無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「正義の味方は、あくまでも‘正義の”味方であり。
 人の味方とは限らない」


十五章 世界は、妄想と狂気と欲望で出来ている

SIDE out

 

「狂ってるんだろうな、オレ」

 

 その言葉は、沈黙を下ろすのに充分な力を持っていた。

 話を聞いている暁美ほむらも。

 キュゥべえを通して、話をきいていた他の二人も。

 理解していたが、理解できなかった。

 群雲琢磨が、狂っているという事実と。

 狂っていると言う、群雲琢磨の真実を。

 

「オレは“まとも”でもなければ“壊れた”わけでもない」

 

 いつもの笑みを浮かべて、群雲は言う。

 

「オレは、オレを“まとも”だとは思わない。

 オレは、オレを“壊れた”なんて、認めない」

 

 それは、理解してはいけない一線。

 それは、越えてはいけない一線。

 群雲琢磨という存在は既に。

 

「狂ってるんだ、オレは。

 だから」

 

 その一線を。

 

「だから“考える事”で“考えるのを止めた”んだ」

 

 

 

“割り切る事にしたのだ”

 

 

 

「どういう……事?」

 

 震える声で、質問する暁美ほむら。

 変わらぬ笑みを浮かべながら、群雲琢磨は発露する。

 

「責任を他者に押し付ける事は、容易い。

 だが“他者に押し付ける責任”とはすなわち“自分が背負うべき責任”なんだ」

「オレは、言い訳をしてるんだ。

 両親の死を。

 いじめてくる生徒を。

 助けてくれない大人を。

 それは“選択しなかった自分の責任”を“他者に押し付けてるだけ”なんだよ」

「だから、オレは逃げた。

 “逃げる事を選択”した。

 漫画や小説、そんな空想に逃げ出した」

「現実から、逃げる事を選んだ。

 逃げる為に、空想を選んだ。

 自分の死ではなく、ね」

「そうやって、オレは」

「別の事を考える事で」

「本当に“理解しなければいけない事”を、考えるのを止めたんだ」

 

 そう言って、空になった空き缶を捨てようとして。

 近くにゴミ箱がない事に気付いた、群雲は。

 苦笑しながら、言葉を続けた。

 

「そのはず……だったんだけどね」

 

 頭をガリガリと掻き毟り、苦笑する。

 

「2年前に、キュゥべえと契約したんだ。

 オレには“希望”があったんだ」

 

 あの日から、全てが変わった。

 群雲琢磨が、群雲琢磨のままに。

 

「世界は、妄想と狂気と欲望で出来ている。

 だが、オレが思うほど、この世界は。

 悲しくプログラムされてはいないらしい」

 

 そして、真っ直ぐに暁美ほむらを見つめる。

 掻き毟ったせいで髪が乱れ、普段は隠れている瞳を向ける。

 狂気(セカイ)を見続ける、黒の左目と。

 正気(きぼう)で埋め込まれた、緑の右目を。

 

「契約して、魔人になって。

 魔女と戦って、世界を放浪して。

 見滝原に辿り着いて、三人の先輩と出逢って。

 ようやくオレは“笑う事を取り戻した”んだ」

 

 

 

“オレの、何時、如何なる時も、オレの想うがまま、笑って過ごせる事を”

 

 

 

 キュゥべえとの契約で、それを取り戻した。

 キュゥべえとの契約がなければ、それを取り戻せなかった。

 もしかしたら、契約しなくても取り戻せたのかもしれない。

 そんな疑問は、群雲には知ったこっちゃない。

 

「オレは、オレの為だけに魔法を使う。

 今までも、これからも。

 それを、変える訳にはいかない。

 それを変えたらオレは、世界を見たい場所に立てない。

 世界は視点で変わるけど。

 どこから世界を見るかを選ぶのは“オレの自由”であり“責任”なんだ」

 

 そして、群雲はそっぽを向いた。

 右を向き、空を見上げながら、頬をかいた。

 その仕草は、三人の魔法少女と出会った日と同じ仕草だった。

 

