無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「どんな状況であれ」
「求めた結果が得られるのなら」
「それ以外は知ったこっちゃ無いね」




































「真似してみたけど、琢磨っぽかったかい?」


百三十五章 実力伯仲

SIDE out

 

 呉キリカは攻めあぐねていた。

 

 先日の銃闘士と殲滅屍を相手にした戦いにおいて、キリカは完全に敗北していた。

 生き延びられたのは、織莉子の存在があってこそ。

 故に、自らはもっと強くならなければならない。

 そんな、強迫観念にも似た想いが、キリカにはあった。

 

 だからこそ、銃闘士の仲間であるゆまをターゲットに希望し、織莉子の許可を得た。

 

 速度低下により、動きの鈍くなった相手を切り裂く。何度も行ってきた行為。

 しかし、その大半を“不意打ち”で仕留めてきたキリカには“魔女との戦闘経験”はあっても“魔法少女との()()()()”は少なかったのである。

 実際、銃闘士(アルマ・フチーレ)を仕留める事は出来ず、殲滅屍(ウィキッドデリート)には追い詰められるという失態を晒した。

 

 

 

 今回こそは。

 そう意気込んだキリカだったが、ゆまを相手に苦戦を強いられている。

 

 キリカの魔法は速度低下である。停止ではない。だがそれ以上に。

 

 

 

 

 

 速度を落としても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 

 

 

 加えて、衝撃波を遅くするという事は“衝撃を受ける時間も長くなる”事を意味する。

 鉤爪を武器とするキリカは、近づかなければならないが、自らの魔法がその枷になってしまっていた。

 

 

 

 

 

 結果、呉キリカは攻めあぐねていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千歳ゆまは攻めあぐねていた。

 

 速度低下の影響下にあるゆまにとって、キリカはとても“速い”存在となる。

 そうなれば、如何に相手を得意な間合いに入れさせないか。この点が重要となる。

 高速度を主武器とする群雲を打倒目標としているゆまにとって、キリカは“同種”の敵と言えた。

 

 では、打倒する手段があるのかどうか? 答えは否である。

 あるのなら、ゆまは群雲討伐を成し遂げているだろう。

 

 現状、ゆまの最強攻撃は“ハンマーと衝撃波の同時、波状攻撃”となる。

 それを成すには“ハンマーの間合いに入る”事が絶対条件。

 しかし、群雲をして“速度では敵わなかった”と言わしめる程、キリカは速い。

 ハンマーの間合いに入る事は同時に、キリカの鉤爪の間合いに入る事を意味する。

 

 

 

 

 結果、千歳ゆまは攻めあぐねていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実力伯仲。否。互いの戦闘相性は互いに最悪であると言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大豪邸。そんな言葉がぴったりな美国邸の中に逃げ込む。廊下の角に背を預け、群雲は電子タバコを咥えたまま深呼吸した。

 漂い、消えていく白煙を見ながら。

 

 群雲琢磨は、焦っていた。

 

「笑えねぇな、マジで」

 

 実力伯仲なんて言葉が遠すぎるほどの劣勢だった。

 銃やナイフ。日本刀に徒手空拳。全ての攻撃を完全に回避され。

 織莉子の生み出した水晶球は、一発も外れる事無く命中していた。

 肉体を道具として割り切り、ダメージをダメージと認識しない事で擬似的高耐久を実践する群雲でなければ、とうに終わっていただろう。

 

 しかし、重要なのはそんな事じゃない。

 百発百中に絶対回避。通常であれば有り得ない。

 

「だが、これが現実……」

 

 むしろ、自分で魔法少女狩ってた方が効率良かったんじゃないかと。

 そう思えるほどに劣勢。戦闘ですらない、一方的な虐殺。

 勝てるビジョンが見えるわけは無く、観えているのは敗北の一点のみ。

 

「ま、大人しく殺されてなんてやらないけど」

 

 一言呟き、群雲琢磨は思考に沈む。

 自らの持つ情報を纏めていく。

 

 キュゥべえを誘導し、ゆまを契約させた織莉子。呉キリカに指示を出し、魔法少女を狩っていた織莉子。

 自らを敵と定めた織莉子。むしろ“自分だけを敵”だとしている節もある。

 

「完璧じゃない。完璧なはずが無い」

 

 そんなものはない。そんなモノは存在しない。それがあるのなら、きっと世界は今よりも優しい。

 あるはずなのだ。付け入る隙が。あるはずなのだ。

 

 

 

