無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「琢磨君は、どうして自分が狂っていると思うの?」
「どうやらオレは、普通の人がするはずの事が、出来ないらしいんでね」


二十章 ばかなの?

SIDE 群雲琢磨

 

 彼女はもう…………笑わない。

 ゆっくりと、彼女に近づき、傍らに膝をつく。

 ふと、片隅に砕けたSG(ソウルジェム)を見つけた。

 

 綺麗だったはずのそれは今、光を反射する事も、なくなってしまった。

 

 ゆっくりと、彼女を仰向けに寝かせて、両手を組ませる。

 見開いたままの瞳は、二度と、何かを見る事は無い。

 役目の終えた瞳を休ませる為、ゆっくりと瞼を指で閉じる。

 

――フツフツト。

 

 思考する事無く、体を動かしていただけのオレが。

 

――――フツフツト。

 

 ゆっくりと、現実を受け入れる。

 

――――――コミアゲテクルノハ。

 

 否定して、無かった事に出来るのならば、いくらでもしてやるが。

 

――――――――イカリカ、カナシミカ。

 

 そんな事をしても、彼女は還って来ない。

 

――――――――――マッシロク、カラッポニナッテイタこころガ。

 

 巴先輩は…………。

 

クロになる。

 

「アハハハハハハッハハハハハハハハハハ!!」

 

 現実を受け入れると同時に、笑い声が聞こえる。

 どうやら、聞く事を放棄していたらしい。

 

 受け入れろ、割り切るんだ!

 

 頭の片隅で、冷静になろうとする自分。

 

――ムリダ。

 

「てめぇが……!」

 

 そんな自分も、クロになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇが笑ってんじゃねえぇぇぇぇぇええぇぇぇえぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 今まで、使用したことの無いほどの黒い放電。

 両手足のそれを無視し、全力で叫んだ群雲は、一直線に魔女に向かって駆け出した。

 何も、考えていない。

 何も、考える事が出来ない。

 ただ、湧き上がる感情のままに。

 

「キャハハハ!」

 

 阻もうとする使い魔を。

 

「ジャマァあぁ!!!」

 

 一撃で殴り殺す。

 それでも、決して止まる事無く。

 魔人となる事で、上昇している身体能力。

 それを、加減無き<電気操作(Electrical Communication)>で限界を超えて動かす。

 それは、一度の跳躍でビルの屋上まで到達できてしまうほど。

 それでも、群雲は止まらない。

 ビルからビルへ飛び移りながら、距離を一気に詰めていく。

 

 何も、考えていない。

 ただ、感情に身を任せ。

 独りの魔人が、飛び上がる。

 

 凄まじい勢いで、迫ってくる敵を無視するほど、魔女は優しい存在ではない。

 これまで以上の数の使い魔を、群雲に向かわせる。

 加えて、魔女本体も群雲に対し、凶悪とも言える熱量の炎を浴びせようとするが。

 

「あああああぁぁあぁぁぁ!!!!」

 

 意味の無い、感情のままの咆哮と共に、群雲は一気に飛び上がり。

 

 使い魔を蹴り殺し。

 その際の僅かな反動を<電気操作(Electrical Communication)>で無理矢理捉え。

 別方向に飛び上がる事で、炎を避けてみせた。

 そのまま、迫る使い魔を逆に足場として利用する事で。

 

 群雲は遂に、自分の体をワルプルギスの夜の上空にまで、運びきった。

 

「ああああああぁぁあああ!!!!」

 

 そのまま、群雲は左腰の<部位倉庫(Parts Pocket)>から、ロードローラーを取り出した。

 最初期の吟味中に、偶然収納し、使い所がわからずに、そのままにしていたものだった。

 それを、そのまま自分の下方にいる魔女に対して投げ落とす。

 直後に、腰の後からショットガンを取り出し、今度はそれを上空に向かって撃つ。

 その反動を無理矢理捉えて、一気に急降下を開始する。

 

「おおおおぉぉおおあああああぁぁあぁぁ!!!」

 

