「オレもだよ」
SIDE 少年
願いを言った瞬間、白いナマモノの耳が、オレの体に触れた。
戸惑いながらも、状況の変化を観察していると、自分の体から緑色の光球が出てきた。
……待てよ。
どこにいくんだ?
これ以上、オレから“ナニカ”を奪うのか?
オレは反射的に、その光球に手を伸ばす。
願いを叶えてくれるんだろう?
なのに、失うなんて。
「笑えねぇぇぇだろおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
その光球を両手で包むように掴み。
祈るように、眼前に引き寄せた。
まるで、逃げるように。
光球が手から抜け出し。
“右目の中に入った”
「ああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああああ!!!!!」
途端に走る、激痛。
痛い熱いいたいあついイタイアツイ!!!!
右目の中で、暴れ狂う緑の光球。
「記録に無い状況だね」
誰かが、何かを言っている。
だが、オレはそれどころではない。
SIDE out(三人称)
出て行こうとする“ナニカ”と。
失わんとする“ナニカ”が。
“契約による現実”と“契約による希望”が。
少年の中で、暴れていた。
契約により、魂はソウルジェムとして変換される。それは、緑の光球となり、少年の“肉体の外”へ排出される。
しかし、少年はそれを“笑えない”と言った。
“オレの、何時、如何なる時も、オレの想うがまま、笑って過ごせる事”
それが“契約内容”であり。“魂が
「アアアアァァァァァアアァァァァァアァァァァアアアア!!!!!」
“契約を交わした後”ならともかく。
“契約を交わしている最中”に。
“契約内容に添わない”のは、理に反する。
「AAAAaaaaaAAaaaaaAaaaaAAAA!!!!!」
“契約したのなら、魂は
“
それが“世界のルール”であり。
“魂がソウルジェムとなり、義眼として右目に収まる”事で。
その両方を満たす事になった。
が、少年がそれを知る術も無く。インキュベーターが、その事例を知ることも無かった為。
冒頭の会話に繋がる。
SIDE 少年
どうなるかと思った、マジデ。
契約って……痛いんだな。
「で、オレの魔法ってなんぞ?」
「知らないよ」
ちょwまじかwww
「そもそも“
そのわりに、冷静だな、ナマモノ。
しかし、体の一部とか言っているが。
「……まともに見えんぞ、この右目」
左目を手で隠し、右目だけで周りを見る。
全ての輪郭がぼやけて、辛うじて色を認識できる。その程度である。
「見えるなら、君は右目を失っていないんだろう」
確かに“見えている”以上は“無くなってない”んだろうが。
「……さっき言った“
その言葉通りなら、オレの右目が“
それはつまり“右目が無くなり、
「君の右目に、
君の右目が見える事で、君は何も失ってはいない」
なんぞ、その理屈。
「そもそも、
「君が理解できるような言葉は“君の魂”だね」
たましいときましたよ。
「……すまない、オレは無神主義者なんだ」
「わけがわからないよ」
こっちのせりふだよ。
「……もう、ゴールしても……いいよね?」
「何を言っているんだい?
これから、魔女退治の始まりじゃないか」
……そうでしたorz
契約が成立した以上、魔女を倒さないと。
……クーリングオフしてぇ。
目の前の、ナマモノに、全力で投げ返してぇ……。
「もう、考えるの、ヤメ」
とりあえず、後にしよう。契約破棄できない以上、魔女と戦うのは確定らしいし。
「それは“結界の入り口”さ。
その先に“魔女”がいるはずだよ」
ナマモノの言葉に、オレは落書きに視線を向ける。
右目が、ほとんど使い物にならない為、左目だけで見る。
……つもりだったが。
「……落書きだけが、鮮明に見える……」
まるで、モザイクを切り取っているかのように。
落書きだけが、はっきりと認識できた。
……これが、魔女と戦う為に必要な能力なんだろうか?
「行くか」
思考を切り替えて、オレは落書きの中に、入っていく。
この日、オレの“世界”が、劇的に色を変えた。
「で、オレって魔法少女なん?」
「流行りのオネェ系ってやつかい?」
「「わけがわからないよ」」
次回予告
歩く事の出来ない赤子に、歩けと言った所で
箸の使えない外人に、使えと言った所で
戦った事のない子供に、戦えと言った所で
三章 どうせいっちゅーねん