無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「聞いてもいいかい?」
「本当に、質問が好きだな、ナマモノ」
「知識は、多い方が都合がいいからね」
「そんなもんか。
 で、なによ?」
「何故、抜刀術の名前に“風”を入れてるんだい?」
「割と、どうでもいい質問だったっ!?」
「そうかい?」
「特に、大きな理由がある訳でもないけど。
 電気と風って、接点がないじゃん?」
「ただの皮肉って事かい?」
「そ」
「わけがわからないよ」


百四十三章 無風

SIDE out

 

 一瞬の出来事だった。

 赤い結界に阻まれ、介入する事が出来ない巴マミにも、キュゥべえにも見えなかった。

 

 残されたのは結果だけ。『幻影』の一人が細切れになったという結果だけ。

 

 

 

 

 群雲琢磨の中で、何かが変わっていた。或いは、何も変わってなかったのかもしれなかった。

 ただ、群雲琢磨には見えているだけ。愛しの【彼女】が、見えているだけ。

 

 人の五感は、脳が支配する。脳が受け取る電気信号が、五感を司る。

 故に存在する“自分だけの世界”が、今の群雲の全てだった。

 たとえそれが“現実とは異なる事実”であったとしても。群雲琢磨は言うだろう。

 

 知ったこっちゃない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えば、林檎なんてどこにも無いのに【林檎がある】という電気信号が脳に届いたら。

 本人には【林檎が見える】事になる。どこにも、ありはしないのに、だ。

 今、群雲琢磨が【見て】いる【佐倉杏子】は、その類のモノなのか?

 それでもやはり、群雲琢磨は言うだろう。

 

 知ったこっちゃない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残った『幻影』を消して【佐倉杏子】は馬上で構えた。それに呼応するかのように、群雲もまた、構えを変えた。

 左手に持つ、鞘に収まった日本刀を地面と平行になるように横向きにしながら、その左手を前に突き出す。

 右手は柄を握り、目と同じ高さで正面に。

 

 決着の時。

 

 先輩魔法少女と、孵卵器が見守る中。

 

 逢瀬が、ついに、終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬を走らせ、迫る【佐倉杏子】に対し、限界まで動かなかった群雲。

 交差は一瞬。

 瞬きをする程度の一瞬で【二人】の位置は入れ替わっていた。

 

「あ……あぁ…………」

 

 その“惨状”に、マミは言葉にならない音を漏らす。

 

 順手で刀を抜き放った状態で静止する群雲。その体の中心には“穴”が開いており。

 いつの間にか、逆手に持ち替えていた魔女の長槍。その先に刺さるのは、未だに鼓動を続ける“心臓”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな、名付けるのなら」

 

 体に穴が開いたまま、群雲はゆっくりと姿勢を正し、告げた。

 

「終の太刀 無風」

 

 その言葉とほぼ同時。魔女の体が炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 速さで言えば、圧倒的にオレの方だった。

 繰り出した『無風』は確実に【彼女】を捉え、そのまま通り抜ける、筈だった。

 

 オレの方が速い。そう判断したんだろう【彼女】は、長槍を逆手に持って、後ろに突いた。

 結果、オレは後ろから貫かれる事になる。

 だが、構わず前進したオレは、見事に心臓を置き去りにしてしまった。

 いや、死なないけどね。まさか心臓持って行かれるとは思わず。やっぱ【彼女】は強い。

 

 ゆっくりと振り返った先。

 オレの心臓を大事そうに胸に抱える【彼女】がいた。

 

 汚れるだろうに。

 そんな事を思いながら、炎の中にいる【彼女】に見惚れてしまうのだから、たまらない。

 ふと【彼女】と視線が繋がる。左手で心臓を抱えたまま、右手でオレの方を指差す。

 その指の先を辿ったら、オレの持つ日本刀。

 

 その刀身が【黒】になっていた。

 

 いや、なんでさ? 柄の白に黒の刃。なんで刀身が変色してるわけ? なにかしたか、オレ?

 

 考えようと思ったが、それよりも重要な事がある。

 オレは視線を【彼女】へと戻した。

 日本刀も気になるが、オレにとっては【彼女】が最優先。

 

 再び繋がる、オレ達の視線。

 

「しょうがない奴だなぁ」

 

 そう言いたげな表情で、杏子は苦笑した。いや、人の心臓を大事そうに抱える貴女も相当よ?

 きっとオレも、杏子と同じような表情をしてるんだろうな。

 

 体に穴が開いてるオレと、炎に包まれている杏子。

 見つめ合っていた時間はどのぐらいだっただろう?

