無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

171 / 173
「どうやら、面倒な事になっているようだね!!」
「久しぶりだからって、テンション高いね、ハジヶえ」
「TIPSを捻じ込みようがないからね!!」
「ウィキッドの解説はしないのかい?
 無表情になった理由とか」
「もうしばらくは後だね!!
 それよりも!!」
「それよりも?」
「ジュゥべえとの会話が楽しみだよ!!」
「本編で?」
「いや? その内前書きにくるじゃん?
 同胞だし」
「わけがわからないよ」


百六十三章 真実だとしても

 あすなろ市にあるショッピングセンター。立花宗一郎はトランクを持って、そこに来ていた。

 トランクの中にはかずみ。少し離れた場所から()()()()()()()()()ウィキッドが身を潜め、辺りを伺っていた。

 

(【さてさて】【オレの“仮定した過程”の通りにいくかどうか】)

 

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 誘拐犯からの交換条件。

 青年と少女と少年は、素直に従うはずもなく。

 

「【かずみが起きた以上】【誘拐は失敗】【だとすれば】【誘拐犯はどう動く?】」

 

 愛用する電気タバコを咥え、煙を吐きながら。感情無き人形の如く、ウィキッドが言葉を紡ぐ。

 

「いや、その前にお前それ……」

「【スルー推奨】【それ所じゃないだろ】」

「キッドが不良になった!?」

「【最初からだ】【てかキッドって】」

「言い難いんだもん!!」

 

 電気タバコを咥えるウィキッドに、立花が指摘するも意に介さず。そして、かずみの呼び方は“キッド”になったようだ。

 何も無かったかのように、ウィキッドは言葉を続ける。

 

「【誘拐犯は考える】【トランクが入れ替わった時点で】【誘拐は失敗した】」

 

 当然である。誘拐を成功させる必須条件は“誘拐を他者に悟られない事”にある。

 誘拐の成功率は低い。何故なら“誘拐が判明しているから”に他ならない。

 だからこそ“判明した誘拐の成功率は低い”のだ。

 それは逆に“判明しない誘拐の成功率は高い”と言える。

 当然だ。妨害する存在は“誘拐される当事者”以外にはありえないからだ。

 

「【誘拐されたとなれば】【かずみも警戒するし】【かずみの周りの人間も警戒するだろう】」

「いるのかな? わたしにも、心配してくれる人って」

 

 かずみの呟き。記憶が無いという事は、確かな()()がない事。それは本人にしか知りえない恐怖と虚無。

 

「【だとすれば】【誘拐犯は考える】」

 

 その呟きを聞きながらも、無視して、ウィキッドは言葉を続ける。続けたいのに色々と茶々が入るのはどうにかならないものか。

 

「【爆弾魔に】【誘拐犯になってもらえばいい】」

「はぁ!?」

 

 驚愕する立花。無論、ウィキッドはそれをも無視する。

 

「【誘拐犯が捕まれば】【警戒は薄まるだろう】【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】」

 

 事件が解決した直後の、一瞬の緩み。ウィキッドなら確実にそこを突くだろう。

 誘拐犯が、そこまで考えているかは解らない。だが、ウィキッドが“誘拐犯”なら、そう動く。

 

「【ならば()()()は】【そこを逆手に取る】【そんなオレの戯言に乗るか?】」

 

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 鳴り響く、立花の携帯。

 

「もしもし」

「ぶつハ、ベンチノ裏ダ」

 

 簡潔に用件だけ伝え、通話が切られる。立花は言われたまま、ベンチの裏に回る。

 白い布に包まれた何か。布を取れば、出てくるのは自身の持つトランクと同デザインのもの。

 

(【さあ】【こいっ!】)

 

 <一部召還(Parts Gate)>で“左目だけ”を移動させて、ウィキッドは状況を見守る。

 すべては、自分の為に。

 

「ちょっといいですか?」

 

 トランクを摩り替えた立花。それを呼び止めたのは、二人の中学生。

 

(【……】)

 

「なんだ?」

「あなたさっき、トランクを摩り替えてましたよね?」

「犯罪のニオイがするんだよなぁ~」

 

(【ったく】【余計な事を】)

 

 ウィキッドが落胆する事など知る由も無く。

 立花は警戒を解かないままに、言葉を紡ぐ。

 

「なんだ、お前達は?」

 

 立花と対峙した二人の中学生は。

 

「通りすがりの女子中学生」

「海香とカオルでっす! よろしく!」

 

 暢気に自己紹介をする。しかし、立花の警戒は崩れない。トランクを自身の後ろに回し、取られないようにする。

 

(こいつらが“誘拐犯”か?)

