「しらんがな。
才能が無いんじゃね?」
「魔法少女と魔人の違い、とかか?」
「さあね。
ナマモノが言うには、魔人自体、絶対数が少ないらしいからなぁ」
「ちなみに、自分以外の魔人に会った事は?」
「ないよ?
魔法少女と同じように、昔の偉人の中に、何人かいるらしいけど」
さやかと杏子の戦いは、近接戦闘。
戦闘経験が豊富な杏子が、常時有利な状態が続いている。
しかし、勘違いしてはいけない事がある。
それは、杏子が手加減をしていない事。
殺すつもりで戦っている。
非道と思うかもしれないが、自らの為の生を望む者にとって、その判断は決して間違ったものではない。
そして、相手に手心を加えないという事は、戦いに生きる者にとって、なによりも正しい。
そんな相手を前に、さやかはまだ“負けていない”。
自身の願いによる、回復能力の高さもあるだろう。
だが、なによりも。
“心が折れていない”
戦いの運命を選んででも、想い人の為に願った少女は、魔女との戦いを望んでいるのではない。
人々を護る戦いを、望んでいるのだ。
「負けるもんかあああぁぁぁ!!!」
もうしばらく、二人の少女の信念の戦いは、続きそうである。
対して、魔人と魔法少女の戦いは、遠距離戦。
正確には、銃撃戦となった。
チームリーダーのマミは、マスケット銃による応戦。
魔人群雲は現在、両手に
まどかとほむらは、その戦いに巻き込まれないよう、少し離れた位置にいる。
銃を撃ち、弾丸を避ける。
そんな戦いに介入する事が、いかに危険であるか。
まどかの武器は弓であるし、ほむらも“前の時間軸”で、群雲から貰った銃がある。
しかし、マミの銃弾を避ける相手に、自らの攻撃を命中させる事の困難さを、二人は充分に理解していた。
対するマミも、他二人に魔人の攻撃が向かわないように、自らが矢面に立つ形で戦闘をしている。
そして群雲は、他二人(特にほむら)の攻撃が、想定できない以上、刀による近距離戦は分が悪いと判断。
リボルバーとショットガンよりも、弾数と装填のしやすさに優れている自動拳銃で応戦しているのだ。
同系統の武器で戦っているマミと群雲。
差異こそあれど、その戦闘思考は、かなり似通っている。
(私の武器には“
(銃の使用には“構える”“狙う”“撃つ”の3アクションを必要とする)
((その攻撃を避ける手段を、相手は持っている))
((狙う際の銃口の向きを瞬時に判断し))
(左右によるランダムな高速移動で、射線から逃れてる)
(周りのマスケット銃を盾にする事で、オレの弾丸を防いでる)
刀剣に比べ、圧倒的な威力と射程があるが、銃の攻撃はあくまでも“直線的”である。
群雲は<
マミは、周りのマスケット銃を、群雲と自分の間に位置するように立ち回ることで、飛来する弾丸を予測して防いでいる。
弾は、無限ではない。
群雲の銃にも装填数は決まっているし、マミの銃はそもそも単発式である。
“
マミは、新たなマスケット銃の召還。
群雲は右手の平の<
当然、互いにその動作の隙を突く事を考えるのだが。
((隙を突こうにも……))
(使用したマスケット銃の一部を消さず、盾にする事で)
(交換中も、高速移動を止めない事で)
((隙を補っている))
ここでも、思考が似通っている。
だが、弾は無限ではないのだ。
群雲の銃はもとより、マミの銃も魔力によるもの。
平行線を辿る、現在の戦闘状態では、いずれ尽きるのは必須。
(なら、大技を決める?)
(なら、戦闘方法を変える?)
((それも、難しい))
(大技の隙を突かれたら、終わりだわ)
(銃弾を防ぐ相手に、弾速の遅い
(リボンによる、拘束魔法を使うにしても)
(刀に変えて、距離を詰めるにしても)
(ただ発動しただけならば、逃れられてしまう。
それだけのスピードを、相手は持っているし、日本刀を抜かれては無力)
(後ろ二人の追撃に、対応出来る保障はない。
一人は弓だしな)
結果、動き回る膠着状態という、異常な状況が出来上がってしまっている。
だが、このままではジリ貧であるのは、疑いようの無い事実。
魔女結界の中。
赤い結界魔法で分断された二つの戦い。
先に終わるのは、果たしてどちらか。
それを誰よりも知るほむらは、気が気ではない。
ここで
ほむらはまだ“魔法少女の真実”を、チームメイトに話してはいない。
まだ、合流して間もないのもあるが。
“前の時間軸”で共に戦った魔人が来てから、話をしようと思っていたからだ。
だが、現れた魔人は、敵対中であるし、話を出来る状況でもない。
“ワルプルギスの夜”という、超弩級の魔女が現れる事を“知っている”ほむらにとって、予想以上に悪化した状態だった。
しかし、永遠に続く状況など、存在しない。
(盛り上げるか!)
―――――魔人が、動く。
次回予告
変化する戦況
譲れないモノの為
二人は、この舞台で舞う
三十六章 魔弾の舞踏