無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「最強とか、最弱とか関係ない。
 ただ、おまえは笑えない」


二十一章 全力全開の一撃

SIDE 鹿目まどか

 

 突然の爆発。

 皆とはぐれ、一人で戦って。

 でも、皆もきっと一緒で。

 避難所にいるママ達の為にも、ここで食い止めなきゃいけなくて!

 

 そんな風に、焦っていた私を、まるで叱るかのように。

 いつもみたいに、良く解らない事を言って、掻き乱すように。

 私が、塞ぎこまないように。

 

 ――――――琢磨くんは、必死に笑おうとするんだ。

 

 その爆発は、私を引き上げた。

 

 見上げれば、下半身の歯車から、黒煙を上げるワルプルギスの夜と。

 

 琢磨くんが、落ちていくのが見えた。

 

「……うそ……」

 

 何の抵抗も無く、落ちていく琢磨くんを見て、私は駆け出した。

 助けなきゃ!

 そんな想いが、私にあった。

 琢磨くんの所に向かおうとした私の前に、空を見上げているほむらちゃんが映り、反射的に叫んでいた。

 

「ほむらちゃん!」

 

 よかった、無事だった。

 ほむらちゃんも、私の姿に驚いたようだけど、すぐに駆け寄ってきた。

 やっと、一人目。

 後は、マミさんと……!

 

「今の、琢磨くんだよね!?」

「多分……」

 

 私と同じように、ほむらちゃんも琢磨くんを確認していたみたい。

 まるで、私達を合流させる為に、琢磨くんが頑張ってくれたみたいだ。

 そんな事を思いながら、私は琢磨くんを確認しようと

 

「ほむらちゃん!」

 

 する前に、使い魔達に囲まれているのに気付いた。

 何かを呟いていたほむらちゃんも、その事に気付き、慌てたように拳銃を構える。

 私は、ほむらちゃんに背中を預けるようにして、弓を構える。

 

「キャハハ!」

 

 使い魔が、私達を見て笑う。

 ……笑わないで。

 貴方達が、笑わないで!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 鹿目さんと、使い魔達と戦う。

 でも、群雲くんのくれた銃も、残りの弾が少ない。

 鹿目さんの武器も、弓である以上、連続で射るのは難しい。

 私達の周りで、円を描くように囲んでいる使い魔達が、じわじわと迫ってくる。

 時間を止めて、爆弾を……。

 だめだ、鹿目さんを巻き込んじゃう!

 

 どうすればいいか解らなくなっていた私は。

 今も、笑い続けている、魔女と使い魔の声に、心が押し潰されそうになった。

 

「アハハハハハハハハハッハハッアハハハハハハ!!!!」

「「「「「「「キャハハハハハハハ!!!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう……やめて……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハ「逆手居合」ハハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑い声を、一瞬だけでも打ち消してしまうほどの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハ「電光抜刀」ハハハハh「参の太刀ぃぃぃぃ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力強い声と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天風!!!!!!」

 

 

 

 

 

 私達に、もっとも近づいていた使い魔の上から、彼が降りてきた。

 それはまるで、空から大地へ落ちる雷のように。

 

 

 

 

 

「邪魔だああぁぁぁああぁぁああぁあぁああ!!!!!」

 

 

 

 

 上空から、着地と同時に使い魔を切り裂いた群雲くんはそのまま、持っていた刀と鞘から手を離し、右手を左脇に、左手を右腰に当てると、そこから銃を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を、私はどう表現していいか、解らない。

 それは以前、巴さんが使い魔に囲まれてしまった時に、見せてくれた戦い方。

 自分の周りに、マスケット銃を複数取り出し、使い捨てながら。

 まるで、踊るように戦っていた光景。

 

 それと同じように。

 

 一発ごとに、標的を変え。

 でも、一発も外す事無く。

 私達の周りにいた、使い魔を撃退していく。

 

 違うのは。

 巴さんが、自身も回っていたのに対し。

 彼は、微動だにしなかった事。

 動くのは、腕だけで。

 それでも、確実に使い魔を捉えて。

 

 それでも私には。

 巴さんと、群雲くんが、重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっべ、あとワンセットしか、残弾がねぇ」

 

 言いながら、私達の窮地を救った少年は、弾込めを終わらせると、それを魔法でしまい、落ちていた刀と鞘を手に取る。

 

「さて、問題はここから、か」

 

 刀を鞘に収めて、群雲くんは私達の方を向く。

 

「ロードローラー叩きこんでも無事とか、マジで笑えねぇよ、アレ」

 

 ろ、ろ~どろ~ら~?

