無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「人間の感情とは、厄介なものだね」
「時に、感情の強さが、あらゆるものを凌駕する」
「その感情に救われているのも確かだけれど」
「まったく、わけがわからないよ」


百三十七章 惨敗

SIDE out

 

 見滝原郊外に存在する、忘れ去られた教会だったモノ。

 そこには、二人の少女が倒れ伏していた。

 

「…………ぐっ!?」

 

 内臓を搾り出すかのような声を上げ、体を動かしたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呉キリカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 双方が突進状態での横薙ぎ。不幸な偶然が必然を呼び、この結果はあった。

 呉キリカの(ソウルジェム)は腰の後ろにあり、千歳ゆまの(ソウルジェム)は首の後ろにある。

 二人の攻撃は、相手の攻撃を防ぐ事は無く。突進も止まる事は無く。

 不幸にも、SG(ソウルジェム)を射程に捉えていた。

 

 腕の延長のように伸びる、キリカの鉤爪はゆまのSG(ソウルジェム)を捉えていた。

 ゆまのハンマーは、キリカのSG(ソウルジェム)には届かなかった。

 

 しかし、ゆまの攻撃はハンマーだけではない。放たれた衝撃波は、キリカのSG(ソウルジェム)を捉えていた。

 

 明暗を分けたのは、キリカの魔法。

 

 

 対象の速度低下。

 

 

 ゆま自身の速度が落ちていたからこそ、キリカの鉤爪はSG(ソウルジェム)を完全に破壊した。

 ゆま自身の速度が墜ちていたからこそ、ゆまの衝撃波はSG(ソウルジェム)を破壊するには至らなかった。

 

 衝撃波という“見えない壁”で攻撃と防御を同時に行っていたゆま。

 あと一秒。いや、それ以下の時間。ゆまの魂が破壊されなければ(意識が保たれたなら)、放たれる衝撃波は確実に、キリカを殺して(魂を破壊して)いただろう。

 

 

 

 

 そんな、紙一重だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織莉子……おりこぉ…………」

 

 しかし。無事。とも言えなかった。

 

 破壊()こそ免れたとはいえ、ゆまの放った衝撃波は、キリカの(ソウルジェム)を傷付けるには充分すぎる威力があり。

 満足に動かせない体を、心がバラバラになるような苦痛を。

 

 織莉子への想いだけで、キリカは耐え、立ち上がった。

 

「はやく……おりこのいれた……こうちゃがのみたいよ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

「惨敗、だね」

 

 美国邸の廊下。そこでおきた惨劇を、窓から離れた位置で僕は確認していた。

 荒い息を吐く織莉子と、足元に転がる“頭部が完全に潰され、原形を留めていない屍”は、結果を顕著に表している。

 

「やれやれ」

 

 このような形で殺されてしまっては“僕達はエネルギーを回収出来ない”じゃないか。やはり織莉子は近い内に、キリカ共々“処分”しないと、効率が落ちてしまうね。

 

「織莉子の能力は解った。

 さすがに“未来予知”に対抗するのは、困難だね」

 

 その結果が“あの惨劇”なのだ。織莉子は自身の能力をしっかりと把握し、的確に使いこなしている。

 

「君の見た未来を得る為に。

 或いは、君の見た未来を回避する為に。

 君は動いているんだね」

 

 それが“ナニ”か解らない。しかし、僕らの存在意義(エネルギー回収)の妨げになるのは、これまでで実証されている。

 

「まったく……人間の考える事は理解できないよ」

 

 観察していた織莉子が突然、顔を蒼白にして座り込んだ。その瞳から涙を流し、呆然としている。

 どうやら、なにかを“予知”したらしいね。しかし、それを確認しに行くつもりはない。僕は僕で、やらなければならない事が出来てしまったからね。

 しばらく、座り込んでいた織莉子は、変身状態のまま立ち上がり、(琢磨)の足を取る。

 そのまま引き摺りながら廊下を駆けていった。

 

「希有な存在とはいえ、流石の琢磨でも未来予知が相手では荷が重かったかな」

 

 引き摺られていった貴重なサンプルは、前例の無い事を成しえた“異物”だ。屍を回収して、研究する価値は充分にある。僕としては、琢磨が勝利してくれた方が利益としては大きかっただけに、残念だ。

 もっとも、琢磨が異常なだけであって、元々“魔人”という存在は“魔法少女(高い素質)に至らない契約者”の総称。当然生存率も、魔人の方が圧倒的に低い。

 琢磨の生き方が、生存率の上昇に直結した、効率的な生き方だったからこそ、二年近くも生き長らえたんだろう。

 

 家の外に出てきた織莉子は、引き摺っていた屍を、植え込みに隠すように放り投げた。こんな所に死体があったら、社会的に問題だからね。少しでも人目の付かない所に隠しておきたいんだろう。

 それにしては、お粗末過ぎるけれど。

 僕の存在に気付かず、織莉子はそのまま走り去っていった。

 

「やれやれ。

 “複数の端末を駆使しなければならない”なんて、ね」

 

 今頃、別の個体が杏子に状況を告げているはずだ。そして、この個体にはやるべき事がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急いだ方がいいよ」

 

 慌てて着替え、部屋を飛び出した杏子の背中に声を掛けた。どうやら届いてはいないようだ。

 それに“間に合いそうに無い”ね。

 キミだったら、この状況をどんな“戯言”で彩るんだろうね。

 

 

 

 

 

 

 理解できない事が多い。

 

 未来予知により、自身にとって“都合のいい未来へ向かって動いていた”織莉子だけれど。

 どんな未来を見たら“キリカを用いた魔法少女狩り”に行き着くのか。

 ゆまに関しても、契約する未来を知り、僕を向かわせたのは確定。

 織莉子の行動は間違いなく“未来に直結している”はずだ。

 それがどんな“未来”なのか。判断するだけの情報を、持ち合わせていない。

 それだけではなく、行動が“不自然すぎる子”がいる。

 あの子の行動を、織莉子はあくまでも“識った”のであって“そうなるように仕向けた”訳ではない。

 

「ふむ……どうやら間に合わなかったみたいだね」

 

 別の個体が確認した光景を見て、僕は一斉に呟いた。

 

「残念だったね」




次回予告

噛み合った歯車に、止まるという選択肢は無い



事実がどう在れ 現実がどう荒れようとも



回る歯車を止める事は――――







百三十八章 怒涛の困難

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