無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「お前、どうやって生きたい?」
「また、抽象的すぎる質問だな。
 まあ、オレは笑うだけさね」



三十六章 魔弾の舞踏

―――――魔人が動く。

 

 

 

 

 

 両手の自動拳銃に、新たな弾倉をセットし終えた群雲は、両手の銃を真っ直ぐにマミに向けながら。

 

 マミに向かって、一直線に突き進みだした。

 

「!?」

 

 想定外の行動に、面食らったものの、マミは冷静に次のマスケット銃を手に取り、狙い、撃つ。

 対する群雲は、当る当らないに関わらず、両手の銃の引き金を引き続けながら、直進する。

 

 遠距離での銃撃戦では、埒が明かない。

 

 

 

“なら、近距離での銃撃戦なら?”

 

 

 

 それが、群雲の狙いだ。

 相手が単発式の銃である事。

 こちらは、両手に持つ自動拳銃以外にも、右腰のリボルバー、腰の後ろのショットガンがある。

 

 加えて、銃であるならば、他二人の魔法少女にも対応しやすい。

 

 故に、群雲は両手の自動拳銃の弾を新たに込めた瞬間に、行動を開始した。

 相手の動きを封じるように、両手の銃を乱射し、弾幕を張る。

 時折、群雲の弾とマミの弾が空中で衝突するという、異常な現象を生みながら。

 

 右手の銃が弾切れになると同時に、群雲はついにマミを“射程内”に捉えた。

 

「くっ!」

 

 次のマスケット銃を左手に持ち、銃口を向けるマミ。

 

「ふっ!」

 

 その銃を、右手の弾切れの銃で弾き、銃口を反らす。

 同時に、左手の銃口をマミに向けて。

 

「おっ!」

 

 足元の空のマスケット銃を蹴り上げて、その銃口を無理矢理反らす。

 そして、マミはマスケット銃を新たに生み出し。

 群雲は右手の銃を左脇に戻し、右腰のSAAを抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「介入……出来ない……」

 

 その戦いを見守るしか出来ない、まどかとほむら。

 二人の前で、新たな局面を迎える、先輩魔法少女と魔人の戦い。

 

 狙う、反らす、撃つ、狙う、弾く、狙う、反らす、狙う、弾く、撃つ、狙う、反らす。

 一瞬のうちに攻防が入れ替わる、近距離の銃撃戦。

 群雲が、左手の銃を向ければ。マミが、右手で弾く。

 マミが、左手のマスケットを向ければ。群雲が、右手でマスケットを押し上げる。

 群雲が、右手の銃を向ければ。マミが、回転しながら軸をずらし、射線から逃れる。

 マミが、右手のマスケットを向ければ。群雲が、銃口が自分に向く前に叩き落す。

 

 目まぐるしく、攻守入れ替わる攻防。

 むしろ、二人とも銃を使うが為に。

 二人ともが、銃を使いこなすが為に。

 

 “攻撃と防御を同時に行う、近距離の銃撃戦”

 

 いかに、銃口を相手に向けて、引き金を引くか。

 いかに、向けられた銃口から弾が出る前に、射線から逃れるか。

 それはまさに、二人ともが銃使いであるからこその“魔弾の舞踏”であった。

 

 

 

 

 

 だが、二人が使うのは銃である。

 ……弾が尽きるのは必須。

 群雲の左手の銃が弾切れになる。

 それを右脇に戻しながら、右手の銃口を向け、引き金を引く。

 その直前に、マミが空のマスケット銃を群雲の右腕に押し当て、むりやり銃口を反らす。

 放たれた最後の弾丸が、地面に着弾すると同時に、群雲は左手で、腰の後ろからショットガンを取り出す。

 群雲がリボルバーを右腰に戻すと同時に、マミは傍らにある最後のマスケット銃を左手で持つ。

 

 

 

 

 そして、そのまま二人は左手の銃口を相手に向けると同時に、相手の銃身を右手で掴んだ。

 

「!?」

 

 息を呑む音。

 それは果たして、誰のものであったか。

 互いの銃口は、ギリギリのところで、互いの手に阻まれ、その狙いを僅かにずらしていた。

 

(まさか、私の動きにここまでついてくるなんて!?)

(完全にアドリブな動きになるから、<電気操作(Electrical Communication)>による高速行動が使えないとはいえ……完全に互角とか!?)

 

 リボンから銃を生み出し、使い続けてきたマミ。

 契約後すぐに実弾銃を調達し、使い続けてきた群雲。

 

 互いに“魔女”という異形と戦う為に、銃を手にした者であるが故。

 互いに、銃を使い、知る者であるが故。

 

 実力は、伯仲していた。

 

(でも……今なら?)

 

 だが、二人には決定的な違いがある。

 それは、性別の違いでもなければ。

 種族(魔法少女と魔人)の違いでもない。

 

(完全に、動きを止めた今なら……!)

 

 それは“人数”の違い。

 分断された魔人は、今は一人で。

 分断された魔法少女は、三人いるという事実。

 

[待って、鹿目さん]

 

 弓を展開しようとしたまどかに、マミからの念話が届く。

 

[ここは、私に任せてくれないかしら?]

[マ、マミさん!?

 でも!]

[大丈夫よ。

 後輩の前で、格好悪い所は見せられないもの!]

 

 そして、マミは口元に笑みを浮かべる。

 それを見た群雲に、なんとも言えない悪寒が走る。

 そして、その一瞬の後。

 

「なにっ!?」

 

 先程のやり取りで、周りに刻まれたマミの銃創から、黄色い糸が現れる。

 流石に想定外だった群雲は、思わずそちらに気を取られる。

 その一瞬。

 それが、戦いの明暗を分けた。

 

「レガーレ!」

 

 群雲の意識が逸れた瞬間を見計らい、マミは両手を離し、拘束魔法を発動した。

 

「しまっ!?」

 

 群雲が身を翻すより早く、マミのリボンが群雲を捉え、拘束する。

 黄色いリボンが巻き付き、その体を僅かに宙に持ち上げ、群雲の動きは完全に封じられた。

 

(拘束魔法……以前の戦いで使おうとしてたのも、この魔法か!?)

 

 もがきながらも、群雲は状況を打開する為に、思考を展開させる。

 

(刀を抜くのも無理だし、力ずくで脱出も無理、か)

 

「まったく……梃子摺らせてくれたわね。」

 

 マミは、傍らに落ちた最後のマスケット銃を手に取り、周りの空になったマスケットを消す。

 

「美樹さんを助けなければならないの。

 しばらく、そのままでいてもらうわ」

 

 それは、マミの勝利宣言であった。




次回予告

戦いという事象

争いという事象





始まる以上は、終わりがある





それは、変えられない運命





三十七章 帰るけど

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