「なんだよ?」
「……どちらを相手にする?」
「決まってんだろ、そんなの」
魔女結界の中で対峙する、魔法少女達(+1)。
“魔女の脅威から人々を守る為に戦う”マミチームと。
“自分の為に力を使う事を共通とする”杏子と群雲のコンビ。
「こちらの目的は、あくまでも“魔女狩り”であり“魔法少女狩り”ではない。
無用な戦いを避けるのは、上策ではないかね?」
いつでも日本刀が抜けるよう、逆手抜刀の構えを取りながら、群雲が告げる。
[そういや、なんでマミ達の前だと、そんな芝居掛かった口調なんだ?]
[このタイミングで、そんなどうでも良い事で念話するかよ、先輩?]
[いや、気になったもので]
[緊張感、ないなぁ]
目的こそ、
だからこそ、緊迫した状況ながらも、さして気を張る必要もない。
[照れるんだよ。
元々、女子とまともに会話なんか、した事ねぇんだもの]
[あたしは?]
[今でも、気を抜くと照れる]
[慣れろよ、いい加減]
[結構慣れた方だぞ。
佐倉先輩限定だけど]
しかし、相手の魔法少女は、そう思ってはいない。
[まさか、以前に会った少年と、佐倉さんが一緒に行動しているとは、ね]
[知り合いなんですか?]
[佐倉さんとは、以前に一緒に戦った事があるわ]
[じゃあ、なんで自分の為にしか、戦おうとしないんですか、あいつ?]
[……それが、別れた原因の一つよ]
それぞれの武器を展開し、油断なく構える、三人の魔法少女。
そして。
(やっぱりそうだ。
私が過去に戻る度に、少しずつ状況が変わってる。
美樹さんが魔法少女になったのも初めての事だし、赤い魔法少女も初めて見る)
暁美ほむらは今回、見滝原中学への転入を、前回よりも遅らせていた。
自作爆弾の数を増やす為だ。
加えて“以前の世界で、群雲から渡されたままだった拳銃”の弾を、新たに自作していた為でもある。
その結果が、現在の状況。
美樹さやかが、新たに魔法少女となり。
『……“向こう”の皆に、よろしく』
自分の為と言いながらも、その身を削っていた、不器用な少年が。
「こちらは、魔女を倒せればそれでいい。
そちらは、使い魔も討伐対象なのだろう?
なら大人しく、使い魔を退治していればいい。
その間に、こちらが魔女を倒して、一件落着だ」
完全に、対峙した状態になっている。
自分の“時間”と、自分以外の“時間”のズレが、少しずつ……。
「おいしいところだけ、持って行こうっての?」
「あんたもやっぱり、
あたしらと一緒じゃん」
「~っ!?」
ほむらの心情を気にする事無く、状況は刻一刻と変化していく。
完全に、敵対状態となってしまっている。
「まあ、あたしらは自分の為に戦うんだから」
「邪魔するのなら、加減はしないぜ?」
背中合わせに、槍と刀を構える二人は、いつでも動けるように構える。
「あんた達みたいな奴を、あたしは認めない!」
それに合わせる様に、さやかの叫びがあたりに響く。
「だったら、掛かってきなよ」
杏子が、それに応対する。
「譲れないんだろ?
許せないんだろ?
だったら、あたしらは戦うしかない」
口の端を持ち上げ、杏子が一歩前に出る。
「話も大して通じない。
互いに譲る気も無い。
なら……戦りあうしかないよねぇ!!」
杏子の言葉を合図に、戦闘が始まる。
さやかは、自らの周りにある刀剣を、掴み投げ、蹴り飛ばす。
それに対して、杏子は一歩も動かずに。
……群雲が動いた。
飛んできた一本目を逆手抜きで弾き。
右手に刀、左手に鞘の抜刀状態で。
“両方”を駆使し、襲い来る刀剣を全て弾き落とす。
「くっ!」
それを見たさやかは、その手に剣を持ち、間合いを詰める。
さやかの動きに合わせて、まどかは弓を引き、マミは銃を手に取る。
だが。
さやかが攻撃を開始した瞬間に。
杏子は魔法準備に入っており。
群雲が前に出る事で、時間を稼いで見せた。
そして、間合いを詰めてきたさやかの横を、群雲が通り過ぎた瞬間。
杏子の魔法が発動した。
赤いダイヤを繋ぎ合わせた防御結界。
杏子とさやかだけを見事に分断し、一対一の構図が出来上がる。
「来なよ。
格の違いを教えてやるからさ!」
自らの予定通りの状況を作り上げ、串を咥えたまま、杏子は不敵に笑った。
「せめて、二対一なら、やり様があったんだけどな」
刀を鞘に収めつつ、群雲も不敵に笑う。
「でもまあ、なんとかするさね」
その手に、黒い放電を起こしながら、一人の魔人が三人の魔法少女と対峙する。
[負けるなよ?]
[先輩こそ、足元掬われるようなら、指差して笑っちゃるからな]
念話を交わし、始まるのは殺し合い。
自分の為に戦う者と、誰かの為に戦う者の、譲れないからこその衝突。
お菓子だらけの空間で、全ての役者が、舞台に上がる。
次回予告
全ての役者が揃った
一人は、見滝原を守り続ける少女
一人は、守る事で、絶望を味わった少女
一人は、守る事を、心に決めた少女
一人は、救う為に、願いを叶えた少女
一人は、未来の為に戻ってきた少女
一人は、笑う為に今を生きる少年
三十四章 幕は既に上がった