「佐倉先輩一択だろ?
最初に会った時、ボコボコにされたじゃん、オレ」
佐倉杏子と、美樹さやかが対峙する。
これ以上の言葉は必要無く。
後は、行動で示すだけ。
自分の為に戦うという事を。
誰かの為に戦うという事を。
群雲琢磨と、三人の魔法少女が対峙する。
一人は、後輩を導く、ベテラン魔法少女。
一人は、誰かの為になる事を喜びとする、心優しき魔法少女。
一人は、悲劇を変える為に戻ってきた、別時間軸の魔法少女。
「話をしよう」
そんな、魔法少女に対するは、魔人群雲。
自分の為に願い、その力を振るう狂人。
「あれは、今から36万……いや、1万年と二千年前から愛している話だ」
「……それ、今必要な事?」
日本刀を<
その群雲に対し、油断無くマスケット銃を向けるマミ。
「知ってるか?
八千年過ぎると、もっと恋しくなるらしいぞ?」
戦いは、杏子が優勢。
さやかは剣、杏子は槍。
獲物の長さも重要であるが、なによりも戦闘経験が圧倒的に違う。
特に杏子は“自身の願いによる固有魔法”を、現在封印している。
その上で、数多の魔女を狩る為に研ぎ澄まされてきた槍術は、契約前に戦闘経験があるわけでもなく、契約後の戦闘経験もさして多くないさやかに遅れを取るはずもない。
分断が成功した時点で、片側の勝敗は9割方確定したと言っても、過言ではないのだ。
では、もう片方はどうか?
「ちなみに、一億と二千年後も続くらしい」
マミが動くなら、あたしも動く。
以前、杏子がそう言ったように、マミはベテランである。
加えて、他にも魔法少女が二人いる。
個々の能力はともかく、連携力が高いのは、以前の邂逅で確認済み。
故に今、群雲に必要なのは、戦う事ではない。
「そんな世界だったら……オレ達は殺しあう必要は無かったのかもしれないな」
相棒が、勝利を確定させるまでの“時間稼ぎ”なのである。
「だが現実として、オレ達はこうして対峙している。
かと言って、オレ自身に戦闘の意思は無い。
敵意を向けられない限りは、な」
杏子の槍が、さやかをガードごと弾き飛ばしたのを確認して、群雲は魔法少女に向き直る。
「君らは何をしたい?
人々を護りたいのか?
それとも、得た力を存分に振るいたいのか?」
緑と黒の瞳が、魔法少女達を射抜き。
口から発せられた問いかけが、魔法少女達を射抜く。
「……わたし……は……」
まどかが答えようとするが、言葉が続かない。
魔女の脅威から、人々を護る為に、戦っている。
それは間違いないと、はっきり言えるだろう。
だからこそ。
この“魔法少女同士が殺しあう状況”は、まどかにとって悪夢でしかないのだ。
「答える必要は無いわよ、鹿目さん」
油断無くマスケット銃を構えながら、マミがまどかに声を掛ける。
そのまま、群雲に対して、その意思を告げる。
「仮に、貴方に戦う意思が無かったとしても。
貴方の後方では、私達の仲間が戦っているわ。
佐倉さんの実力は知ってる。
一刻も早く、美樹さんと合流したいの」
「せっかく、喧嘩っ早い二人が向こう側にいるんだ。
オレ達は、無駄に争う事無く、話し合いで解決しようとは思わないのか?」
「話し合いで解決できるなら、この状況にはならなかったわ」
チームリーダーとして、マミにはさやかを助けなければならないという、責任感がある。
群雲は、中指を眉間に当て、軽く息を吐く。
眼鏡があれば、押し上げていたであろうその仕草をしながら。
(盛り上げるか!)
群雲は、思考を完全に切り替えた。
「なら、とっとと引き金を引いて“人殺し”になればいい」
「「「!?」」」
低く、唸るように発せられた言葉に、魔法少女達は息を飲む。
目的の為に、自分の感情、自分の性格、自分の意思を、完全に隅に追いやり。
群雲は、口の端を持ち上げながら。
完全に、割り切った。
「よーいどん、で始まる殺し合いなんて、存在しない。
邪魔なんだろう、オレが?
だったら躊躇い無く「パンッ!」こうやって「きゃあぁ!!」引き金を引けばいい」
言葉の最中。
一切の前触れ無く、群雲は右腰の銃を取り出して、マミに向けて引き金を引いた。
流石に想定外だったらしく、弾丸が命中したマスケット銃を落としてしまうマミ。
「では、闘劇をはじめよう」
その隙に、右脇のオートマチック拳銃を左手で取り出し、群雲は告げた。
「ま、待って!」
「もう遅い!
幕は既に上がった!!」
まどかの言葉を切って捨て、群雲は両手の銃を構えた。
佐倉杏子と美樹さやかの、殺しあう音をBGMに。
鹿目まどかにとっても。
暁美ほむらにとっても。
そして。
群雲琢磨にとっても。
望まない殺し合いが、始まる。
次回予告
戦う事に慣れる事と
殺し合う事に慣れる事は違う
魔女との戦闘経験が豊富である事
それを、人はベテランと言う
戦う事に慣れる事と
殺し合う事になれる事は違う?
三十五章 時と命は、有限である