 だが、わからない。群雲琢磨には見えていない。

 そして、時間が止まっているわけでもない。状況は常に動いている。

 思考に没頭して、無様な隙を晒すのも馬鹿げている。

 群雲はそっと、顔を覗かせて織莉子を確認しようとして。

 

「がっ!?」

 

 その直後、織莉子の水晶球が群雲の左目を捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「くっそっ!?」

 

 痛覚は遮断している。重要なのは左目だという事実。右目に眼帯をしているオレにしてみれば、完全に視界を塞がれたのと同義。

 数瞬前に見た廊下の状況を思い出しながら、オレは壁に手を添えながら暗闇を進む。

 ほどなく、記憶の通りにドアノブにぶつかり、音を立てないように扉を開けて潜り込む。

 同じく、音を立てないように扉を閉めて、オレはそのまま背を預けた。

 

 何だ今の!? 攻撃が的確すぎるだろっ!!

 顔を覗かせるのと、ほぼ同時に直撃。どんだけ正確無比だよっ!!!!

 

 咥えた電子タバコで深呼吸。この状況下で冷静さを失う事は愚策。

 

 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。

 自然に考えるな違和感を抽出しろ抜粋してまとめろ自分の中で形にしろ。

 

 美国織莉子に関する情報を吟味しろ。

 

 魔法少女を増やす為に、美国織莉子はナマモノを先導していた。

 魔法少女を狩るように、美国織莉子は呉キリカに指示を出していた。

 

 そもそもこれは、本当に“囮の情報”なのか?

 

 過程を仮定しろ。情報は零ではないのだ。

 

 

 

 

 ふと、何かがすっぽりと収まった。きっちりとあるべき所に収まった。そんな戯言。

 

 美国織莉子は魔法少女になれる少女の存在を、どうやって知った?

 美国織莉子は呉キリカが狩れる魔法少女の実力を、どうやって知った?

 

 出会ってすらいないオレが“敵”だと、どうやって知った?

 そもそも、オレと呉キリカが戦っていた魔女結界の場所はどうやって?

 

 インターホンを押す前に、美国織莉子は念話を送ってきた。

 呉キリカを追い詰めるオレの『短剣思考(Knife of Liberty)』に、即座に対応してみせた。

 

 ゆまが魔法少女になるように、誘導した。これは“佐倉先輩と行動を共にしていたからこそ”の筈だ。

 それを、どうやって美国織莉子は知りえたのか。

 

 そうだ。オレはすでに疑問に思っていたじゃないか。

 美国先輩の能力を、ある程度絞り込んでいたじゃないか。

 

 “呉先輩の魔法では、魔法少女を誘き寄せる事は出来ない”

 

 だが“誘き寄せる類の能力ではない”のだ。

 そういった“洗脳系”であるならば、敵対者を“戦う事無く無力化”出来る。

 故に、この仮定ではない。この戯言は虚言だ。

 

 しかし、しかしだ。

 発覚の遅れた魔法少女狩り。黒い魔法少女の凶行。

 “それを成しうる”のは“美国織莉子(共犯者)の能力”なのだと、オレは仮定した。 

 

 説明する事が出来る。

 

 たった一つの言葉で全ての疑問に答える事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【識っていたから】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美国織莉子は識っていた。ゆまが魔法少女になる事を。

 美国織莉子は識っていた。呉先輩が魔法少女を狩れる事を。

 美国織莉子は識っていた。オレが、呉先輩を追い詰める事を。

 美国織莉子は識っていた。オレが、敵になる事を。

 美国織莉子は識っていた。今日、オレが来る事を。

 美国織莉子は識っていた。オレがどう攻撃するのかを。

 美国織莉子は識っていた。オレが、どう回避しようとするのかを。

 美国織莉子は識っていた。オレが、顔を覗かせる事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『未来予知』

 

 それが、美国織莉子という魔法少女の根源……!!

 

 未来を知っていた。否、未来を知っていなければ、説明出来ない事柄が多すぎる。

 

 証拠があるわけじゃない。だが、これがおそらく“最も真実に近い戯言”だろう。

 そうと決まれば話ははやい。だったら……。

 

 だったら…………。

 

 

 

 だったら………………。

 

 

 

 

 

「あれ? 詰んでね?」




次回予告




考える事に特化した果てに

考える事を縛り付けた少年







大切な人に尽くし尽くす為に

尽くす事に縛られた少女










大切な人と一緒に歩く為に

歩く事を無理矢理に行う少女



















望む未来を手にする為に


手にするモノを望んだ少女




















あぁ……どこまでも不完全な




















百三十六章 水しょ

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