無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「契約しなかったとしたら、オレは今でもあの生き地獄の中。
 ならば、今更、命を懸ける事に、躊躇う理由は無いな」


二十二章 ティロ・フィナーレ

SIDE 鹿目まどか

 

 琢磨くんの策。

 それ以外に、打つ手の無い私達は、それを成功させる為、場所を移動していた。

 

「最も、ワルプルギスの夜に近づける場所。

 奴の進行方向上で、最も高い場所」

 

 琢磨くんの言葉に当てはまる場所。

 当てはまる場所自体は、いくつもあった。

 

 でも、琢磨くんの言った条件に、私はもう一つ付け加えなきゃいけない。

 

“避難所と現在位置の間にある事”

 

 琢磨くんはそれを聞いて、軽く頭を抱えていた。

 彼にとっては、街の人など“知ったこっちゃ無い”んだろう。

 でも、私にとっては、それこそが戦う理由。

 そうじゃなきゃ、魔法少女になった意味が無いから。

 

 

 

 

 

 琢磨くんの過去は、思わず泣いてしまうほどに辛かった。

 だけど、それ以上に。

 それを、笑って話せる琢磨くんが、理解できなかった。

 

「狂った人間を、理解出来ちゃまずいでしょ」

 

 そう言った琢磨くんが、あまりにも悲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、結局。

 私の条件を含めて、場所を決めてくれた琢磨くんは。

 

 優しい子なんだなって。

 そう、思えるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 よりにもよって、ここか。

 そんな風に思えてしまう場所で、オレ達はワルプルギスの夜との、決戦に挑もうとしていた。

 

 見滝原中学校の屋上。

 

 ……学校にいい思い出なんかねぇっつに。

 幸いなのは、ロードローラーを叩き落してから、魔女が高度を上げていない事。

 射程内ではあるのだ。

 

 オレは、日本刀を抜き、鞘だけを戻す。

 右手、逆手持ちの刀をそのままに、左手をワルプルギスの夜に向ける。

 薬指と小指を曲げ、残りの指を真っ直ぐに。

 意識して、<電気操作(Electrical Communication)>を左手に集中。

 否、“左手以外で使わないように”集中する。

 

――――――必要なのは、想像(イメージ)

――――――電気を束ね、球状にする。

――――――本来、両手足に迸る電気を、左手以外で使わないように。

――――――スベテのチカラが、左手にいくように。

 

 左手にのみ、黒い放電が起こると同時に、鹿目先輩も動き出す。

 ゆったりとした動作で、弓を構える。

 弦を引き、弓の上部から桃色の炎が発現し、矢が転送される。

――――――まだ、射る事は無い。

 

 暁美先輩は、オレ達の少し後ろで待機している。

 

 

 

 

 オレの左手を、黒い電球が包む。

 …………まだだ。

 さらにオレは、電気を送り込み、膨張させていく。

 横では、鹿目先輩の弓に宿る、桃色の炎が一層激しく燃え上がり、矢が輝きを増していく。

 

 ワルプルギスの夜が近づいてくる。

 オレは、電光(plasma)球弾(bullet)が、半径二m近くまで膨れ上がった所で、射出した。

 

「おっそ!?

 予想以上におっそ!?」

 

 射出した……んだけど、ホントに動いているのか疑わしいほどに遅い。

 まあ、想定内ではあるが。

 オレは、チャージ中に使い魔に襲われた時用にと、右手に持っていた刀を右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>に入れ、今度は右手に集中する。

 

 オレと同じように、ワルプルギスの夜の攻撃に対応する為、控えていた暁美先輩が動き出す。

 オレの右手が放電すると同時に、暁美先輩が盾を展開する。

 

 

 

――――――――弾速が遅いのならば。

 

 オレは、ゆっくりと右手を振りかぶり。

 

――――――――撃った後に押し出す!!

 

 全力で、殴り付けた!

 

「いいいぃぃぃぃけえええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 拳と電光(plasma)球弾(bullet)がぶつかり、凄まじい放電が起きる。

 だが、それで怯んでは意味が無い。

 このまま……殴り抜ける!!!

 

「おおおぉぉおおぉぉぉああぁあぁぁああぁぁぁぁ!!!!」

 

 咆哮と共に、電光(plasma)球弾(bullet)は、今までとは比べ物にならない速度で、ワルプルギスに向かう。

 それと同時に、暁美先輩が時を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

「弾が遅いのなら、撃った後に加速させればイイじゃない」

 

 そんな発想が出るのも凄いけど、それをぶっつけ本番で実践させてしまう辺り、群雲くんは凄いと思う。

 時の止まった世界で、そんな感想を抱きながら、私は行動を開始する。

 

 盾の中にある、すべての爆弾を投げる。

 極力、群雲くんの電気の球と、ワルプルギスの夜の間で、静止するように。

 全部で、七つ。

 投げ終わった私は、群雲くんから渡された銃で、爆弾を撃ちぬく。

 外さないように、慎重に。

 

「全ての爆弾を同時に爆発させるのは、普通じゃ無理。

 だったら、無理矢理すればイイじゃない」

 

 時間停止中に、爆弾を投げて銃で撃った後に、時を動かす。

 それが、群雲くんの策。

 ……年下なのに、随分と色々な事を思い付く子だ。

 そんな事を考えながら、私は時間停止を解除した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 暁美先輩って、銃を使う才能でもあるんじゃないか?

 時が動き出し、全ての爆弾が同時に撃ち抜かれて、強制的に爆発したのを確認し、オレは最後の行動に移る。

 腰の後から、ショットガンを取り出して、弾を一発抜き取り、右手に持つ。

 <電気操作(Electrical Communication)>を右手に発動させながら、オレは以前の記憶を引っ張り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『唐突に、上空に向かって弾が飛んでいくという結果になりました。

 イミフ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電磁砲(レールガン)

 あの時の、異常な弾丸の正体。

 ……多分ね。

 詳しい仕組みは知らないし、実際は違うのかもしれない。

 だが、オレはあの現象をそうだと仮定して、イメージする。

 

 鹿目先輩も、そろそろ限界だろう。

 今まで見てきた中で、最も燃え上がる炎と、最も輝いている矢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に、脳裏に巴先輩の笑顔が浮かんだ。

 鹿目先輩も暁美先輩も、巴先輩が死んだ事は知っているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直に言おう。

 オレには“逃げ出す”という選択肢があった。

 

 だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあ、何かを得るまで、私たちと一緒に、この街で戦ってみるのはどうかしら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いないじゃないか。

 ここに、あなたが、いないじゃないか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、想うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで退いたら、オレはもう、何も得る事は無いのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ。

 

 これが。

 

 オレ達の出来る。

 

 最高の一撃。

 

 そして、最後の射撃だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティロ・フィナーレェ!!!!!!!!」




次回予告

最善を尽くしたとしても
最善の結果が得られるとは限らない

最悪の状況を想定したとしても
最悪の結果を回避出来るとは限らない

世界はいつだって
思い通りには、動かない





二十三章 世界で最高に美しく、最低に醜い光景

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