無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「ひゃっほぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉ!!!!」
「いきなりテンション高いね」
「ボクだからね!!
 きっと、ボクのハジケっぷりを待ちわびている人は多いだろう!!
 さあ、見滝原でボクとケーヤク!!
 今ならソウルジェムに、近くの黒いGを強制巨大化させる機能を付けてあげるよ!!」
「嫌がらせというレベルを越えてないかい?」
「ボクだからね」
「でも不快感及び嫌悪感から、穢れが増幅される可能性はある。
 検討してみるのもいいかもしれないね」
「ゴメン、マジヤメテ」
「でも、ひとついいかい?」
「なんだい同胞?」
「今の舞台はあすなろ市だよ」
「あ゛」


百六十四章 都合が良かった

「ふにゅぅ……?」

 

 自分の部屋(多分)のベッドの上。まどろみから覚醒するかずみ。

 予想以上の大きな家に“御崎海香”と“牧カオル”の三人暮らし。

 海香がベストセラー作家である事。カオルがサッカーをしている事。

 なにも、覚えてはいなかった。

 今のかずみにあるのは、トランクの中で目覚めてから“今までの事”だけ。

 美味しい食事を作ってくれた“立花宗一郎”と、呼びにくいからと“キッド”と呼ぶ事にした、白髪眼帯の少年。

 まるで、感情を失っているかのような無表情と、淡々とした口調。

 

「記憶の無いわたしと、感情の無い子供(キッド)かぁ」

 

 目覚めて、ひと悶着あって。

 今、はっきりと解っている事は。

 海香とカオルが置手紙を残し、家を出ている事と。

 

 

 

 ぐゅるるるるぅぅぅぅ~~……。

 

 

 

「わたしって、くいしんぼ?」

 

 しかし、そこからのかずみの行動は、実にスムースだった。

 自身の行動に疑問を挟む余地すらないほどに。

 作るのは、立花にご馳走になった『ビーフストロガノフ』だ。

 何故、()()()()()()()()()()()()()

 そこには確かに、失った筈の記憶への糸口がある。

 

「うん、わたしってば天才かも!!」

 

 の、だが。

 出来上がった料理に満足するかずみは、そのことに気付かないでいた。

 

 自分の分、海香の分、カオルの分。

 

「ありゃりゃ。

 作りすぎちゃったかな?」

 

 しかし、出来上がった料理は明らかに多い。そう、まるで……

 

 

 

 ピンポーン

 

 

 

 かずみに記憶は無い。しかし《無意識》には《なにか》がある。

 その事に気付く前に、鳴り響いたチャイムに、かずみの《意識》が向けられる。

 来客者は、昼間の女刑事だった。

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 あすなろ市。あすなろタワーと呼ばれる、一番高い場所に“それ”はいた。

 

「この場所は、言ってしまえば“箱庭”だ。

 いや、《常識が異なる》のだから【異世界】と呼んでも間違いではない」

 

 誰にも見られることのない、その紅い瞳が街を見下ろす。

 

「さあ、キミはこの【異世界】で、ちゃんと“探しモノ”を見つける事が出来るかい?」

 

 決して聞かれる事の無い声は、確かに街に響いている筈だった。

 

「魔女も、魔法少女も、等しく殲滅する魔人、殲滅屍(ウィキッドデリート)。」

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

「いいの?」

「いいよ!