 

 目が点になった私を無視して、群雲くんは魔女を見上げる。

 

「予想だが……」

 

 眉間に中指を押し当てながら、群雲くんは話し出した。

 その仕草は、眼鏡をしていたら、押し上げるような状態になっていただろう。

 こんな状況においても、変わらない仕草が、妙に心強く感じた。

 

「使い魔はともかく、ワルプルギスの夜本体には“魔力じゃないと、ダメージが通らない”んじゃないか?」

「え…と、何で?」

「魔女は、自分の結界内に標的を呼び寄せる為に“魔女の口付け”を使用していると仮定する。

 それは逆説的に“結界内じゃないと、魔女は充分に力を発揮できない”となる。

 加えて、オレのような魔人や、魔法少女は“結界内でしか、魔女と戦う事はない”。

 これは“魔女が結界最深部にいるから”が、最大の理由でもあるが。

 仮に“魔女結界”を“魔女を守る壁”だとするなら。

 ワルプルギスの夜は“結界を張らずに纏っている状態”であるという推察が成り立つ。

 故に、ロードローラーを上空から叩き落した上で、無理矢理爆発させたが、今もメッチャ笑っていらっしゃる」

 

 ……また、随分と無茶苦茶な事したのね、群雲くん……。

 

 でも、もし群雲くんの推察が正しいとしたら……。

 

「魔力を込めた、全力全開の一撃。

 これで、奴を止められないなら、正直に言って詰み」

 

 その言葉に、背筋が凍る。

 

「これまでの戦いで、魔力も消費してるし。

 これ以上の戦いは、ジリ貧としか思えない。

 ぶっちゃけ、これ以外に打開策が浮かばないんだけど」

 

 ………………。

 確かに、群雲くんが言う以外の策は、浮かびそうもない。

 でも、そうなると……。

 

「魔力を込めないと、ダメなのかな?」

 

 鹿目さんの質問に、群雲くんは即座に答える。

 

「知らん」

 

 ……答えになってなかった。

 

「オレが言ったのは、あくまでも予想。

 正解かどうかなんて、確認する術がない。

 ただ“全力全開の一撃”以外に、打つ手があるとも思えない」

 

 言いながら、群雲くんは刀をしまう。

 

「オレが使える最大の攻撃は、自分の魔力を電気の球に変えて撃ち出す“電光(plasma)球弾(bullet)”を、限界まで巨大化させるぐらい。

 欠点は、弾速がものっそい、遅い」

「私は……矢に限界まで魔力を込めるぐらいしか出来ないよ?」

 

 ……私は……何も……。

 

「オレの仮説が正しいとも限らないし、暁美先輩は射程内に魔女を捉えて、手持ちの爆弾全部同時に爆発させる、か?」

 

 ……確かに、それが今の私の精一杯。

 

「どっちにしても……近づかないとダメか」

「でも、爆弾を設置する場所と時間が……」

 

 私の言葉に、群雲くんは唸る。

 

「流石に、爆弾を投げて、同時に爆発させるとか、時間停止を使っても無理だよね……」

 

 鹿目さんの言葉に、私は少し落ち込む。

 他の攻撃手段が、私にあれば……。

 

「……投げる……?」

 

 でも。

 

「爆弾を投げる……爆発…………材料……時間…………」

 

 突然、群雲くんがブツブツと、何かを呟きだした。

 

「そうなると……ワルプル…………追撃に………………弾丸…………」

「……琢磨くん?」

 

 鹿目さんが声を掛けると同時に、群雲くんは笑った。

 

「一つ、策が浮かんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、昨日見せてくれた、年相応の笑顔ではなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔人として戦う者の、会心の笑みだった。




次回予告












それは、最後の射撃
















二十二章 ティロ・フィナーレ

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