無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「そういえば、群雲君は普段、どこで寝てるの?」
「ダンボールハウス」
「えぇっ!?」


十六章 想いの中心点

SIDE 鹿目まどか

 

 自分のベッドで布団に包まり。

 私が考えるのは、一人の少年。

 今なら、解る。

 群雲くんが“遠い”と感じた理由。

 

「……ぐすっ……」

 

 自然と浮かんできた涙を、無理矢理押さえ込み、布団を頭から被る。

 群雲琢磨という、男の子の世界。

 私が、家族みんなで朝食を食べていた時。

 彼は、誰もいない部屋で、目を覚まし。

 私が、友達と一緒に登校している時。

 彼は、たった一人で学校に向かい。

 私が、楽しい学校生活を送っている時。

 彼は――――

 

“オレの生き地獄は、そこから始まった”

 

 ひどいよ……

 群雲くんがなにをしたの?

 どうして群雲くんが、そんな辛い目にあわないといけないの?

 

 でも、塞ぎこみそうになる私を、群雲くんは意味不明な事を言って、紛らわそうとするんだ。

 今なら、解る。

 彼の言う、意味不明な言葉は…私達に“嫌な事を考えさせない”ように――――――

 

 

 ――――――“笑う為”に、必死に取り繕っているんだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

「群雲……琢磨…………」

 

 自分の部屋で一人、私はある少年の事を考える。

 少なくとも、私が魔法少女となった“一週目”では、出会う事は無かった。

 私が魔法少女になって、鹿目さんと出会った今回、彼は現れた。

 私が魔法少女になって、一ヶ月前に戻った事で、未来は私の知らない方向に向かう。

 彼の存在は、その要因の一つだと思っていた。

 

 でも、彼が契約したのが“2年前”だと知り、それは違うと認識した。

 

 全ての流れが、まったく同じ世界は存在しない。

 私が契約した“一週目”は、群雲くんが契約していないか、契約していたけど見滝原に来なかった世界。

 今、私がいる“二週目”は、群雲くんが魔人として、見滝原に来た世界。

 

 

 

“狂ってるんだろうな、オレ”

 

 

 

 彼の言葉を思い出し、胸が締め付けられる。

 割り切る為に、彼はどれだけの涙を流したのか。

 割り切る為に、彼はどれだけのモノを諦めたのか。

 

 

 

 それでも彼は……前を向いている。

 彼を‘強い”と感じた理由が、今なら良く解る。

 

 

 

 だから、私は決意を新たにする。

 過去に戻ってまで、望んだ物を得る為に。

 

 

 

 

 

 ――――――自分が笑える場所から、世界を見る為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 明かりの消えたリビング。

 月と街の光が、窓から差し込むその部屋のソファ。

 

 

 

 群雲君は、そこで眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 あの後、実は群雲くんがずっと野宿だったと知り、半ば無理矢理に部屋に連れてきた。

 この2週間で、随分と慣れてきたとはいえ、群雲君は相変わらず、私達と話す時は照れくさいみたい。

 その辺りは、やっぱり年相応なんだなと実感する瞬間で、私はそれが気に入ってる。

 弟がいたら、きっとこんな感じなんじゃないかって、そう思えるから。

 

 

 

 

 

 でも、彼の過去が、あそこまで壮絶だとは、夢にも思わなかった。

 年上なのに、思わず泣いてしまったのは恥ずかしいけれど。

 彼が、これまで歩いてきた道が、あまりにも辛くて。

 それを、笑いながら話す彼が、あまりにも悲しくて。

 

 

 

 

 

 初めてあった日。

 何故、彼と自分が同じような気がしたのかが解った。

 

 

 

 同じ“孤独”を抱えていたからだ。

 

 

 

 魔法少女として、独りで生きてきた私と。

 いじめられっことして、独りで生きてきた彼。

 

 

 

 でも、私達には決定的な違いがある。

 

 

 

 私にはキュゥべえがいたし、後輩魔法少女もいる。

 

 

 

 

 

 

“自分以外が、全て敵だったよ”

 

 

 

 

 

 

 でも、彼には文字通り“誰も”いなかった。

 きっと、魔人になった後も、彼は基本的に独りだったのだろう。

 “テレパシーの存在を知らなかった”と、聞いた時は驚いたけど、今なら納得できてしまう。

 

 

 

 納得、できて、しまうのだ。

 

 

 

「よく、がんばったわね」

 

 彼を起こさないように、静かに呟き、その髪をなでる。

 覗く寝顔は、年相応の幼いもので。

 

「でも、もう大丈夫よ。

 私達は、独りじゃないもの」

 

 これからは、一緒に戦ってくれる仲間がいる。

 その心強さは、私には良くわかっている。

 だから。

 

「群雲君ももう、不自然に笑う必要はないのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE インキュベーター

 

「わけがわからないよ」

 

 この夜の出来事は結局、皆の絆を深める結果となった。

 何故、琢磨の昔話で、こんな結果になるのか。

 感情とは本当に、厄介な代物である。

 でも……。

 

「これで、琢磨が“魔王”になったら、芋づる式だよね」

 

 魔法少女に比べ、魔人の方が堕ちやすい。

 彼女達の、想いの中心点が堕ちれば、その結果を予測する事は容易い。

 

「三人の“魔女”を産む為の中心点。

 まさに、琢磨の事は“魔王”と呼ぶべきだね」

 

 最強の魔女の来訪は近い。

 元々、急激な発達により、魔女を呼び込みやすい“歪み”を持つこの街だ。

 三人の魔法少女はともかく、|SG(ソウルジェム)の許容量の少ない琢磨では、ワルプルギスの夜を相手にするには荷が重い。

 

「元々、それほど期待していた訳ではないけれど。

 琢磨を切っ掛けとして、僕らは充分にエネルギーを回収できそうだよ」

 

 本当に、感情というものは、理解できないね。

 もっとも、僕らの目的は‘宇宙の延命”であって‘君達の延命”じゃない。

 

 

 

 だから。

 

 

 

 出来る限り、深い所まで‘堕ちて”いってね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――狂宴の夜は、近い――――――――――




次回予告

彼は少年である
彼女達は少女である

戦いの運命にあるとしても
それは事実であり、変わることは無い





十七章 質素な黒いソフト帽

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