無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「魔女と戦う事に、違和感を持つ者はすくないだろうけど」
「魔法少女と戦う事に、違和感を持つ者は多いだろうね」
「まあ、オレから言わさせてもらうなら」
「動物を狩るのに猟銃を使う事と」
「人を殺す事に猟銃を使う事」
「その程度の違いでしかないんだけどな」
「……すべからく平等に、命はひとつだぜ?」


二十八章 不合格だ

「まじん……むらくも……?」

 

 使い魔だけの不安定な結界の中に、まどかの呟きが響く。

 

「その通り。

 気軽にまーくんと呼んでくれても良いぞ。

 むらっちでも、可」

「ふざけてんの?」

 

 決して目の笑っていない笑顔を向けながら、考え無しに話す群雲に、さやかが警戒レベルを上げる。

 

「ふざけてなんかいないさ。

 オレが“魔人”なのも、オレの名前が“群雲”なのも事実であり、真実だ」

「それで、君は何が目的なのかしら?」

 

 マミの質問に、群雲は右手中指を眉間に添える。

 

「この街が、他の街に比べて魔女が多い事は?」

 

 三人の魔法少女の動向を見落とさないよう、細心の注意を払いながら、群雲はカードを切り出した。

 

「知っているわ」

「なら、魔女狩りを生業とする者が、ここにいる理由は解る筈だ」

「……縄張り争い?」

 

 いつしか、マミが先頭に立ち、群雲との会話を続ける。

 

「率先して、敵を作る趣味は無い。

 が、足手纏いと一緒に戦うほど、オレは強くもない」

「あたしらが、弱いって言うの!?」

「お、落ち着いて、さやかちゃん!」

 

 群雲の言葉にさやかが声を荒げるが、それをまどかが抑える。

 

「では聞くが、君達は何の為に魔女と戦う?

 何の為に、他の命を奪う?」

 

 一つ目の質問になら、三人全員が即座に答えただろう。

 だが、二つ目はどうか?

 

「人間が、他の命を喰う。

 魔女が、人間を喰う。

 そして“オレ達”が、魔女を喰う。

 シンプルな構図だ」

 

 ここで群雲は、あえて“喰う”という表現を使う。

 彼女達が“誰かの為に戦っている”のは、先日解っている。

 今、群雲が計っているのは。

 

「あんた……他の人がどうなっても良いっての!?」

「知ったこっちゃ無いな」

 

 それとは、別の事だ。

 

「オレは、いつだって“オレの為”にこの力を使う。

 誰かの為に、平気で命を懸ける。

 そんな、自分を蔑ろにするような奴と、共闘するなど愚の骨頂だ」

 

 その言葉と共に、状況が動いた。

 さやかが、群雲に飛び掛ったのだ。

 群雲は素早く、左手の日本刀を取り出し、逆手で僅かに抜いた刀身で、さやかの剣を受け止めた。

 

「あんた……!

 何の為に、魔法少女になったのよ!?」

「間違えるな。

 魔人だ。

 そして、自分の為だと言った筈だが?」

 

 懸命に力を込めるさやかと、表情を変えずに受け止める群雲。

 さやかにとって、群雲の言葉は、自分の願いすら否定されたように聞こえたのだ。

 だが、そんな事など知りもしない群雲は、さやかの行動に溜息をひとつ。

 その行動が、さやかをヒートアップさせる。

 

「こっのぉ!!」

 

 より一層込められる力。

 それを、変わらずに受け止める群雲は、静かに言葉を紡ぐ。

 

「やれやれ……。

 オレは別に、戦いに来たわけじゃないんだが」

[佐倉先輩。

 交渉決裂っぽい]

[お前、あれで交渉してるつもりだったのかよ!?]

 

 変わらず、状況を見ていた杏子は、思わず群雲にツッコミを入れた。

 

[こちらの考えを話して、向こうの考えを聞くつもりが、なんか斬りかかられた]

[……馬鹿だろ、お前]

[あるぇ~?]

 

 念話を繰り返しながらも、さやかの攻撃に微動だにしない辺り、群雲の戦闘経験は豊富である。

 

[適当に相手しな。

 マミが動くようなら、あたしも加勢するが。

 その程度なら、一人で充分だろ]

[戦う前提かい!?

 つか、その程度とか言っちゃう辺り、佐倉先輩も喧嘩売ってるだろ?]

[弱い奴とは組まないってのには、あたしも同意だ。

 琢磨との戦いで、組むかどうかを判断する事にするわ]

[当て馬ですかい!?

 まあ、個人的な意見を言うなら]

 

 群雲は、一気に力を抜いて半歩体をずらす。

 受け止めていた力が突然無くなり、さやかは力を込める勢いのまま、前のめりに倒れこんだ。

 

「[不合格だ]」

 

 念話と会話で、まったく同じ事を言い、群雲は刀を納めた。

 必死に立ち上がり、剣を構えるさやかを見ながら、群雲は落胆したように言った。

 

「無駄な魔力を使いたくはないし、弱い者いじめは趣味じゃないんだが」

 

 鞘を持つ左手と突き出し、右手をいつでも抜けるように添えながら。

 

「勝てない相手ならともかく、勝てる相手から逃げる道理は無い」

「なっ!!」

 

 群雲に、挑発する意思は無い。

 無駄な戦いを好まないのも事実だし、勝てそうに無い相手なら、恥も外聞も気にせずに逃げ出すだろう。

 だが、勝てるのに逃げ出すなんて不毛な事も、選ばない。

 故に、戦闘が継続されるのであれば、群雲は戦う。

 戦う事を、選ぶ。

 だが、これは殺し合いではない。

 向こうはどう思うかは知らないが、群雲にとっては力比べ程度の事。

 今の相方が、群雲との戦いを見て判断すると明言したのも、理由の一つではあるが。

 考察を止め、思考を切り替える。

 

「加減無く手加減し。

 抜かり無く手を抜いて。

 命の保障も約束する」

 

 そして、群雲は。

 

「だから、戦るのならば、本気で来い」

 

 口の端を持ち上げて告げた。

 

 

 

 

 

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

その者 少年につき




その者、魔人につき




その者




狂人につき



二十九章 群雲琢磨は、そういうやつである

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