(???)

(【この“想定外”は】【もうひとつの“仮定した過程”を後押しするな】)

 

 取引自体が罠。そう話し合っていた為、立花は()()()()()()()()()()()()()()()()()を敵視する。

 かずみはトランクの中。状況がわかるはずもなく。

 ウィキッドは、状況から“次”へ思考を巡らせる。

 

「摩り替えた? 何の話だ?」

 

 立花は白を切る。現状、立花にとって留まる事こそが避けるべき事なのだ。

 

「動くな」

「「「!?」」」

 

 しかし、状況は動く。銃口を向けながら近づく女刑事を先頭に、武装した警察組織がその姿を現す。

 

(【いや】【おかしいだろ】)

 

 ただ独り、状況を確認するウィキッドは違和感を覚え、それを抽出していく。

 

「立花宗一郎ね。

 あなたがこのショッピングモールを爆破しようとしている事は、すでに把握済み。

 抵抗しても無駄よ」

 

 女子中学生二人を立花から離し、女刑事は立花を睨みつける。

 立花が、ゆっくりとトランクから手を離した瞬間。

 

「撃っちゃダメだよ!!」

 

 もう一つのトランクから、かずみが飛び出してきた。

 

(【あぁ】【もう】【めちゃくちゃ】)

 

 無表情のまま、ウィキッドはため息を一つ。もはやこれ以上“状況を見守る”のは不可能に近い。

 トランクからかずみが出て来た事で、状況は混乱の一途へ。

 

「立花は、誘拐までしていたの!?」

「違う!! 立花さんはわたしを助けてくれた!! 悪い人じゃない!!」

「っ!?

 でも、それと爆弾は別よ!!」

「【よう】【立花さん】【探し物は見つかったかい?】」

 

 平然と、混乱の場に姿を見せるウィキッド。

 

「キッド!?」

「【かずみは少し黙ってな】」

「ひどくない!?」

「【ちゃんと】【場を収めてやるから】」

「ほんと?」

「【まあ】【オレは嘘吐きだけどな】」

「わかった、信じる」

 

 かみ合ってるんだか、かみ合ってないんだか。

 笑顔のかずみに、無表情のウィキッド。

 

「【ようは】【立花さんが】【爆弾で爆破しようと()()()()()なら】【問題は無いんだよな?】」

「そうではないわ。

 爆弾を所持している時点で、立派な犯罪よ」

「【なら】【話は簡単だ】」

 

 女刑事とのやりとりの後、ウィキッドは立花のトランクを手にとって、躊躇う事無く開いた。

 

「なっ!?」

「おい!!」

 

 女刑事と立花が驚く中、ウィキッドは感情の篭らない声色のまま、言ってのけた。

 

「【で】【どこに爆弾があるって?】」

 

 トランクの中。そこに入っているのは男物の着替え一式。これから旅行にでも行くかのような内容だった。

 

「ばかなっ!?」

 

 女刑事が、思わず中身を引っ掻き回す。しかし、当然のように爆弾なんて出てこない。

 

「どういうことだ?」

 

 立花の質問に、ウィキッドは平然と言う。

 

「【どういう事もなにも】【爆弾なんて持ってないだろ?】」

「でもキッド……」

「【かずみだって】【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】」

「!! うん!!」

「【つまり】【女刑事さんが間違ってたってだけの話さ】」

 

 たった一手で、ウィキッドは立花宗一郎の“無罪”を証明する。

 さらにかずみに“立花に誘拐されていない”と証言させる事で、誘拐の容疑すら晴らす。

 

「でも、さっきその人はトランクを摩り替えていたわ」

「【おいおい】【立花さんがトランクを摩り替えたなんて“証拠”がどこにあるんだよ?】」

 

 海香の疑惑を、ウィキッドは一蹴する。

 

「【まったく同じデザインだからな】【見間違えたんじゃないか?】」

「……」

 

 無表情、無感情な左目が海香を捉える。言外に言っているのだ。()()()()()()()()と。

 

「ばかな……そんなはずは…………」

 

 呆然と、開いたトランクの前に座り込む女刑事。それを見たかずみは、一つの答えに辿り着く。

 

