無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「誰か、教えてくれないか?
 笑うには、どうすればいい?」


二十三章 世界で最高に美しく、最低に醜い光景

SIDE out

 

 結果から言うのならば、魔人と魔法少女は策を成した。

 

 本命は、鹿目まどかの最大の一撃。

 それをサポートする為の、群雲琢磨と暁美ほむら。

 

 まずは、三人で高台に上がる。

 ワルプルギスの夜を射程内に捉える為に。

 

 そして、鹿目まどかが攻撃準備(チャージ)に入る。

 ワルプルギスの夜が、攻撃をしてきた場合、残りの二人で迎撃する。

 

 攻撃が無かった場合、群雲琢磨も“最大の一撃”に移る。

 その為に群雲は、電光(plasma)球弾(bullet)のチャージ中も、刀を手放さなかった。

 

 群雲の方が、チャージが早く完了し、射出に移る。

 ただでさえ、弾速の遅い電光(plasma)球弾(bullet)だ。

 チャージし、容量が増えた事により、さらに遅くなるのは、想定内。

 群雲はこれを“ワルプルギスの夜に向かって殴り飛ばす”事で、問題点を解消してみせた。

 同時に、暁美ほむらが、攻撃が無かった場合の行動に移る。

 

 時間停止中に爆弾を投げ、それを銃で打ち抜いた後、時間停止を解除する。

 

 仮に、爆弾が届かなくても、爆発による煙で、魔女を怯ませる。

 実際、怯んだかどうかはわからない。

 しかし、魔女と自分たちの間の煙は、確実に目くらましになるだろう。

 

 後は、電光(plasma)球弾(bullet)の着弾を見計らい、鹿目まどかが矢を放つ。

 同時に、群雲は以前の自分の行動と魔法検証から突貫で編み出した電磁砲(Railgun)による追撃。

 

 結果から言うのならば、魔人と魔法少女は策を成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電光(plasma)球弾(bullet)の着弾と同時に、二人の“最後の射撃”が追い付き、貫いた。

 実質的な、三種同時攻撃を受けたワルプルギスの夜。

 

 三人にとって、想定外であったのは、その際に起きた大爆発である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「が……は……」

 

 瓦礫の山で仰向けに倒れていたオレは、詰まっていた空気を一気に吐き出した。

 

「は……はは…………」

 

 鉄の味が口一杯に広がったが、大した事じゃない。

 

 

 

 

 

 聞こえないのだ。

 あの、耳障りだった、笑い声が。

 

 

 

 

 

 それは、魔女撃退を意味していた。

 大爆発の際、抵抗無くぶっ飛んだが、オレはまだ生きている。

 勝利を……意味していた。

 

「ぐ……ごぶぉ!」

 

 体を起こそうとしたら、喉元に溜まっていたらしい、血の塊を吐いた。

 だが、そんな事は今はどうでもいい。

 無理矢理立ち上がり、辺りを見渡す。

 

 一面、瓦礫の山。

 魔女によるものもあれば、オレ達の最後の一撃が影響しているものもあるだろう。

 

 自分達がいたはずの中学校すら、面影も見えない。

 

「せ……ごぶっ……おえぇ!!!」

 

 声を上げようとして、さらに血を吐いた。

 ……内臓ズタズタかもしれん。

 

 それでも、両手も両足も動く。

 ふらつく体を気合で叱咤し、左半分の世界を認識する。

 

「先輩達…………どこだ?」

 

 皆はどこに行った?

 無事なのか?

 ここまできて、オレだけ生き残ったとか、笑えねぇぞ?

 だって、すでに一人……。

 

 思考を切り替え、皆を探そうと、一歩を踏み出した瞬間だった。

 

「うああああああああ!!!!」

 

 悲痛な叫び声が聞こえた。

 この声は……?

 

「どうしたの!?

 ねぇ! 鹿目さん!!」

 

 鹿目先輩と、暁美先輩の悲痛な声。

 嫌な予感なんてレベルじゃない。

 半強制的に体を動かし、オレは二人の下へ急ぐ。

 

「どう……して……!!」

 

辿り着いたオレが見たのは、倒れ、苦しんでいる鹿目先輩と。

 

「どうしちゃったの!?

 しっかりして!!」

 

 傍らで、必死に語りかける暁美先輩。

 

 …………なにが…………おきている………………?

 

 オレは、その光景を前に呆然としていた。

 何が起きているのか、まったく理解できていない。

 

「ワルプルギス……倒した……のに……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、オレは“真実”に辿り着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……ぁぁぁぁあああああああアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 契約し、右目がSG(ソウルジェム)になり。

 オレは“世界の右半分”を失った。

 見えるのは、魔女に関係するものだけ。

 最初は大変だったが、今ではそうでもない。

 確実に、オレは失った以上のモノを、手に入れたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレは、見た。

 黒の左目で。

 緑の右目で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何……? どうして……? なんで、こんな……?」

 

 暁美先輩の呟く声も、今のオレには届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、魔法少女が魔女になる瞬間。

 世界で最高に美しく、最低に醜い光景。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に、オレは“始まりの夜”を思い出す。

 あぁ……どうしてオレは、気付かなかったのか?

 どうしてオレは、忘れてしまっていたのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いずれ“魔女”になるのなら“魔法少女”でいいんだろうけど』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、あいつは確かに、そう言っていたじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “魂の結晶(希望)”が“魔女の種(絶望)”に変わる瞬間。

 オレは、この光景を、決して忘れる事は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界は、オレが思っているほど、悲しくプログラムされてはいない。

 だが、オレが感じている以上に、厳しくプログラムされているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくとオレは、暁美先輩を抱き上げ、全力疾走していた。

 いつ、彼女に近づいたのか。

 いつ、彼女を抱き上げたのか。

 いつ、オレは“彼女”から、逃げ出したのか。

 

 ただ、一言。

 自分が呟いたのだけは、覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ……笑えないなぁ……。




次回予告

こうして、全ての結末は確定する

二十四章 めでたし、めでたし

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