「時に、感情の強さが、あらゆるものを凌駕する」
「その感情に救われているのも確かだけれど」
「まったく、わけがわからないよ」
SIDE out
見滝原郊外に存在する、忘れ去られた教会だったモノ。
そこには、二人の少女が倒れ伏していた。
「…………ぐっ!?」
内臓を搾り出すかのような声を上げ、体を動かしたのは
呉キリカだった。
双方が突進状態での横薙ぎ。不幸な偶然が必然を呼び、この結果はあった。
呉キリカの
二人の攻撃は、相手の攻撃を防ぐ事は無く。突進も止まる事は無く。
不幸にも、
腕の延長のように伸びる、キリカの鉤爪はゆまの
ゆまのハンマーは、キリカの
しかし、ゆまの攻撃はハンマーだけではない。放たれた衝撃波は、キリカの
明暗を分けたのは、キリカの魔法。
対象の速度低下。
ゆま自身の速度が落ちていたからこそ、キリカの鉤爪は
ゆま自身の速度が墜ちていたからこそ、ゆまの衝撃波は
衝撃波という“見えない壁”で攻撃と防御を同時に行っていたゆま。
あと一秒。いや、それ以下の時間。ゆまの
そんな、紙一重だった。
「織莉子……おりこぉ…………」
しかし。無事。とも言えなかった。
満足に動かせない体を、心がバラバラになるような苦痛を。
織莉子への想いだけで、キリカは耐え、立ち上がった。
「はやく……おりこのいれた……こうちゃがのみたいよ…………」
SIDE インキュベーター
「惨敗、だね」
美国邸の廊下。そこでおきた惨劇を、窓から離れた位置で僕は確認していた。
荒い息を吐く織莉子と、足元に転がる“頭部が完全に潰され、原形を留めていない屍”は、結果を顕著に表している。
「やれやれ」
このような形で殺されてしまっては“僕達はエネルギーを回収出来ない”じゃないか。やはり織莉子は近い内に、キリカ共々“処分”しないと、効率が落ちてしまうね。
「織莉子の能力は解った。
さすがに“未来予知”に対抗するのは、困難だね」
その結果が“あの惨劇”なのだ。織莉子は自身の能力をしっかりと把握し、的確に使いこなしている。
「君の見た未来を得る為に。
或いは、君の見た未来を回避する為に。
君は動いているんだね」
それが“ナニ”か解らない。しかし、僕らの
「まったく……人間の考える事は理解できないよ」
観察していた織莉子が突然、顔を蒼白にして座り込んだ。その瞳から涙を流し、呆然としている。
どうやら、なにかを“予知”したらしいね。しかし、それを確認しに行くつもりはない。僕は僕で、やらなければならない事が出来てしまったからね。
しばらく、座り込んでいた織莉子は、変身状態のまま立ち上がり、
そのまま引き摺りながら廊下を駆けていった。
「希有な存在とはいえ、流石の琢磨でも未来予知が相手では荷が重かったかな」
引き摺られていった貴重なサンプルは、前例の無い事を成しえた“異物”だ。屍を回収して、研究する価値は充分にある。僕としては、琢磨が勝利してくれた方が利益としては大きかっただけに、残念だ。
もっとも、琢磨が異常なだけであって、元々“魔人”という存在は“
琢磨の生き方が、生存率の上昇に直結した、効率的な生き方だったからこそ、二年近くも生き長らえたんだろう。
家の外に出てきた織莉子は、引き摺っていた屍を、植え込みに隠すように放り投げた。こんな所に死体があったら、社会的に問題だからね。少しでも人目の付かない所に隠しておきたいんだろう。
それにしては、お粗末過ぎるけれど。
僕の存在に気付かず、織莉子はそのまま走り去っていった。
「やれやれ。
“複数の端末を駆使しなければならない”なんて、ね」
今頃、別の個体が杏子に状況を告げているはずだ。そして、この個体にはやるべき事がある。
「急いだ方がいいよ」
慌てて着替え、部屋を飛び出した杏子の背中に声を掛けた。どうやら届いてはいないようだ。
それに“間に合いそうに無い”ね。
キミだったら、この状況をどんな“戯言”で彩るんだろうね。
理解できない事が多い。
未来予知により、自身にとって“都合のいい未来へ向かって動いていた”織莉子だけれど。
どんな未来を見たら“キリカを用いた魔法少女狩り”に行き着くのか。
ゆまに関しても、契約する未来を知り、僕を向かわせたのは確定。
織莉子の行動は間違いなく“未来に直結している”はずだ。
それがどんな“未来”なのか。判断するだけの情報を、持ち合わせていない。
それだけではなく、行動が“不自然すぎる子”がいる。
あの子の行動を、織莉子はあくまでも“識った”のであって“そうなるように仕向けた”訳ではない。
「ふむ……どうやら間に合わなかったみたいだね」
別の個体が確認した光景を見て、僕は一斉に呟いた。
「残念だったね」
次回予告
噛み合った歯車に、止まるという選択肢は無い
事実がどう在れ 現実がどう荒れようとも
回る歯車を止める事は――――
百三十八章 怒涛の困難