無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「誤字じゃないよ?」
「いきなりメタいな、ナマモノ」
「言っておかないと、誤解されそうだからね」
「もうやめて! 作者の精神(ライフ)はゼロよ!!」
「過ちがあったのなら、即座に訂正し、対処すればいいのに。
 本当に、人間の感情は、わけがわからないよ」


百三十六章 水しょ

SIDE out

 

 永遠に続く均衡は無く。永遠に続く闘劇は無い。

 

 誰だって、死にたくなんてない。だからこそ、戦いにおいて重要視されるのは“自己の安否”である。

 ゆまもキリカも、それを優先しているからこそ、攻めあぐねていた。

 

 しかし、そのままでは意味がない。戦況も戦局も動かない。

 

 

 

 

 ある意味、必然であったのだ。

 二人が同時に、行動を起こす事が。

 

 二人共が、大切な人の為に力を求めていたが故に。

 ある意味、必然であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時に間合いを詰める為に駆け出した二人は、相手の行動に一瞬面食らう。

 しかし、止まらない。止まるわけには行かない。ここで止まる事は、大切な人を諦める事と同義。

 

 織莉子の為に。杏子の為に。

 立場こそ、圧倒的に違う。しかし、その心にある思いは同一であったのだ。

 

 

 

 

 間合いを詰める勢いのまま、二人は自らの武器を横なぎに振るう。

 

「はあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「たあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 一瞬の交差。二人は勢いをそのままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 受身を取る事無く転がり、地面に倒れ伏す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝突などなかったかのように。

 静寂が、辺りを包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 未来予知。それは言うなれば、絶対的な先手。

 読み合いなんて事をするまでもない、絶対的優位。

 

「考えれば考えるほど……状況は最悪だなぁ」

 

 煙を吐き出しながら、オレは苦笑する。

 

 突き詰めれば“勝利する事を識っているからこそ、美国先輩はオレと戦っている”訳だ。

 美国邸に来た時点で、オレの敗北は決定したと言っても、過言ではないんだろう。

 

 オレが、未来予知出来ると仮定するなら。

 

 “勝てない勝負は回避する”

 “勝てる勝負を回避しない”

 

 それだけの事。それ故に重い。

 

「手詰まりだな……」

 

 奇を衒う。それすらも“予知の範囲内”であるのなら、無価値。

 白い魔法少女(みずから)の存在を巧みに隠し、魔法少女狩りを行ってきたのだ。

 “(オレ)”との戦いに万全でない筈がない。

 

 美国織莉子は予知した(識っている)のだ。完全なる勝利を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 即ち“群雲琢磨(ウィキッドデリート)の殺害”を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女狩り(殺人行為)を指示する存在が“敵を退ける”だけで済ますはずがない。

 

楽観視(望み)なんて、あるわけないわな……」

 

 呟いた自分の言葉。なるほど、これが絶望か……。

 

 これが

 

 

 

 

 絶望

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「考えろ群雲琢磨。

 【オレ】は【まだ】【死んで】【無い】だろう?」

 

 絶望ってなんだ? 【望】みが【絶】たれる事?

 

 【オレの望みはなんだった?】【オレが叶えた希望は】【絶たれてなどいない】

 

 【そうだ】【考えろ】【思い出せ】【記憶された記録を】【全て】【呼び起こせ】

 

「【完璧】【そんな能力は】【存在しない】」

 

 【美国織莉子が】【完璧だったなら】【そもそも】【呉キリカを】【使う必要など無い】

 

 深呼吸するように、煙を肺の中に入れる。それだけの行為が、全身の血液を意識させる。その流れが脳に集約されていき、思考が嗜好によって活性化する。そんな、戯言。

 

「12歳の思考じゃねぇっての」

 

 苦笑しながら、オレは電子タバコを吸い、煙を吐き出す。

 

 

 【はて?】【オレは】【12歳】【だったか?】

 

 

