無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「重要なのは“能力”ではなく“特性”でもない」
「何の話だい?」
「ボク等には、理解出来ない事だよ、同胞」
「そうなのかい?
 なら、ぜひとも君の“答え”を聞きたいね」
「重要なのは“それを用いる存在”だ。
 赤い帽子の配管工に突破できても、緑の帽子の弟では、辿り着けない桃の姫。
 それは“赤と緑は別人だから”に他ならない」
「ふむ。何が言いたいのか、伝わりにくいんだけど?」
「身も蓋もないな、同胞!?」
「本編シリアス……しかも“中心の少女”がついに表舞台に来たのだから。
 これ以上茶化す気はないんだろう? 【ハジヶえ・ザ・キョウゲンマワシ】」
「TIPSという形で、誰よりも本編に“深い場所”にいたのは、ボクだからね。
 変態仮面の略称“HK”が、ネタで終わると思ったかい?
 言った筈だよ? ボクもまた“インキュベーター”であると、ね」


百五十六章 戯言

SIDE out

 

「え?」

 

 それは、誰の呟いた言葉だったのか。美国織莉子か暁美ほむらか、両方か。

 ウィキッドの言葉が、あらゆるものを掻き乱す。

 

「【無駄な事をしていたな】【白い魔女】」

 

 電子タバコを咥えて一息つき、ウィキッドが【追い詰める(デリート)】の為に動き出す。

 

「【インキュベーターはすでに】【鹿目まどかを見つけていたよ】」

「なん……ですって…………!?」

「【実際には】【オレと一緒に】【だけどな】」

 

 織莉子に殺される前。群雲琢磨は暁美ほむらに会いに行った。

 その時、暁美ほむらに気取られないようにして、キュゥべえも同伴していた。

 

 ほむらを呼びに来たまどか。その高すぎる素質を、キュゥべえはすでに把握していた。

 同時に群雲もまた、その存在を認識したのだ。

 

 そう。織莉子の行動は、()()()()()となっていたのである。

 

「【ついでに言うなら】【オレが鹿目まどかを殺した事に関し】【白い魔女は一切関わってないぞ】」

 

 その【戯言】が、織莉子の心を。柱としていたものを撃ち砕いていく。

 織莉子の目標。織莉子の努力。その一切を殲滅屍は、既に喰らった後だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 美国織莉子

 

 自分の世界が、音を立てて崩れていく。そんな感覚を、私は味わわされていた。

 絶望の未来を回避する。それが私の生きる意味であった筈。

 それを、目の前の少年がいとも容易く、殲滅していく。

 殲滅し、屍を量産していく。

 

「【ああ】【あとひとつだけ】【疑問があるんだが】」

 

 暗くなりかけた視界が、殲滅屍(ウィキッドデリート)の言葉で引き上げられる。

 一切変わらない自然体で、電子タバコを咥え、その口の端を器用に持ち上げて。

 

「【鹿目まどかを殺したが】【それで本当に】【()()()()()()()()()()】」

 

 殲滅屍(ウィキッドデリート)は、ワタシノスベテを殲滅していく。

 

「間違いないわ!!

 私は魔女化した鹿目まどかが、世界を滅ぼす未来を見たのよ!!」

 

 抗うように、私は声を荒げて反論する。

 

「そこにいる、時間を操る魔法少女も、その未来を知っている!!

 それなのに、鹿目まどかを諦められない!!

 だからこそ、私はここで魔女結界を展開させた!!」

 

 時間が無いのだ。キリカが健在である内に、結果を得なければならない。

 キリカと一緒じゃなければ、私の世界は……!

 

「【だったら】【見てみたら?】」

 

 ウィキッドの言葉に、私は反射的に未来予知を発動させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が見たのは、未来。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩壊した見滝原。その一角に瓦礫の山。

 その山の頂点に立ち、ボロボロながらも空を見上げて。

 

 嗤う殲滅屍(ウィキッドデリート)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE ウィキッド

 

「あなたは……」

 

 顔面蒼白の“白い魔女”が、声を震わせながらオレを見る。

 どうやら【オレが仮定した通りの未来】であったらしい。残念だ。

 

「貴方は、なにをしたの!?

 いえ、()()()()()()()()()()()の!?」

 

 良い質問だ、感動的だな。だが無意味だ。

 

「【そんなの】【今のオレが知る筈ないじゃんよ】」

 

 オレにとって重要なのは“今”である。その積み重ねた先。確実に待つ【Answer Dead】に至るまで。

 オレは今を、オレの為に生きる。

 

「【ひとつだけ】【言える事があるのだとすれば】」

 

 そのために必要である事に、オレは一切妥協しない。

 そのために邪魔なモノがあるなら、オレはその一切を殲滅する。

 

「【美国織莉子は】【最初の一歩を間違えたんだよ】【なあ】【白い魔女?】」

 

 オレの言葉が理解出来ないのか、白い魔女は呆然とした表情を浮かべている。

 

「【自分が生きる意味は】【知るものではなく】【決めるものだ】」

 

 “知る”事に必要なのは、言うなれば“外側”だ。

 自分の事を“知る”のでさえ“自分以外の要因”があってこそ。

 だって、オレが杏子に惚れている事を“知った”のだって、杏子に告白されたからだし。

 よくよく思い返せば“一目惚れ”だったんだけどさぁ。

 そんな“自分を知る為”には、杏子が不可欠だったんだ。

 

「【自分の生きる意味を知ろうとした】【つまり】【自分で決める事を放棄したんだ】」

 

 最初の願いを否定する事で、オレは追い込んでいく。

 美国織莉子を【白い魔女】に仕立て上げていく。

 

「【だから得たのが“未来予知”だった】【自分で決められないのなら】【未来で知るしかないんだから】」

 

 戯言で追い込む。戯言に翻弄されている隙を突いて、オレはゆっくりと行動を開始する。

 

「【だから】【オレが教えてやるよ】【美国織莉子が生きる意味を】」

 

 白い魔女に近づきながら、右腰の<部位倉庫(Parts Pocket)>からSAA(リボルバー拳銃)を取り出して。

 

「【周りを不幸にする為だ】」

 

 くるくる回(ガンプレイ)しながら、右腕を伸ばして。

 

「【ゆまをはじめとした】【無関係な少女達を】【無意味に巻き込んで】」

 

 胸元にある本体(ソウルジェム)に銃口を向けて静止し。

 

「【呉先輩を使って】【希望に溢れていた魔法少女の】【命を無慈悲に奪い去り】」

 

 撃鉄(ハンマー)を引き起こして。

 

「【今もなお】【無関係な者達が】【魔女結界で命を落とし続けているだろう】」

 

 引き金(トリガー)に指を掛ける。

 

「【魔法少女でありながら】【まるで魔女のように不幸を撒き散らすお前の事は】【白い魔女と呼ぶべきだろう?】」

 

 

 

 未来の為。そう動いていた筈の自分。それが自分の生きる意味だった筈。

 そんな【虚構】を【戯言】で変質させる。

 

 9の為に1を捨てる覚悟。美国織莉子はそう言っていたが。

 オレには未来と言う“1”の為に、それ以外の“9”を見限っているようにしか映らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【だから】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パァン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不合格だ」




次回予告

まだ、終わらない

まだ、おわらない

マダ、オワラナイ





魔人はこんな、クダラナイコトの為に来たのではない

さあ、今度こそ、闘劇をはじめようじゃないか

たとえそれが、誰かの絶望であっても

魔人が止まるはずもないのだから





百五十七章 目的

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