無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「それでもオレは。
 自分の終わり方を決められる分、不幸じゃないって思えるんだ」


二十五章 最後の嫌がらせ

SIDE 群雲琢磨

 

「私は、こことは別の未来から来たの」

 

 もうね、割り切るのにも限界ってものがあるんですよ。

 ナマモノぶっ殺して、多少は溜飲を下げた後に、この発言ですよ。

 

「えっと……どういう事?」

 

 オレの質問に、暁美先輩は真剣な表情で答えてくれた。

 

「私は、鹿目さんがワルプルギスの夜と戦い、死んでしまった別の未来で、キュゥべえと契約したの。

 その願いは“鹿目さんとの出会いをやり直し、彼女を守れる私になる”事。

 結果、私は魔法少女として、過去に戻ったの」

 

 ……つまり?

 

「未来を知っていた……?

 いや、未来を変える為に、過去に戻った……?」

 

 …………なら!!!!

 

「知ってたのか!? この結末を!!

 魔法少女の真実を!!!」

「知らなかったわよ!!」

 

 オレの叫び声が、暁美先輩らしくない、大きな声で掻き消された。

 

「知ってたら……こんな……」

 

 俯いてしまった暁美先輩に、オレは言葉を失う。

 

 …………………………。

 

「過去に、戻れるんだな?」

「……うん……」

 

 オレの言葉に、暁美先輩は涙を拭い、頷く。

 

「この結末を。

 こんな、くそったれた結末を変える事が出来るんだな?」

「私は……その為に戻るの」

「……そうか……」

 

 なんとも、羨ましい。

 オレは、ゆっくりと暁美先輩に近づくと、膝を着いてその手を取った。

 

「なら、躊躇う必要はない」

 

 彼女の手を離し、ゆっくりと立ち上がる。

 

「やり直せるのなら。

 やり直したいのなら。

 やり直す事ができるなら。

 絶望するには、まだ早いぜ、先輩」

 

 そして、オレは笑う。

 正直、うまく笑えてる自信は無い。

 それでもオレは、口の端を無理矢理持ち上げる。

 

「群雲……くん……」

 

 オレを見上げ、悲しげな表情を向ける先輩。

 ……笑えてないらしい。

 オレは、彼女の左手を取って、無理矢理立たせた。

 若干ふらつきながらも、立ち上がった暁美先輩の

 

 

 

 

 

 

 SG(ソウルジェム)を、最後の“ストック”で浄化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 暁美ほむら

 

 群雲くんの突然の行動に、私は固まった。

 

「オレの持つ、最後のGS(グリーフシード)だ。

 使うなら、オレよりも先輩だろう?」

 

 そう言って笑う彼の右目は、緑より黒の方が多い。

 ……かなり、穢れているのだ。

 

「そんな!

 群雲くんが「暁美ほむらぁ!」!?」

 

 私の言葉を、群雲くんが遮った。

 

「……“向こう”の皆に、よろしく」

 

 そう言って、群雲くんは微笑んだ。

 それは、私が初めて見た、群雲くんの“からっぽじゃない”笑顔。

 年相応の、未来を夢見る少年の笑顔。

 

「……うん!」

 

 その笑顔は確実に、私の背中を押した。

 そうだ。

 群雲くんの言うとおり、絶望するわけにはいかない。

 私はゆっくりと、群雲くんから離れると、盾に手を掛ける。

 回転させる瞬間、私は群雲くんの、最後の声を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼んだぜ、暁美さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 暁美先輩が、過去に戻った。

 

「時間遡行者とはね。

 道理で、彼女との契約の記録がないはずだ」

 

 その声に振り返ると、先程オレが殺したナマモノを、ナマモノが食べていた。

 

「……どういうことだ?」

「僕らは人類向けの交渉役端末機だ。

 スペアボディがあるのは、当然だろう?」

「そこじゃない。

 “暁美先輩との契約の記録が無い”ってのは、どういうことなんだ?」

「簡単な事さ。

 彼女が“別の未来”で契約したのなら“今の僕ら”に、知りうるはずが無いじゃないか」

 

 ……それも、そうか。

 自分の死体を食べ終わったナマモノは、そのままこちらに視線を移す。

 

「それで、琢磨はこれからどうするんだい?」

 

 聞かれて、オレは視線を“彼女”に移す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『解った気がする。

 鹿目先輩には、絶対に勝てないわ、オレ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前、オレが言った言葉が脳裏に浮かんだ。

 信じられるか?

 昨日の事なんだぜ、あれ。

 

「聞いていいか?」

「なんだい?」

 

 さっき、我慢の限界が来て殺してしまい、聞きそびれていた事を聞く。

 

「巴先輩が死んでいたのは、SG(ソウルジェム)が砕かれたから、か?」

「それ以外に無いね。

 魔法少女となった以上、終わり方は二つしかない。

 “SG(ソウルジェム)が砕ける”か“魔女になるか”のどちらかだ。

 随分と、もったいない事をしたよ」

 

 なるほど、ね。

 なら、オレがする事は決まっているな。

 

「はっきり言おうか。

 オレは、宇宙の寿命になんか、興味ない。

 他人が魔法少女になろうが、魔女になろうが、関係ない。

 オレは、いつだって“オレの為”に動く」

 

 オレはゆっくりと。

 

「だから、オレはお前の為に、動く事は無い。

 絶対にだ」

 

 右手の銃を持ち上げて。

 

「これが、オレの最後の嫌がらせだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃口を“右目()”に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わけがわからないよ」




第一幕 これにて閉幕

されど、少女は歩みを止めはしない

願いを叶える為 希望を繋ぐ為

再び少女は、あの場所へ





忘れてはならない

そこは、すでに違う舞台

役者の数も違えば




立ち位置も、違う





そして世界は、視点で変わる










次回より始まるは、第二幕




失意と約束のsecond night



二十六章 協力する理由ってなんだ?

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