”ようよね?」

 

 群雲琢磨は、自分の為に生きる。

 常日頃からそう言っているし、当然キュゥべえも知っている。

 キュゥべえから“魔人”の情報を聞き出そうとすると、当然のようにその情報が出てくる。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 実際に織莉子は、魔人の事を聞いた時に、答えられている。

『自分の為に動く事を信条としている少年だ』と。

 

 

 

 

 自分達の知る情報は、本当の目的を隠す為の(デコイ)なのではないか。

 奇しくも、二人の考えは。

 立場こそ違えど“一致している”のである。

 

 

 

 しかし、織莉子は一歩先を行っている。彼女は未来を知りうるのだ。

 終焉の世界で嗤う少年を織っているのである。

 

 絶望の未来を回避しようとする織莉子にとって。

 群雲琢磨は、敵でしかありえないのだ。

 崩壊した見滝原で哂う存在など。

 敵以外には、ありえないのである。

 

「ふむ……交渉は決裂かな?」

「交わってすら、いなかったわね」

 

 二人は同時に、椅子から立ち上がる。

 

 変身はすでに終えていた。

 

 

 

 

「排除させてもらうわ」

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

もはや、戦う以外の選択肢は残されていない

善も 悪も 正も 負も

戦いにおいて重要なのは、そんなクダラナイモノなどではない



肉体 精神 魂 意識 




重要なのは、その力


百三十五章 実力伯仲

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。