「そんな、世界の中心みたいに叫ばれても、僕にはどうしようもないよ」
「解説出来なきゃ、ボクの存在価値が無いじゃないかぁ!!」
「……君、インキュベーターじゃないのかい?」
「いつからハジヶえが孵卵器だと錯覚していた?」
「違うのかい?」
「違わないけど」
「わけがわからないよ」
SIDE 暁美ほむら
「この放送はッ! 私とッ! 織莉子がッ! 占拠したッ!!」
始まるはずだった日常は、その言葉と共に崩れ去った。
モニターに映るのは、二人の少女。
一人は見滝原中の制服を着ているが、もう一人は初めて見る。
「なに? なんなの?」
モニター内の少女が言葉を発している。それを無視し、私はまどかのそばに。
「大丈夫よ、まどか」
「ほむらちゃん?」
不思議そうに私を見るまどか。彼女を安心させられるよう、ゆっくりと頷きながら、私は以前聞いた言葉を思い出す。
『犯人が“この中学に在籍していても”か?』
魔法少女狩り。以前琢磨が言っていたように“ターゲット不問”であるなら。
この“行動”は、実に効率的とも言える。
教室内が、魔女結界に塗り替えられる中、私は変身し、呟いた。
偶然にも、その言葉はモニターに映る少女の言葉と重なった。
「来るがいい、最悪の絶望」
「来なさい、最悪の現実」
SIDE ウィキッド
「祈るのかい?」
後ろから聞こえる声に、変身状態のオレは、振り返る事無く苦笑した。
「【それも】【悪くない】」
祈り。いや、意思表示みたいなものだがな。
ステンドグラスを見上げたまま、オレは両手を広げて言葉を紡ぐ。
「我、流転せし世界を否定する楔なり」
自分の為だけに、時間を止める、それがオレ。
「我、照らされし光から、喜びと共に背を向ける咎人なり」
世間なんて知ったこっちゃ無い。自分の為になる事に対し、妥協する気はない。
「我、本来の自分を捨て、抜き出された魂と共に歩む者なり」
契約前の一切を捨て去り、物質化した魂を手に進むだけ。
「我、朽ち果てた肉体と共に、魂を仕舞う者なり」
その上で、群雲琢磨ではなく【殲滅屍】として動くと決めた。
「我、無窮の空を舞い、幾重もの絶望を見届けし狂人なり」
例え、どれだけの
「
生きているとさえ言えぬ肉体は、殲滅する死体。
死んでいるとさえ言えぬ道具は、殲滅する死屍。
神の与えし
さあ、今ここに【
「
「【見滝原中学】【ねぇ】」
これまで、秘密裏に動いていた白い魔女が、表舞台で行動を開始した。確かにナマモノの言う通り“詰める”気なんだろう。
が。
「結局、織莉子の目的はなんだろうね?」
「【知らんがな】」
右肩に乗るナマモノに、オレはあっさりと返す。そう、結局白い魔女の“目的”を、オレ達は掴めていなかった。
「【魔法少女狩り】【その観点で見れば】【見滝原中学を目標にするのは】【実に効率的ではあるが】」
「見滝原の
しかも織莉子は“君が死んだ”と誤認している」
「【そういう意味では】【見滝原中学での行動は】【白い魔女の“真の目的”に】【沿ったものではあるのか】」
或いは……。
「で、君はどうするんだい?」
「【ナマモノにとっても】【白い魔女は】【邪魔】【だろう?】」
「質問に質問で返すのは、君の癖なのかい?」
「【お互い様】」
魔法少女狩り。これ自体がナマモノにとっては“損害”でしかない。
しかし、あくまでもナマモノは交渉用端末機であり、実力行使に出る事はない。そんな機能ねぇしな、こいつ。
そうなると、ナマモノが出来る事は限られる。例えば【
「【まあ】【白い魔女には】【オレを殺した責任をとってもらわないとな】」
だが、オレの本来の【目的】は別にある。その【目的】の為にも、見滝原中学に向かわなければならない。
「【最悪】【
「僕としては、もったいないから止めてほしいけど」
「【これ以上】【無駄にするよりは】【マシだろう?】」
「それもそうなんだよね」
端的に言えば“やりすぎた”んだ。ナマモノが“美国織莉子からのエネルギー回収”よりも“美国織莉子によるエネルギーの損失”に比重を置くほどに。
SIDE out
見滝原中学。その校門前にウィキッドとインキュベーターが辿り着く。
「【本当に】【この魔女結界は?】」
「そうだよ。
本当に、君達は僕等の想定を覆してくれるよ」
校門前に存在する、不可思議な紋様。それは“特定の存在”しか認識出来ない、結界への扉。
そして、ここにいるのは、その“特定の存在”である。
「【なあ】【ナマモノ】」
「なんだい?」
自らの【目的】の為、ウィキッドからインキュベーターへの【
「【今なら】【契約し放題じゃないのか?】」
「どういうことだい?」
「【第二次成長期の少女達が今】【大量に結界に捕らわれている現状】【助けて欲しい】【その願いの元に】【魔法少女量産出来るんじゃね?】」
「なるほど」
魔女結界。内部は魔女の使い魔が闊歩しているだろう。そして、それに対抗する術を持つものは限られている。
助かる道があるのなら、確実にそれに縋るだろう。その後に用意された絶望に気付く事無く。
「【てなわけで】【ここからは別行動だ】」
「僕には戦闘能力は無いからね。
どちらにしても別行動だっただろうけど」
また、ウィキッドにとっても
犠牲となる存在に対し、この二つは一切の感情を持ち得ない。
それは、感情を保有しない故に。
それは、自分しか保有出来ないが故に。
肩から降りたインキュベーターが、結界内に入ったのを確認し、ウィキッドは咥えた電子タバコで深呼吸。
美国織莉子。
暁美ほむら。
ウィキッド。
見滝原中学で展開した魔女結界で。すべての“未来”が確定する。
「【では、闘劇をはじめよう】」
次回予告
全ての目的が、達成される事は無い
三者三様 その目的が
互いの目的の、障害となるが故に
果たして運命は
“誰”の目的を達成させるのか
“誰”が運ぶ命を優先させるのか
未来はまだ、不確定だ
百五十一章 世界の終末に