 急降下しながらショットガンを腰の後に戻し、両手を組み、無理矢理体勢を整える。

 ロードローラーがワルプルギスの夜に直撃した一瞬の後。

 追い付いた群雲は、勢いを殺す事無く。

 組んだ両手を、ロードローラーに叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 使い魔を退けながら、鹿目さんと合流しようと必死になっていた私は、突然の爆発音に空を見上げた。

 見れば、ワルプルギスの夜の歯車部分から、黒煙が上がっており。

 

「……群雲……くん?」

 

 誰かが、地上に向かって落ちていく姿。

 

「ほむらちゃん!」

 

 呆然としかけた私を呼ぶ声。

 鹿目さんだ!

 

「今の、琢磨くんだよね!?」

「多分……」

 

 そもそも、群雲くんは爆発するようなものなんて、持ってたのかしら?

 そんな疑問を余所に、私は群雲くんを見て

 

「……川に落ちた?」

 

 もしかして、さっきの爆発に巻き込まれてたんじゃ!

 

「ほむらちゃん!!」

 

 何とかして、群雲くんと合流したいけど、鹿目さんの声に、私は周りを確認する。

 笑いながら、私達を囲む、使い魔たち。

 合流しようにも、まずはここを突破しないといけない。

 鹿目さんを守る為、魔法少女となった私が、ここに鹿目さんを置いていく訳にはいかない……!

 群雲くんに渡された銃を構えて、私は鹿目さんの横に立つ。

 鹿目さんも、私に背中を合わせるように弓を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「馬鹿か、オレはぁ!!」

 

 水面から顔を出すと同時に、思わず叫んでいた。

 なにやってんの、オレ? ばかなの? 死ぬの? むしろ死にかけたよ? ばかなの?

 明らかに格上な相手に、神風特攻とか、何やってんの、オレ? ばかなの?

 

「~~~~あ゛ぁ!」

 

 無理矢理、<電気操作(Electrical Communication)>で水を蹴るとか、我ながら無茶な事をしながら飛び上がり、オレは陸地へと降り立つ。

 

 

 

 

 

ゴプッ

 

「魔力……使いすぎた……マジ、馬鹿だ、オレ。」

 

 右目で見る景色の、8割がクロになる。

 オレはその場に座り込み、右手の部位倉庫から“ストックしていたGS(グリーフシード)”を取り出し、浄化する。

 ストックが無かったら、このまま戦線離脱だったな、オレ。

 

「……あと、一つ、か。」

 

 言いながら、浄化に使用したGS(グリーフシード)を確認し

 

「げっ!」

 

 孵化直前になってました。

 ナマモノはいるはずが無いし、ここで別の魔女誕生とか、マジ笑えない。

 オレは、持っていたGS(グリーフシード)を放り投げた後、右腰から抜いたリボルバーで撃ち抜き、粉砕した。

 

「残弾も、大して多くないな……」

 

 S(シングル・)A(アクション・)A(アーミー)に弾を込めながら、オレは残弾を“計算”する。

 ……部位倉庫内の、目録とか欲しいわ、マジで……。

 川に落ちた事と、SG(ソウルジェム)を浄化した事で。

 オレの頭は強制的に冷やされたらしい。

 まったく……我を忘れるとか、笑えねぇ事すんなよ、オレ。

 空を見上げながら、オレは呟いた。

 

「泣くのは、後でいい。

 ……そうだよな、巴先輩?」

 

 優しいあの人の事だ。

 “後を追いかけよう”ものなら、絶対に叱られる。

 

 

 

 

 

 ワルプルギスの夜は、先程よりも高度を落としていた。

 どうやら、無謀で無茶なオレの行動は、無駄ではなかったらしい。

 さらに、飛来した桃色の矢が、魔女に向かうのを確認した。

 

「! 近いな!!」

 

 オレはすぐに、予想した地点に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 幕を下ろすの(カーテンコール)は、まだ早い……。




次回予告

結末は決められている
それは、一体誰が決めたのか

結末は決まっている
それは、一体ダレが決めたのか

結末は決まった
それは、一体いつ決まってしまったのか









二十一章 全力全開の一撃

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