「だから……その……なんだ…………。

 皆と一緒に戦ってるのは、オレが選んだわけで……。

 敵が最強だろうと最弱だろうと、変わらないわけで……。

 この街を、離れる気はないと言うか……。

 むしろ、逃げ出した方が、笑えないと言うか……」

 

 顔が赤いのは、自覚している群雲だが。

 それでも、言わなければならない事がある。

 それを言わなければ、この先、群雲は笑えないだろう。

 それを自覚してしまっているからこそ。

 群雲は“言う事を選ぶ”のだ。

 

「正直、他人なんざ、どうでもいい。

 オレは、オレの為に魔法を使う。

 オレは、オレの為に命を使う。

 その結果、皆と一緒に戦う事になる。

 それで、納得して欲しい……なぁ~……なんて…………」

 

 格好良く、意思表示をするわけでもなく。

 最終的には、語尾が小さくなっていくあたり。

 群雲は、意思表示をする事に、慣れてはいない事の証明でもある。

 

「逃げないさ。

 せっかく笑えるようになったんだ。

 笑い方を思い出したんだ。

 ただ、契約するまで。

 “ろくに、表情なんて作ってなかった”から。

 その時の名残なんだろうけどなぁ」

 

 そして、三人は理解した。

 群雲が浮かべる、遠くて、不気味で、からっぽな笑顔は。

 

 ――――――――必死にならないと作れない、精一杯の明るい表情なんだと。

 

「まあ、とにかく。

 ワチキトノアの夜とか言うのを倒すまでは、この街にいrぐはぁっ!?」

 

 言葉の途中で、何かに激突され、群雲はすっころんだ。

 

「ちょっ、なに、新手の奇襲か!?」

 

 激突してきた何かに、しがみ付かれながら、群雲はもがく。

 だが。

 

「ひっく……うぅ……」

 

 しがみ付いてきたのが、鹿目まどかだと気付き、群雲は目を点にした。

 

「……なにを泣いていらっしゃる?

 裸コートの浪人生から、携帯ストラップでも渡されたのかね?」

 

 具体的に、どういう状況なのか、意味不明な事を聞きながら、群雲は上半身を起こす。

 その際、自分の方に近づいてくる巴マミを視界に捕らえて。

 

「巴先輩まで、泣いていらっしゃる。

 これはあれか?

 泣くのが苦手なオレに対する、これまでのからかいの復讐だとでも言うのか?」

 

 正直、何がなんだか解らない群雲。

 そんな群雲を無視して、巴マミはゆっくりと傍らに膝をつき。

 横から、群雲の頭を、やさしく抱きしめた。

 

「oh。

 巴先輩のふくよかなふくらみが。

 世の男どもよ、羨め」

 

 もはや、自分でも何を言っているのか解らない状況の群雲。

 二人が泣いている為、無理矢理引っぺがす訳にもいかず。

 かと言って、何故こんな事になっているのかも、想像もつかず。

 

 三人の少女の僅かな声だけが、しばらく公園に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 しばらくして。

 ようやく落ち着いたらしい三人と、そのまま公園にいます。

 

「みっともない事、しちゃったわね」

 

 そう言って、微笑む巴先輩を見ながら、オレはポケットから眼鏡を取り出しながら、疑問をぶつける事にする。

 

「聞きたい事は色々あるけど。

 まずはどうして、二人がここにいるのかって事か」

「僕が呼んだからね」

 

 眼鏡を中指で押し上げると同時に、ナマモノが現れた。

 居たんかい、お前。

 

「なんでさ?」

「琢磨とほむらが、重要な話をしているようだったからね。

 邪魔をしないように、二人と一緒に少し離れた所から、テレパシーを使って聞いていたんだよ」

「やっほい、オレにプライバシーなんて、無かった」

「そもそも琢磨は、自分のことを話そうとしないじゃないか」

「聞かれなかったからなぁ。

 自分から話すような事でもないし」

 