 なんでか作り過ぎちゃって」

 

 可愛らしくベロを出し、女刑事の分を用意するかずみ。

 そして、自分の分を準備して。

 

「いだたきま「ピンポーン」ええぇぇぇぇ……」

 

 ようやく食べられると思いきや、まさかの来訪者。

 応対する為に立ち上がるかずみの後ろ、用意されたナイフをしっかりと握り締めた女刑事は。

 

「あれ? キッドだ!!」

 

 予期せぬ来訪者に、内心ほくそ笑んでいた。

 

 

 

 そんな後方の悪意に気付かずに、かずみは玄関へ一直線。

 

「いらっしゃい、キッド!!」

 

 満面の笑みをうかべるかずみに、対照的に変わらぬ無表情のキッド。

 しばし、目をパチパチさせて。

 

「【かずみ?】」

「え?」

「【え?】」

 

 

 

 

 まったくの偶然だった。

 立花の時と同じだ。キッドは【探し物】をしているだけ。

 その最中に立ち寄ったのが、かずみ達が暮らす家だっただけの事。

 

「【驚いたな】」

「だったら、もう少しリアクションがほしいな~」

「【悪いね】」

 

 変わらぬ笑顔のかずみと、変わらぬ表情のキッド。

 

「ご飯作ったけど、食べる?」

「【自分で?】」

「うん! わたしってば料理の天才かもしれない!!」

「【へぇ】」

 

 当然のように招くかずみと、当然のように招かれるキッド。

 二人の因果(歯車)は、すでに噛み合っていたのかもしれない。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 ひとつのテーブルで食事をする三人。

 

「美味しいわね」

「ほんと? よかった!!」

「【ごちそうさま】」

「はやっ!?」

「【美味かったよ】」

「よかった!! でももう少しリアクションが欲しいかなぁ?」

「【悪いね】」

 

 まあ、その内の一人は速攻で食べ終わったのだが。

 食事を続ける二人と、それを無表情に眺める一人に、状況が変わる。

 

「海香ちゃん達と入れ違いで、ラッキーだったかもしれないわね」

「そうだよね、でなきゃ食事をする事も()()()()()()()()もできないもんね」

 

 そして、その状況もかずみの一言で一変する。

 

「【まあ】【かずみだけじゃなく】【オレがここに来たのも】【刑事さんにとっては都合が良かっただろうな】」

 

 キッドの来訪は完全に偶然だった。女刑事がキッドを自力で見つけるのは難しいだろう。キッドはあすなろ市のモノではない。

 しかし、女刑事がここにいる事実は、キッドが【過程を仮定】するには充分だった。

 なぜならここにいる子供達は、女刑事が【黒】だと確信していたからだ。

 

「海香とカオルの置手紙があったの。

 女刑事さんからのラブコールだってね。

 呼び出した本人が家に来るなんて、おかしいよね?」

「【そりゃ悪手以外のなにものでもないわな】」

 

 かずみの言葉に、キッドが賛同する。

 

「きっと爆弾を作ったのも刑事さんだよね?

 自分が手柄を立てる為に、立花さんを利用しようとした」

「【あ】【オレはそれを仮定してなかったな】」

「そうなの?」

「【爆弾があるかもしれないにもかかわらず】【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】【警察側に犯人がいるとは仮定してたが】」

 

 黙る女刑事を余所に、かずみとキッドは互いの推理(【戯言】)を披露する。

 

「そっか。

 普通、爆弾があるなんて解ってたら、一般人を避難させるもんね」

「【それがないにもかかわらず】【狙い済ましたかのように警察が来れば二択】」

「二択?」

「【一般人を守るつもりがないか】【爆弾を使用させる気がないか】」

「ん~?」

「【前者なら】【一般人よりも手柄】【後者なら】【最初から犯人を撃ち殺すつもりだった】」

「そっか!!

 爆弾を調べられたら、女刑事さんが作った物だって、ばれちゃうもんね!!」

「【そもそも】【爆弾があるのに】【ろくな装備もせずに最前列に立つ時点で】【違和感しかなかったがね】」

 

 実の所、子供達の言う事は、状況証拠からの推察であり、物的証拠はなにもない。

 シラを切り通す事は、不可能ではない。

 

「黙りなさい!!」

 

 しかし、女刑事にその余裕は無かった。テーブルの上にあった食事を激しく払い落とし、二人を黙らせようとする。

 その反応に、冷たい眼差しを向けるかずみ。

 だが、キッドはその反応を想定していたのか、変わらぬ無表情で会話を続け、かずみもそれにあわせる。

 

