「なんだよ、ナマモノ」
「琢磨じゃなくて、読んでくれている人にさ」
「いきなりメタかった!?」
「今回はTIPSはないから、ハジヶえの出番もないよ」
「しかも、割とどうでも良かったっ!?」
SIDE out
マンションの一室。三角テーブルの前。絶望に翻弄される魔法少女が一人。絶望を正面から殴り飛ばす魔人が一人。
「【生きていれば】【死ぬ】【当然の摂理】」
言葉を紡ぐのは魔人。心があるのかないのか。自分自身ですら、希薄となりつつある少年。
「【死】【それは不可避】【人間も】【魔人も】【魔法少女も】【魔女も】【魔獣も】」
自分の事は、自分がよく解っている。それを言う奴ほど【自分の事が理解出来ていない】のだ。
「【不幸な事に】【死には】【色々な形がある】」
だからこそ。群雲琢磨は【括弧】を付ける。
「【魔女化】【これもまた】【死の形】」
対し、巴マミは翻弄され続けている。色々なモノに。
それをきっと、人は【運命】と呼ぶのだろう。
「【だからこそ】【生にもまた】【色々な形があるのさ】」
SIDE 巴マミ
私は、なにをしていたのだろう? 私は、なにをしてきたのだろう?
そんな問い掛けに、きっと意味なんて無い。
目の前の少年なら、きっと言うんでしょうね。
【知ったこっちゃない】って。
「【好きなように生きていいんだ】【実際オレは】【自分の為に生きている】」
「【好きなように生きていいんだ】【巴先輩がどう生きても】【誰も咎めたりはしない】」
「【罪なんて】【所詮は】【知らない誰かの決めた事】」
「【好きに生きられない清らかな生】【そんなモノよりもオレは】【罪を背負ってでも好きなように生きる】」
「【オレは】【群雲琢磨を】【一歩も譲らない】」
それは、とても危険な思想。琢磨君はそれを理解した上で、その道を往く。その道で逝く。
とても、私には真似出来そうに無い。
「魔法少女が魔女に成るなら、皆死ぬしかないの……?」
「【どうせ死ぬなら】【生まれてこなくてもいい】【そう言うのかい?】」
価値観の違い。考え方の違い。
私と琢磨君の、圧倒的な【世界】の違い。
「【魔女に成りたくない】【だから】【魔女に成る前に死ぬ】【それもまた】【形の一つ】」
「【魔法少女だけど】【戦いたくないなら】【戦わなくてもいい】【それもまた】【形の一つ】」
オレ達は自由だ。琢磨君はそう言っている。
以前にも、言われていたわ。
“魔法少女である事に縛られている”って。
でも、私には出来ない。そんな【生き方】なんて、出来ない。
「琢磨君は……どうするの?」
「【今まで通り】【変わらないよ】【オレは】【化け物になるのなら】【化け物になるまで】【群雲琢磨を続けるさ】」
わかった。わかってしまった。ようやく、理解できた。
限りなく、未来に絶望した、前向きな生き方。
化け物になるという【未来を無視した】生き方。
化け物になるという【事実を受け入れた】生き方。
化け物になるという【真実を諦めた】生き方。
それが、群雲琢磨なんだ。
「私には、無理よ……」
魔女になんてなりたくない。化け物になんかなりなくない!!