 脳裏に浮かんだ不可思議な疑問は、どうしたって【今】【必要な事ではない】

 

「【魔法少女狩り】【黒い魔法少女】【呉キリカ】【千歳ゆま】【白い魔法少女】【ナマモノ】【佐倉杏子】」

 

 【言葉にして認識しながら】【オレは情報をまとめていく】

 

「【美国織莉子の能力が】【未来予知ならば】【説明出来る事】」

「【魔法少女狩り】【発覚が遅れた上に】【容疑者の特定も容易ではなかった】」

「【呉キリカ】【黒い魔法少女が】【魔法少女を狩れる】【その未来を見た上で】【指示を出していたのなら】【説明可能】」

「【千歳ゆま】【魔法少女になる存在】【その未来を見た上で】【ナマモノを先導した】」

 

 【こう考えれば】【未来予知という能力を持つ】【その仮定を後押しする】

 

「【群雲琢磨】【オレが敵になる】【その未来を見たからこそ】【美国先輩は“最初からオレを敵と認識していた“事になる】」

 

 【会った事のないオレを】【明確に敵としていたのだ】【そう考えるのが自然か】

 

 【ナマモノから魔人の事を聞いていた】【それだけでオレを敵とするには弱い】【明確にオレが敵である“未来”を識った】【だからこその】【殲滅屍(ウィキッドデリート)

 

「【殲滅する屍】【魔女を削除】【確かにぴったりかもな】」

 

 【はたしてオレは一体】【未来で何をやらかすんだろうか】【知ったこっちゃ無い】【むしろ知りようが無い】

 

「【情報が少なすぎる】【今回が二度目だし】【当然なんだが】」

 

 【そもそも】【オレが死ぬ】【これが確定した未来】【だからこそ美国先輩は】【今】【オレと戦ってる訳で】

 

「…………………………ん?」

 

 【なにか】【引っかかる】【何だ?】【思い出せ】【最初に美国先輩と会った時】【ここに来て】【美国先輩とした会話】【一方的な百発百中】【気力が削がれる絶対回避】【魔法少女という存在】【魔女という存在】【魔人という存在】【殲滅屍(ウィキッドデリート)】【群雲琢磨】

 

「あった……!!」

 

 状況を打破する手段。一つだけ思いついた。思い付けた!!

 

「あったけど……なぁ」

 

 マジデスカ。いや、他に思い付けるとも限らないから、やるしかないんだけど。

 

「まいったねぇ」

 

 言いながら、オレは入ってきた扉から離れて、電子タバコを一服。

 右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>にタバコを入れて、そのまま右手の平を眼帯に押し当てる。

 そのまま、眼帯も収納して軽く首を回す。

 ふと、右側に鏡があるのを見つけた。全身が見えるその鏡には当然、オレがいる。ふむ、左目の“修理”は滞りなく終わったか。

 僅かに持ち上がった白髪。緑の軍服に両手足を染める黒。緑の右目に黒い左目。まごうことなく群雲琢磨くんです。

 その口の端は持ち上がっていた。笑ってるのか。オレは。

 

「狂ってるよな、やっぱ」

 

 緑の義眼で、世界は見えない。左半分の世界。世界の半分を代償に。オレは何を得て。それ以上にナニを失ったのか。うん、らしくないな。笑っていられるのなら、これもまた“絶望じゃない”って事だ。

 

「さて、逝くか」

 

 一言呟き、オレは動き出す。全力で扉を蹴破り、美国先輩がいるであろう方向に体の正面を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある意味予想通りで。ある意味想像以上の光景が、そこには広がっていた。

 

 そこにあったのは、視界を埋め尽くすほどの、大量の水しょ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

「やあ」

 

 マミの住むアパートの一室。目を覚ましたばかりの杏子に、僕は告げた。

 

「どうやら、最悪の状況みたいだよ」




次回予告

最悪 最も悪いコト

それを、想像できるのなら















それ以上は無いと、断言出来るのかい?
















百三十七章 惨敗

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