 長かったような気もするし、短かったような気もする。

 最後に、杏子は笑顔で手を振ると、オレに背を向けた。

 炎に包まれ、消えて良く杏子を、オレは最後まで見届けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、気がつけば教会の中。いかん、放心してた。

 オレは、ゆっくりと刀身が黒になった日本刀を鞘に納める。

 

 次の瞬間、鞘が粉々になった。

 

 ぇー、何それ~? 鞘ってのは刀身を納める物でしょうがよ~。

 刀身が黒になった影響か? どうすんだよ、この危険物。

 

 とりあえず、右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>にでも入れておくか?

 流石に“彼女を殺したモノ”を手放す気はないぞ?

 

 そう思った次の瞬間、オレの横に奇妙な“空間”が出来た。

 ワームホール? とでも言えばいいのだろうか?

 向こう側がまったく見えない、丸い“穴”が、オレの横に出来ていた。

 

 ここに入れろってか?

 

 日本刀を半分ほど突っ込んで、手を離す。ゆっくりと日本刀が吸い込まれて行って、最後に“穴”が閉じた。

 ……ぇー。これが“鞘”なのかー?

 検証、考察を重ねるべき事が増えた。マジカ。オレ、こう見えてかなり忙しいのに。

 

 見渡せば、荒廃した教会の中。すでに“結界”は無い。当然のように“彼女達の抜け殻”もない。

 替わりにあるのは、グリーフシード。愛した彼女の成れの果て。

 手放さないよ? 手放すはずがないだろう?

 GS(グリーフシード)を拾い、オレはそのまま右目に押し当てる。

 右目はオレのSG(ソウルジェム)。浄化して、魔力を回復させる。

 浄化を終えて、オレは手に持つGS(グリーフシード)を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コレヲ孵化サセタラ、モウイチド彼女ニアエルヨネ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん、清々しいほど狂ってますね、オレ。【彼女】に<部位倉庫(Parts Pocket)>に来て貰い、オレは入れ替える形で電子タバコを取り出し、口に咥える。

 

「さて、と」

 

 深呼吸した後、オレはゆっくりとした足取りで、先輩達の元へ。

 考える事を放棄したのか。考える許容量を超えているのか。

 巴先輩は呆然とした状態で、オレを見て。

 

 唐突に倒れた。

 

 あれ? 気絶?

 

「体に穴が開いてる人間が、平然と近づいてきたら、こうなるんじゃないかな?」

 

 ナマモノの言葉に、オレは“修理”をしてない事を思い出した。どんだけ【彼女】がオレを占めていたのか。

 

「やれやれ。

 未だに問題は山積みか。

 まいったねぇ」

 

 言いながら、オレはいつものように。或いはいつも以上に。口の端を持ち上げた。

 今、オレが笑えるのは、きっと。

 

 【彼女】を【オレのモノ】にしたからだろう。

 

 自分の中の“留め金”が、外れていく感覚を味わいながら。

 オレは、変身を解除した。




次回予告

ひとつの戦いが終わっても

物語は終わらない 終わらせる訳にはいかない





まだまだ





絶望に彩られるのは、これからだ






百四十四章 二人は、もう、いない















TIPS 魔法特性【無法】

イヤッッホォォォオオォオウ! 感想の方で、何故か個体名が決まっていたよ!!
ハイテンションキュゥべえ改め、ハジヶえだよ!!
賛辞をするなら、ケーヤクしてね!!



さあ、今回はたくちゃんの魔法特性を解説しよう!!
と言っても、ようはそのままなんだけどね!!
法則を無視する魔法 それが【無法】

全てに対し、平等に流れる『時間』の法則を無視し、自分の時だけを動かす<オレだけの世界(Look at Me)>

<電気操作(Electrical Communication)>も、根底にあるのは、人間が持ちえない“発電器官”によるもの
これは『人間』の法則を無視していると言えるね

<部位倉庫(Parts Pocket)>は当然『空間』の法則を無視しているわけさ

QEDならぬ、QBEだね!! だからボクだって言ってるでしょぉぉぉぉぉ!!!!


本来の法則を無視し、自らの望むモノを貫き穿つ
さっすがたくちゃんだ!! もちろん憧れないよ!!!!


だ・け・ど♪

ボク達がたくちゃんを【異物】と呼ぶ要素は こ れ で は な い
本編でも、何度か言ってるけど、たくちゃんってば【前例の無い事】をやっちゃってるんだよね
これに関しては、本編内で明かされるだろうから、期待しているといいよ!!































焦らしプレイ❤ いい言葉だよね❤

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