無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「随分と、強くなったんだね」
「独りじゃ、思いつかなかった魔法の使い方とか、あったからなぁ」
「でも、結界探知とか、基本的な事は壊滅的だよね」
「言うな、地味に凹むから」
「わけがわからn「わかれよ、それぐらい」それは無理だね」
「キュゥべえェ……」


三十九章 狂いきった、二つ

 赤い魔法少女と、小さな魔人が姿を消した後。

 

 ボロボロになったさやか。

 それを治療するマミとまどか。

 傍らで、それを見守るほむら。

 

「……最悪」

 

 一言、さやかは呟いた。

 

 確かに、さやかにとっては最悪だろう。

 魔人には良い様にあしらわれ。

 赤い魔法少女には惨敗。

 皆を守ると誓ったはずの自分。

 では、今の自分はどうか?

 

「……落ち着いて。

 体に響くわ」

 

 治療を続けながら、マミはなんとかさやかを落ち着けようと、優しく語り掛ける。

 杏子の結界魔法の発動を防げず、魔人との戦いに時間を掛けてしまったマミも、気分が良いとは言えない。

 しかし、先輩としての責任感から、気丈に振舞っている。

 

「そうだよ、さやかちゃん。

 いくら、回復力が高いからって、無茶はだめだよ!」

 

 まどかもまた、たった一人でさやかを戦わせてしまった事に、罪悪感を感じている。

 

(……どういう状況になっているの?)

 

 ただ一人。

 別の時間軸から来たという特異性。

 そして、以前とはまったく違う流れに戸惑うのは、ほむらだ。

 この場で唯一“魔法少女の真実”を知るが故の焦りもある。

 そして、前の時間軸で“最後まで一緒”だった、誰よりも笑うくせに、一度も笑わない魔人。

 ワルプルギスの夜を打倒する策を思い付き、それを実践して見せた、群雲琢磨。

 彼が“敵対関係”である事への、危機感。

 

「一度、私の部屋に行きましょう。

 ここだと、いつ人が来るか、解らないわ」

 

 魔力による応急処置を終わらせて、マミの言葉を合図に、移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は、跡をつけていたりします!」

「誰に言っているんだい?」

 

 離れた所から、先程まで殺し合いをしていた相手が、観察しているなど、四人の魔法少女は夢にも思わないだろう。

 しかも、久しく姿を見せてはいなかった、キュゥべえと一緒に、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっげぇ久しぶりだな。

 何話ぶりだよ、お前」

「再会の言葉が、随分とメタいね」

 

 杏子を先に行かせて、自分は後からゆっくりと。

 魔法少女達の状況など、どこ吹く風な、魔人群雲。

 晩飯の為に合流しようとした矢先に、群雲はキュゥべえと偶然再会した。

 

「それで、ナマモノはこの街で、どちらに付くつもりだ?」

 

 変身を解除し、眼鏡を指で押し上げながら、群雲は真剣な声色で問いかける。

 

「何の話だい?」

 

 相も変わらず、一切表情を変える事無く、キュゥべえはそう言ってのける。

 

「誤魔化すなよ。

 オレ達をこの街に向かわせたのは、お前だろう」

 

 そう。

 偶然出会い、行動を共にするようになった杏子と群雲。

 互いに縄張りを持たず、気ままに放浪をしていた二人に「いい狩場があるよ」と、見滝原を推したのは、キュゥべえだった。

 そこに、魔法少女がいる事を、知っていたであろう上で。

 

「オレ達が、目障りにでもなったか?

 それとも、見滝原の魔法少女達が、邪魔になったか?」

 

 変身せずに使える、唯一の魔法<部位倉庫(Parts Pocket)>を、いつでも使用可能な様に、左手を準備しながら、群雲は真剣な表情を崩さない。

 

「わけがわからないよ」

「わからないのは、こちらだよ、ナマモノ」

「僕が君達を呼んだのは、君達が縄張りを持っていなかったからさ。

 縄張りを持たない魔法少女は、誰よりも短命だ。

 GS(グリーフシード)が、安定的に手に入らないからね。

 そして、縄張りを持たない魔法少女が生き続けるには“他人の縄張りを荒らす”しかない。

 その結果、最悪共倒れになってしまうだろう。

 魔法を満足に使えない魔法少女に、魔女を打倒できると思うのかい?」

「不可能じゃないだろ?

 魔法の才能が皆無なオレでも、こうして生きてるんだからな」

「才能が無いんだったら、魔人になる事はなかったんじゃないかな?」

「慣れていただけだろ?」

 

 ゆっくりと空を見上げ、群雲は息を一つ。

 割り切る為に、息を吐く。

 

「で?」

「なんだい?」

「オレ達をここに呼んだ理由は“魔法少女を分散させる為”だろ?」

 

 群雲は本質を突く。

 

「暁美ほむらもイレギュラーだけど。

 キミは、もはや“異物”と呼ぶに相応しいね」

 

 キュゥべえにとって、必要なのはエネルギーの回収。

 それを主軸として考えれば、答えを導き出すのは、容易だ。

 

 

 

 

 

 

 重要なのは、そうやって考えられるかどうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「異物か……。

 まあ、契約前から変わらないな、それは」

 

 そう言って、笑って見せる辺りが、群雲琢磨という存在の定義。

 

「まあ、今回に限っては、キミ達が縄張りを持っていないのが理由だよ。

 この見滝原には、魔女が多すぎる。

 正直、マミ達だけでは、カバーしきれない程の量さ。

 だからこそ、トップレベルの実力者を、ここに呼ぶ必要があったのさ」

「ここの魔法少女と、共闘出来なくても、か?」

「キミ達と、マミ達では、主とする目的が違う。

 住み分けが可能だと思ったんだけどね」

「感情を理解出来ないお前が、予測できる筈がないだろ?

 バカジャネーノ?」

「随分と、酷い言い草だね」

「酷いとか、理解できないくせに、言葉にすんな、ナマモノ。

 とか言ってる間に、マンション前なあたり、オレ達すげぇ」

 

 マミの住む、マンション前。

 いつ来たのかと問われれば、話をしている間に、としか、答えられない。

 

「まあ、オレの行動は変わらないぞ?

 今の状況で、佐倉先輩と敵対するとか、笑えないってレベルじゃねぇし」

「なら、マミ達を敵にするのかい?」

「……そこが、問題なんだよなぁ……。

 仲良くなれそうな気がするんだよねぇ……。

 でも、佐倉先輩も、実は優しいからなぁ……」

「杏子が優しいのかい?」

「お前、マジ、何もわかってないな。

 オレと一緒にいる時点で、優しくないはずがないだろうが」

 

 キュゥべえと、群雲琢磨。

 異常な生物と、異常な人物。

 異質であるが故の、異質な会話。

 

「よし、帰るか」

「わけがわからないよ」

 

 そんな、普通の人から見れば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狂いきった、二つの会話。




次回予告

それぞれにある願い

それぞれにある想い

光を求め、闇を恐れ







解りあえる為に、必要なモノ

四十章 黒いアレ

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