「まぁ、第三幕がハッピーエンドにはならなかっただろうね」
「そんな、哀しい世界での最後の抵抗だ」
「「わけがわからないよ」」
SIDE out
――――――これはまだ、見滝原中学に展開した、魔女結界での一幕――――――
鹿目まどかは、最高の魔法少女になる素質を持っている。
何故、普通の中学生である彼女に、それほどの素質があるのか。それは、インキュベーターにも解らない。
故に、彼女は“異常”だ。
暁美ほむらは、インキュベーターの知りえない魔法少女だ。
別の未来で契約し、平行世界の過去を巡っているのだから“その世界のインキュベーター”の記録には残らない。
故に、彼女は『異端』だ。
群雲琢磨は、劣化魔法少女である魔人だ。
にもかかわらず、下手な魔法少女よりも長命である上、有史以前より人類と接触してきたインキュベーターにすら“前例が無い”と言われるほどの不可解な現象の中心点である。
故に、それは【異物】だ。
キリカの生み出した魔女結界。そこでほむらの結界魔法によって守られていたまどかだが。
たとえ、何も出来なかったとしても。放っておく事なんて出来ない。
ほむらの結界魔法を抜け出し、後を追っていた。
鹿目まどかは、最強の魔女になる素質を持っている。
未来予知でその姿を見た織莉子が、誰も勝てないと絶望するほどの、最悪の魔女に。
しかし、まどかは“まだ契約していない”のである。
今のまどかは、ただの中学生にすぎない。
故に、使い魔に襲われても、抵抗する術を持たず。
守ってくれるほむらも、傍に居らず。
魔女結界の一角で、その生涯を閉じる事になる。
使い魔に襲われ、横たわるまどか。
その体から流れ出る血液は、まどかを中心に【紅い】水溜りを作る。
もはや、動く事すら出来なくなったまどかは。
ただゆっくりと、死の瞬間を待つだけの状態となっていた。
しかし、周りの使い魔は平然と、まどかに止めを刺す為に迫り。
飛来した弾丸に、的確に撃ち抜かれた。
「【まただよ】」
撃ち終わった右手のリボルバーを
迷った挙句に一度外に出てしまったウィキッド。そのタイムラグが偶然にもまどかとの邂逅に繋がるのだから、世界は優しく出来てはいない。
「【うん?】」
倒れたまどかに近づき、ウィキッドは傍らにしゃがみこんで観察。
まだ、息はある。
だが、ウィキッドは肉体を道具として割り切る事による“修理”は出来ても、他人を“治療”する魔法は使えない。
「【聞こえてないかもしれないが】【既に手遅れだ】【悪いね】」
朦朧とした意識の中、まどかはウィキッドの声に反応し、視線を向ける。
「【こういう時に】【オレが出来る事は】」
対し、ウィキッドは右手の銃口をまどかに向け、
「【少しでも早く】【楽にしてやる事ぐらいだ】」
そして、引き金に指を掛け……。
「……ぁ…………」
引く直前、まどかが口を動かした。
ギリギリで指を押し留め、ウィキッドが首を傾げる。
「【最後に何か】【言いたい事でもあるのか?】」
「……」
懸命に口を動かそうとするまどか。しかし、その体はもはや死の直前。満足に言葉を話す事等、出来るはずも無い。
それでも。
「…………ほ………………む……………………」
その言葉にならない言葉を、ウィキッドは聞いた。
「【ひょっとして】【暁美先輩か?】」
そこへきて、ウィキッドは思い出す。ほむらに会いに来た際、彼女を呼びに来た生徒がいた。
その記憶を、その時の身を隠す直前の一瞬の光景を。<
「【暁美先輩なら】【大丈夫だろ】」
そして、繰り出されるのは、優しい【戯言】だ。
「【きっと】【このおかしな空間も】【すぐに晴れるさ】」
何の根拠も無い。そうなるかどうかは成り行き任せ。そんな【戯言】だ。
しかし、それを聞いたまどかは僅かに、本当に僅かに微笑んで。
その瞳を、ゆっくりと閉じた。
「【巴先輩あたりに】【治療魔法でも習っていれば】【見殺しにせずに済んだのかもな】」
それもまた【戯言】だった。
もしかしたら、助けられる可能性があったのかもしれない。
しかし、結果として残ったのは、群雲がまどかを【見殺し】にした事実だけ。
「【どちらにしても】【殺す以外の選択肢が無かったのなら】【一緒か】」
群雲はゆっくりと立ち上がる。
自らの肉体からつくり出された【紅い】水溜り。
その中心で横たわる、
「【まいったねぇ】」
その遺体の横を、
「【最近】【近接戦闘ばかりだったから】【銃の腕が落ちてるかと思ったが】【そんな事はなかったぜ!!】」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おせぇよ」
「おま、それが行列に並ばせた相手に対して言う台詞!?」
キャンディを咥え、その棒を上下に揺らす相手に対し、電気タバコを咥えて、白い箱を持ってくる。
二人は当然のように、その手を繋ぎ、指を絡めて歩き出す。
「大体さぁ。
ケーキを買おうって言ったのはそっちじゃん。
なんでオレが並ぶ事になってんのさ」
「こういうのは、男の子の役目だろ?」
「男女差別だ!
訴えて勝つよ!」
「どこにだよ」
いつものようなやり取りをしながら、歩き慣れた町並みを歩いていく。
「てか、ケーキならマミ先輩が容易に用意してくれるだろ。
なんで態々、行列の出来る店のを、オレが並ばされ、買わされたのか」
「マミも食べてみたいって言ってたし。
ゆまも興味があるって言ってたからな」
「だったらそっちが並びなさいな。
なんでオレが」
「なんであたしが並ばなきゃならないのさ」
「理不尽!」
喧嘩しているわけじゃない。これが二人にとって普通だった。
「お前だって、甘いものは好きだろ?」
「嫌いじゃないってだけだよ。
お互い、好き嫌い無いのは知ってるだろ。
むしろマミ先輩がケーキ用意してたら、どうするんだよ?」
「お前、食え。
あたしらは、買ったケーキにするから」
「いや、両方食べなよ」
「太るだろ」
「魔法少女めたぼ☆オナカ」
「夢も希望もないな、それ」
皆で住むマンションに入り、二人は同じ速度で進んで行く。
「なあ」
「ん?」
「好きだって言ったら、信じるか?」
「オレは、愛してるよ」
「……バカ」
そして、二人は同時に扉を開けた。
「おかえりなさい」
「おかえり~」
「「ただいま」」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ワルプルギスの夜。
魔法少女の間で語り継がれる、伝説の魔女。
過去に、世界で起きた大災害の一部は、この魔女によるものだとも言われている程。
本気になると、普段逆さまの人型部分がひっくり返り、暴風のようなスピードで飛び回って地表の文明をひっくり返す。
そして、それは起きた。
かつて、見滝原と呼ばれていた土地の一角。
もはや、何も残ってはいないその場所には。
愛する人の魂の果てを、大事に胸に抱えて横たわり。
幸せそうな表情で眠る。
少年の
次回予告
第三幕 その幕は降りた
次の幕は、本来であれば、語るべきではない物語
見滝原を舞台としない物語
まどかも、ほむらも、マミも、さやかも、当然杏子もいない
だが、主演が魔人であるが故
これは、語るべき物語
「【不合格だよ】【プレイアデス】」
第四幕
百六十二章 探し物