「ひょっとして、爆弾でお兄さんをハメようとしたのって、刑事さん?」

 

 その言葉に、女刑事は鋭い目線をかずみに向けるが。

 

「【こら】」

「あいたっ!?」

 

 その視界に映ったのは、かずみをチョップするウィキッドだった。

 

「【これ以上】【ややこしくすなや】」

「キッド、ひどい!?」

「【立花さんの】【ありえない嫌疑が晴れたんだ】【そこで納得しとけ】」

 

 言いながら、ウィキッドの左目が女刑事を見据え。

 

「【たとえ真実だとしてもな】」

 

 そう。ウィキッドもまた、かずみと同じ答えに辿り着いている。

 しかし、それを追求する必要は無い。

 

「【ほら】【行こうぜ】」

 

 トランクを閉じて、ウィキッドはそのまま歩き出す。

 

「待ってよ、キッド!!」

 

 それをかずみが追い、立花がそれに続いた。その後ろ、睨みつける女刑事の視線は、憎悪に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 ショッピングモールから出てすぐ、三人に声が掛かる。

 

「待って」

 

 その声に三人が振り返った先には、先ほどの女子中学生が二人。

 

「【何か用かな?】】

「用があるのは、かずみよ」

「わたし?」

 

 首を傾げるかずみに、海香は一枚の写真を見せる。そこに映るのは三人の少女。

 海香、カオル、そして、かずみ。

 

「あれ? わたしだ」

「【なるほど】【知り合いか】」

「そういうこと!!」

 

 笑顔のカオルに、かずみも笑顔になる。

 聞けば、かずみが行方不明になったのは、つい昨日の話だったらしい。

 家出なのか、誘拐なのか。

 ひとまず、二人で探してみようと出かけた矢先の、先ほどの騒動だった。

 

「なら、そっちと一緒の方がいいな」

 

 立花の言葉に、全員が納得する。

 

「あ」

 

 そしてかずみは、着ている服に手をかけ。

 

「帰るから返さなきゃ」

「かずみ!?」

「ちょ、こんなとこで脱がないの!?」

「いいよ、もってけ!!」

「【なんだかなぁ】」

 

 また一騒動である。なにかしらバタバタしないと、気か済まないのだろうか。

 そして、三人と二人は、二人と三人に分かれる。

 

「お兄さん、キッド。

 ありがとう!!」

 

 満面の笑みで手を振るかずみ。それを背中に受け、立花とウィキッドは歩いていく。

 二人の姿が見えなくなった頃、かずみ達もまた帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【それで】【どうする?】」

 

 並んで歩く立花とウィキッド。その視線を前に向けたまま、ウィキッドは電気タバコを咥えながら問いかける。

 

「なにをだ?」

「【爆弾による復讐さ】」

 

 その言葉に、立花の足が止まる。

 そう、立花自身の問題は、何も解決していない。

 かずみの記憶が戻っていないのと同じように。

 かずみを誘拐したのが誰なのか、不明のままなように。

 起きた騒動が収まっただけなのである。

 

「【一つ言わさせてもらうなら】」

 

 立花と同じように、立ち止まったウィキッドは。

 

「【記憶喪失のかずみに食事を作ったり】【突然現れたオレの言葉に従ったり】【あんた】【犯罪者に向いてねぇよ】」

 

 褒めてるんだか、貶してるんだが、解らないような事を、感情を込めずに言う。

 

「【あんたにはきっと】【爆弾よりも包丁の方が】【お似合いさ】」

「キッド、お前……」

 

 いつしか、立花からの呼ばれ方もキッドになっていた。

 その事を、特に気にする訳でもなく。

 

「【オレは】【オレの探し物を】【あんたは】【あんたの探し物を】」

「……ああ。

 そうだな」

 

 結局、ガキの言葉に従うんだから、本当に犯罪者に向いてないんだろうな。

 そんな事を思いながら、立花は苦笑する。

 

「今度、お前にも食わせてやるよ、キッド」

「【ああ】【楽しみにしてるよ】」

 

 そして、二人はそこで別れた。

 後に、本当に再会する事になるのだから、運命とは不思議なモノである。

 

 立花宗一郎とも。

 

 

 かずみとも。




次回予告

早すぎた再会

そこから、動きだす歯車

その先にあるものがなんなのか

子供(キッド)にはまだ、わからない


百六十四章 都合が良かった

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。