 言いながらオレは、変身しなくても唯一使える<部位倉庫(Parts Pocket)>の、腰の後ろから、二連水平ショットガンを左手で取り出して、ナマモノに向ける。

 

「とりあえず撃ち殺すで、ファイナルアンサー?」

「わけがわからないよ」

「先輩達に、盗み聞きみたいな事をさせた罪で、判決死刑で」

「まあまあ」

 

 巴先輩に止められたので、しぶしぶ銃を戻す。

 まあ、撃つ気は無かったけど。

 

「てか、そもそも、なんで先輩たちが泣いていたのかが、理解不能な件について」

「それは……」

 

 オレの質問に、巴先輩が言葉を詰まらせる。

 見れば、他二人も、気まずそうな表情だ。

 

「わけがわからないよ」

「それ、基本的に僕の台詞だよね」

 

 オレの言葉に、ナマモノがつっこんで来た。

 別に、俺がいじめられてようと、先輩達には関係ないだろうに。

 ま、いいか。

 

「とりあえず、僕と彼女の甘い夜とかいうのを倒すのに、協力すればいい訳で」

「「「なにもかも違う!?」」」

「わけがわからないよ」

 

 総ツッコミを頂きました。

 ナマモノ、そこは先輩達に合わせようぜ。

 

「空気の読めないナマモノだなぁ」

「わけがわからないよ」

「お笑いは万国共通だろ。

 オレと一緒に世界を目指そうぜ!」

「それで、契約者が増えるなら、協力してもいいけど」

「キュゥべえまで、壊れてきた!?」

「失敬な。

 オレは“狂っている”のであって“壊れている”訳ではないのだよ、ワトソン君」

「私、ワトソン君じゃないよ!?」

 

 律儀に、ツッコミを入れてくれる鹿目先輩は、良い子だと思います。

 

「なら、鹿目先輩と一緒に、世界を目指そう。

 式を挙げるなら、やっぱり教会かな?」

「お笑いの話じゃないの!?」

「大丈夫。

 初めてだけど、優しくしてね♪」

「待って、何の話なの!?」

「結婚初夜の話」

「けっこ……!?」

「それはおめでたいよ」

「キュゥべえまで!?」

 

 なんとなく、巴先輩と暁美先輩が距離を離している気がするが、そんな事はなかったぜ!

 

「幹事は、巴先輩におまかせしよう」

「わ、私っ!?」

「で、司会は暁美先輩で」

「えぇ!?」

 

 巻き込む的な意味でw

 

「いや、むしろ、重婚可能な国に行って、全員で結婚という選択肢もあるな。

 うはwwwwwみwなwぎwっwてwきwたwwwww」

「重婚はさすがに……。

 やっぱり、好きな人とは、二人で添い遂げたいわ」

「ここで、リアルに返してくる巴先輩がパネェ。

 もうこれは、公園の中心で、愛を叫ぶしか!」

「……もう……つかれちゃったよ……」

「か、鹿目さん!

 気をしっかり!!」

「巴先輩!

 暁美先輩をオレに下さい!!」

「私!?」

「ダメよ。

 暁美さんが欲しいのなら、私を倒してからにしなさい」

「巴さんも、悪乗りしないで!?」

「よろしい。

 ならば戦争(クリーク)だ」

「わけがわからないよ」

「ふっふっふ……。

 ここで、神秘のベールに包まれていた、オレの真の能力が覚醒し、世界は新たな礎を得る事になるのだ。

 魔人と、魔法少女が愛し合うという、新たなる礎を!」

「話が無駄に壮大になってきた!?」

 

 暁美先輩のツッコミを聞きながらも、オレは別の事を考えていた。

 

 もしかしたら、オレは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――ここに来る為に、生きてきたのかもしれない。




次回予告

知るべき事、知るべきではない事
知って変わるもの、知っても変わらないもの

言うべき事、言うべきではない事
言って変わるもの、言っても変わらないもの










未来は変わるもの?





十六章 想いの中心点

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