「無理する必要なんてない」
静かで、素直な声に、俯きかけた顔を上げる。
そこにいるのは、白髪の少年。私と共に過ごしてきた……【共に生きてきた】少年。
「正直、先輩に負担かけてるかなぁ~とか、思った事がないどころか有り過ぎるオレだけど」
右目を白い眼帯で覆い隠す、その少年は。
「無理して潰れる先輩とか、笑えないモノなんて見たくないさ」
自分の為と言いながらも、どこか優しい少年で。
「良いんだよ、先輩。
オレが自分中心に好き勝手してるんだから。
マミさんが、我侭言ったって良いんだ」
魔法少女になった私が手に入れた。
「だってオレ達は」
見滝原の銃闘士 なんだから。
見滝原で手にした家族 なんだから。
SIDE out
三角テーブルの中心。そこに置かれた巴マミの
「戦いたくないの」
小型のマスケット。その銃口を向けながら、巴マミは静かに呟く。
「魔女だって、殺したくない。
元魔法少女だって知ってしまった以上、もう私には魔女を殺す事なんて出来ない」
震える銃口を両手で押さえながら。その瞳に涙を浮かべながら。
「そして、魔女にもなりたくないの。
これ以上、私は誰かを不幸にしたくないの」
出した結論は――――――――――自殺。
それもまた【形の一つ】なのだった。
「前に、何かの本で読んだんだけど」
対して、群雲のとった行動は。
「自殺が最も【罪深い】らしいよ」
愛用する
「琢磨……君?」
予想していなかった群雲の行動に驚愕するマミ。自らが行おうとする行動に、一切の躊躇いを見せないのは、その異常さ故か。
「神に与えられた命を自ら捨てる事は、神の意思に叛逆する事だとか。
まあ、無神論者なオレに言わせれば【知ったこっちゃない】わけだが」
そもそも【そういった本を読む切っ掛け】が【初恋の人】だった辺りが、この少年であるが。
「ま、単純にオレが笑えないってだけの【我侭】だよ」
目の前で死なれるのなら、自らの手で――――――――
確実に、群雲琢磨の“留め金”は外れかけていた。
銃口を下ろすマミに対し、
しかし、しばらく待っても
やはり自分で……と、マミが考え出した頃、群雲はようやく口を開いた。
「うん。
言うべきかどうか悩んだけど。
これが“最後”なんだから。
やっぱり、言う事にするよ」
「オレは、巴先輩が【魔法少女になった事】に感謝してる」
完全に、予想外だったその言葉。群雲琢磨はいつだって“普通の思考”の斜め上をいく。
「巴先輩が魔法少女じゃなかったら。
オレ達の道は、交わる事はなかった」
大前提として、群雲琢磨が魔人に“ならなかった”としたら。
見滝原に来る事はなかった。縁も所縁も無い場所なのだから、当然。
そして、巴マミが魔法少女じゃなかったら。
魔人である群雲と、接触する可能性は限りなく低かったであろう。
事実、自分中心に生きる群雲に“孵卵器と関係を持つモノ”以外との接点は皆無なのだ。
「辛い事、苦しい事、悲しい事。
挙句の果てにはこの終わり方。
それら全てを差し引いてでも。
オレは、巴先輩と会い、過ごしてきた今日までを、後悔しない」
前向きだ。未来を見ないからこそ。群雲琢磨は前向きなのだ。
「ありがとう、巴マミ。
貴女と逢えたから。
オレはまだ、魔人を続けていられるよ」
最後まで告げて、群雲は視線を
最後の言葉は、巴マミの全てを肯定した。それに満足したマミは、瞳を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。
「さようなら」
SIDE
全ての作業を終えたオレは、ベランダに出て一服。
吐いた煙がゆっくりと消えていくのを眺める。
「約束が違うんじゃないかな?」
右肩に乗るナマモノが、おかしな事を言う。
「【うん?】【何の事だ?】」
「僕らは“取引”していたはずだ。
琢磨も、当然覚えているだろう?」
「【取引】【
「最初のだよ。
僕が“見滝原の
琢磨は“
「【ああ】【それか】」
確かに、そういう取引はしてる。魔法少女システムを知るからこそ“他の魔法少女を人質に、オレはナマモノを一点だけ有利に動かせる”って寸法だ。
「【約束が違う】【その認識は間違いだ】」
「どういうことだい?」
「【らしくないなナマモノ】【契約を信条とする】【お前らしくもない】」
「説明してくれるかい?」
「【取引内容は】【正確に】【ってことだよ】」
くだらない言葉遊び。オレはそこに“保険”をかけている。
「【オレは
そう。
“絶対”ではない。ざまぁwww
「嘘を付いていたのかい?」
「【オレに】【お前に対して嘘を付く】【そんな理由は無いよ】」
自分の為に生きるオレだ。
オレは躊躇いはしない。だからこその“保険”だ。
「【巴先輩の事を言ってるんだろうが】【オレが手を下さなかったら】【先輩は自分で
ナマモノに対して【用意していた言葉】を紡ぐ。
「【時間稼ぎ】【当然限界はある】【結局】【オレが破壊する事になったが】【極力避けた結果】【避けきれなかった】【それだけのことさ】」
「やれやれ。
そういう事にしておくよ」
あら意外。もう少しごねるかと思ったのに。
あぁ、感情無いんだったな、ナマモノ。
ごねるなんて、出来るはずも無いか。
「【まあ】【これ以上】【見滝原の
さてさて。カードが戻ってきたぞ。ナマモノをどう酷使してやろうか。
ま、それより前にする事があるんだけど。
「【それで】【もう一つの取引】【どうなった?】」
「こちらは滞りなく。
後は、琢磨次第だよ」
「【パーフェクトだナマモノ】【問題なくこなしてやるよ】」
この日。見滝原の
次回予告
頂点に行ったのならば
後は、墜ちるだけ
奈落の底に辿り着いたなら
後は、昇るだけ
そこは、本当に頂点で
そこは、本当に底辺かい?
百四十六章 取引内容