「【おそらく“誘拐犯”は】【何らかの形で女刑事の思惑に気付いて】【コンタクトを取ったんだろう】」

「女刑事さんが誘拐犯じゃないの?」

「【違うだろ】【もしそうならかずみを殺そうとはしない】【誘拐と殺人は別だからな】」

「違うのか~」

 

 二人は止まらない。【()()()()()()()()()()()()()()()()】女刑事を無視し、女刑事を追い詰めていく。

 かずみにその自覚はないだろう。キッドにその自覚はないだろう。

 しかし【無自覚で無邪気な】その行動は、女刑事に【邪気を自覚】させてしまう。

 

「【仮定として】【立花さんに爆弾送って唆したのが女刑事さんだとしても】【かずみの誘拐とは繋がらないだろ?】」

「そっか~。

 そもそも“トランクの取り違い”がなかったら、わたしはキッドや立花さんに会う事もなかったんだよね~」

「【トランクの取り違いから】【誘拐犯は女刑事さんを割り出して】【接触してきたって方が】【筋は通るだろ?】」

「誘拐犯は、どうやって女刑事さんに辿り着いたんだろう?」

「【そこまでは知らん】【オレ】【誘拐犯じゃねぇし】」

「無責任っ!?」

「【ただ“最初から立花さんを嵌めるつもりだった”と仮定するなら】【女刑事さんが立花さんの携帯番号を知っていても不思議じゃない】【誘拐犯が“かずみ入りトランク”の所在を求めていたのは間違いないだろうから】【入れ違いになった“爆弾入りとランク”を必要とする女刑事さんと接触しても不思議はない】」

「結局、わたしの誘拐と爆弾騒ぎは別物って事?」

「【だろうな】【繋がりがあると仮定するなら】【同じデザインのトランクを使用するのは】【愚の骨頂だ】」

「間違いの元だもんね~」

 

 限界だったのだろう。女刑事がナイフを手にかずみに飛び掛る。しかし、かずみはナイフとフォークでそれを防ぎ、同時に動いたキッドがテーブルに手をついて自身の身体を支え、そのまま女刑事を蹴り飛ばす。

 後方に吹き飛ばされた女刑事が、置いてあった電話を巻き込んで倒れこむ。

 テーブルの上から降りたキッドは、そのままかずみの横に立ち、二人で女刑事を見下ろす。

 

「もし、わたし達を始末出来ても、海香達が刑事さんに呼び出されている以上、怪しまれるのは当然の事だよ?」

「【まあ】【素直に始末されるつもりは無いけどな】」

 

 二対一。特にキッドには【これまでの経験】がある為、人間に後れを取る要素はない。

 ……女刑事が、本当に“人間”であったのなら。

 

「あなた達は、間違えているわ……」

 

 俯きながら、ゆっくりと立ち上がった女刑事は。

 

「立花の情報をくれた人がいてね。

 私はそれに乗っかっただけよ」

(【誘拐犯?】【もしそうなら立花さんは本気で爆弾を使うつもりだったのか】)

 

 淡々と情報を整理するキッドをよそに。

 

「それに、貰ったのは情報だけじゃない」

 

 嫌な音をたてながら変化していく。人ならざるモノへと。

 

「決して証拠を残さずに、人を殺せるチカラをッ!!」

「うそーーーーーーっ!?」

「【流石にこれは】【想定外だな】」

 

 化け物へと変質した刑事に、かずみは声を上げ。

 キッドは、初めて見る事態に首を傾げた。




次回予告

回りだした歯車を止めるのは難しい

記憶の無い子供は、突然の異常事態を知らず

表情の無い子供は、突然の異常事態を知らず

迫る脅威は、決して待ってくれたりはしない

回りだした歯車を止めるのは難しい


そして、止めようとするモノが、現れるとも限らない

百六十五章 初体験

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