「また、抽象的すぎる質問だな。
まあ、オレは笑うだけさね」
―――――魔人が動く。
両手の自動拳銃に、新たな弾倉をセットし終えた群雲は、両手の銃を真っ直ぐにマミに向けながら。
マミに向かって、一直線に突き進みだした。
「!?」
想定外の行動に、面食らったものの、マミは冷静に次のマスケット銃を手に取り、狙い、撃つ。
対する群雲は、当る当らないに関わらず、両手の銃の引き金を引き続けながら、直進する。
遠距離での銃撃戦では、埒が明かない。
“なら、近距離での銃撃戦なら?”
それが、群雲の狙いだ。
相手が単発式の銃である事。
こちらは、両手に持つ自動拳銃以外にも、右腰のリボルバー、腰の後ろのショットガンがある。
加えて、銃であるならば、他二人の魔法少女にも対応しやすい。
故に、群雲は両手の自動拳銃の弾を新たに込めた瞬間に、行動を開始した。
相手の動きを封じるように、両手の銃を乱射し、弾幕を張る。
時折、群雲の弾とマミの弾が空中で衝突するという、異常な現象を生みながら。
右手の銃が弾切れになると同時に、群雲はついにマミを“射程内”に捉えた。
「くっ!」
次のマスケット銃を左手に持ち、銃口を向けるマミ。
「ふっ!」
その銃を、右手の弾切れの銃で弾き、銃口を反らす。
同時に、左手の銃口をマミに向けて。
「おっ!」
足元の空のマスケット銃を蹴り上げて、その銃口を無理矢理反らす。
そして、マミはマスケット銃を新たに生み出し。
群雲は右手の銃を左脇に戻し、右腰のSAAを抜く。
「介入……出来ない……」
その戦いを見守るしか出来ない、まどかとほむら。
二人の前で、新たな局面を迎える、先輩魔法少女と魔人の戦い。
狙う、反らす、撃つ、狙う、弾く、狙う、反らす、狙う、弾く、撃つ、狙う、反らす。
一瞬のうちに攻防が入れ替わる、近距離の銃撃戦。
群雲が、左手の銃を向ければ。マミが、右手で弾く。
マミが、左手のマスケットを向ければ。群雲が、右手でマスケットを押し上げる。
群雲が、右手の銃を向ければ。マミが、回転しながら軸をずらし、射線から逃れる。
マミが、右手のマスケットを向ければ。群雲が、銃口が自分に向く前に叩き落す。
目まぐるしく、攻守入れ替わる攻防。
むしろ、二人とも銃を使うが為に。
二人ともが、銃を使いこなすが為に。
“攻撃と防御を同時に行う、近距離の銃撃戦”
いかに、銃口を相手に向けて、引き金を引くか。
いかに、向けられた銃口から弾が出る前に、射線から逃れるか。
それはまさに、二人ともが銃使いであるからこその“魔弾の舞踏”であった。
だが、二人が使うのは銃である。
……弾が尽きるのは必須。
群雲の左手の銃が弾切れになる。
それを右脇に戻しながら、右手の銃口を向け、引き金を引く。
その直前に、マミが空のマスケット銃を群雲の右腕に押し当て、むりやり銃口を反らす。
放たれた最後の弾丸が、地面に着弾すると同時に、群雲は左手で、腰の後ろからショットガンを取り出す。
群雲がリボルバーを右腰に戻すと同時に、マミは傍らにある最後のマスケット銃を左手で持つ。
そして、そのまま二人は左手の銃口を相手に向けると同時に、相手の銃身を右手で掴んだ。
「!?」
息を呑む音。
それは果たして、誰のものであったか。
互いの銃口は、ギリギリのところで、互いの手に阻まれ、その狙いを僅かにずらしていた。
(まさか、私の動きにここまでついてくるなんて!?)
(完全にアドリブな動きになるから、<
リボンから銃を生み出し、使い続けてきたマミ。
契約後すぐに実弾銃を調達し、使い続けてきた群雲。
互いに“魔女”という異形と戦う為に、銃を手にした者であるが故。
互いに、銃を使い、知る者であるが故。
実力は、伯仲していた。
(でも……今なら?)
だが、二人には決定的な違いがある。
それは、性別の違いでもなければ。
(完全に、動きを止めた今なら……!)
それは“人数”の違い。
分断された魔人は、今は一人で。
分断された魔法少女は、三人いるという事実。
[待って、鹿目さん]
弓を展開しようとしたまどかに、マミからの念話が届く。
[ここは、私に任せてくれないかしら?]
[マ、マミさん!?
でも!]
[大丈夫よ。
後輩の前で、格好悪い所は見せられないもの!]
そして、マミは口元に笑みを浮かべる。
それを見た群雲に、なんとも言えない悪寒が走る。
そして、その一瞬の後。
「なにっ!?」
先程のやり取りで、周りに刻まれたマミの銃創から、黄色い糸が現れる。
流石に想定外だった群雲は、思わずそちらに気を取られる。
その一瞬。
それが、戦いの明暗を分けた。
「レガーレ!」
群雲の意識が逸れた瞬間を見計らい、マミは両手を離し、拘束魔法を発動した。
「しまっ!?」
群雲が身を翻すより早く、マミのリボンが群雲を捉え、拘束する。
黄色いリボンが巻き付き、その体を僅かに宙に持ち上げ、群雲の動きは完全に封じられた。
(拘束魔法……以前の戦いで使おうとしてたのも、この魔法か!?)
もがきながらも、群雲は状況を打開する為に、思考を展開させる。
(刀を抜くのも無理だし、力ずくで脱出も無理、か)
「まったく……梃子摺らせてくれたわね。」
マミは、傍らに落ちた最後のマスケット銃を手に取り、周りの空になったマスケットを消す。
「美樹さんを助けなければならないの。
しばらく、そのままでいてもらうわ」
それは、マミの勝利宣言であった。
次回予告
戦いという事象
争いという事象
始まる以上は、終わりがある
それは、変えられない運命
三十七章 帰るけど