「魔法少女と戦う事に、違和感を持つ者は多いだろうね」
「まあ、オレから言わさせてもらうなら」
「動物を狩るのに猟銃を使う事と」
「人を殺す事に猟銃を使う事」
「その程度の違いでしかないんだけどな」
「……すべからく平等に、命はひとつだぜ?」
「まじん……むらくも……?」
使い魔だけの不安定な結界の中に、まどかの呟きが響く。
「その通り。
気軽にまーくんと呼んでくれても良いぞ。
むらっちでも、可」
「ふざけてんの?」
決して目の笑っていない笑顔を向けながら、考え無しに話す群雲に、さやかが警戒レベルを上げる。
「ふざけてなんかいないさ。
オレが“魔人”なのも、オレの名前が“群雲”なのも事実であり、真実だ」
「それで、君は何が目的なのかしら?」
マミの質問に、群雲は右手中指を眉間に添える。
「この街が、他の街に比べて魔女が多い事は?」
三人の魔法少女の動向を見落とさないよう、細心の注意を払いながら、群雲はカードを切り出した。
「知っているわ」
「なら、魔女狩りを生業とする者が、ここにいる理由は解る筈だ」
「……縄張り争い?」
いつしか、マミが先頭に立ち、群雲との会話を続ける。
「率先して、敵を作る趣味は無い。
が、足手纏いと一緒に戦うほど、オレは強くもない」
「あたしらが、弱いって言うの!?」
「お、落ち着いて、さやかちゃん!」
群雲の言葉にさやかが声を荒げるが、それをまどかが抑える。
「では聞くが、君達は何の為に魔女と戦う?
何の為に、他の命を奪う?」
一つ目の質問になら、三人全員が即座に答えただろう。
だが、二つ目はどうか?
「人間が、他の命を喰う。
魔女が、人間を喰う。
そして“オレ達”が、魔女を喰う。
シンプルな構図だ」
ここで群雲は、あえて“喰う”という表現を使う。
彼女達が“誰かの為に戦っている”のは、先日解っている。
今、群雲が計っているのは。
「あんた……他の人がどうなっても良いっての!?」
「知ったこっちゃ無いな」
それとは、別の事だ。
「オレは、いつだって“オレの為”にこの力を使う。
誰かの為に、平気で命を懸ける。
そんな、自分を蔑ろにするような奴と、共闘するなど愚の骨頂だ」
その言葉と共に、状況が動いた。
さやかが、群雲に飛び掛ったのだ。
群雲は素早く、左手の日本刀を取り出し、逆手で僅かに抜いた刀身で、さやかの剣を受け止めた。
「あんた……!
何の為に、魔法少女になったのよ!?」
「間違えるな。
魔人だ。
そして、自分の為だと言った筈だが?」
懸命に力を込めるさやかと、表情を変えずに受け止める群雲。
さやかにとって、群雲の言葉は、自分の願いすら否定されたように聞こえたのだ。
だが、そんな事など知りもしない群雲は、さやかの行動に溜息をひとつ。
その行動が、さやかをヒートアップさせる。
「こっのぉ!!」
より一層込められる力。
それを、変わらずに受け止める群雲は、静かに言葉を紡ぐ。
「やれやれ……。
オレは別に、戦いに来たわけじゃないんだが」
[佐倉先輩。
交渉決裂っぽい]
[お前、あれで交渉してるつもりだったのかよ!?]
変わらず、状況を見ていた杏子は、思わず群雲にツッコミを入れた。
[こちらの考えを話して、向こうの考えを聞くつもりが、なんか斬りかかられた]
[……馬鹿だろ、お前]
[あるぇ~?]
念話を繰り返しながらも、さやかの攻撃に微動だにしない辺り、群雲の戦闘経験は豊富である。
[適当に相手しな。
マミが動くようなら、あたしも加勢するが。
その程度なら、一人で充分だろ]
[戦う前提かい!?
つか、その程度とか言っちゃう辺り、佐倉先輩も喧嘩売ってるだろ?]
[弱い奴とは組まないってのには、あたしも同意だ。
琢磨との戦いで、組むかどうかを判断する事にするわ]
[当て馬ですかい!?
まあ、個人的な意見を言うなら]
群雲は、一気に力を抜いて半歩体をずらす。
受け止めていた力が突然無くなり、さやかは力を込める勢いのまま、前のめりに倒れこんだ。
「[不合格だ]」
念話と会話で、まったく同じ事を言い、群雲は刀を納めた。
必死に立ち上がり、剣を構えるさやかを見ながら、群雲は落胆したように言った。
「無駄な魔力を使いたくはないし、弱い者いじめは趣味じゃないんだが」
鞘を持つ左手と突き出し、右手をいつでも抜けるように添えながら。
「勝てない相手ならともかく、勝てる相手から逃げる道理は無い」
「なっ!!」
群雲に、挑発する意思は無い。
無駄な戦いを好まないのも事実だし、勝てそうに無い相手なら、恥も外聞も気にせずに逃げ出すだろう。
だが、勝てるのに逃げ出すなんて不毛な事も、選ばない。
故に、戦闘が継続されるのであれば、群雲は戦う。
戦う事を、選ぶ。
だが、これは殺し合いではない。
向こうはどう思うかは知らないが、群雲にとっては力比べ程度の事。
今の相方が、群雲との戦いを見て判断すると明言したのも、理由の一つではあるが。
考察を止め、思考を切り替える。
「加減無く手加減し。
抜かり無く手を抜いて。
命の保障も約束する」
そして、群雲は。
「だから、戦るのならば、本気で来い」
口の端を持ち上げて告げた。
「では、闘劇をはじめよう」
次回予告
その者 少年につき
その者、魔人につき
その者
狂人につき
二十九章 群雲琢磨は、そういうやつである