「独りじゃ、思いつかなかった魔法の使い方とか、あったからなぁ」
「でも、結界探知とか、基本的な事は壊滅的だよね」
「言うな、地味に凹むから」
「わけがわからn「わかれよ、それぐらい」それは無理だね」
「キュゥべえェ……」
赤い魔法少女と、小さな魔人が姿を消した後。
ボロボロになったさやか。
それを治療するマミとまどか。
傍らで、それを見守るほむら。
「……最悪」
一言、さやかは呟いた。
確かに、さやかにとっては最悪だろう。
魔人には良い様にあしらわれ。
赤い魔法少女には惨敗。
皆を守ると誓ったはずの自分。
では、今の自分はどうか?
「……落ち着いて。
体に響くわ」
治療を続けながら、マミはなんとかさやかを落ち着けようと、優しく語り掛ける。
杏子の結界魔法の発動を防げず、魔人との戦いに時間を掛けてしまったマミも、気分が良いとは言えない。
しかし、先輩としての責任感から、気丈に振舞っている。
「そうだよ、さやかちゃん。
いくら、回復力が高いからって、無茶はだめだよ!」
まどかもまた、たった一人でさやかを戦わせてしまった事に、罪悪感を感じている。
(……どういう状況になっているの?)
ただ一人。
別の時間軸から来たという特異性。
そして、以前とはまったく違う流れに戸惑うのは、ほむらだ。
この場で唯一“魔法少女の真実”を知るが故の焦りもある。
そして、前の時間軸で“最後まで一緒”だった、誰よりも笑うくせに、一度も笑わない魔人。
ワルプルギスの夜を打倒する策を思い付き、それを実践して見せた、群雲琢磨。
彼が“敵対関係”である事への、危機感。
「一度、私の部屋に行きましょう。
ここだと、いつ人が来るか、解らないわ」
魔力による応急処置を終わらせて、マミの言葉を合図に、移動を開始する。
「実は、跡をつけていたりします!」
「誰に言っているんだい?」
離れた所から、先程まで殺し合いをしていた相手が、観察しているなど、四人の魔法少女は夢にも思わないだろう。
しかも、久しく姿を見せてはいなかった、キュゥべえと一緒に、だ。
「すっげぇ久しぶりだな。
何話ぶりだよ、お前」
「再会の言葉が、随分とメタいね」
杏子を先に行かせて、自分は後からゆっくりと。
魔法少女達の状況など、どこ吹く風な、魔人群雲。
晩飯の為に合流しようとした矢先に、群雲はキュゥべえと偶然再会した。
「それで、ナマモノはこの街で、どちらに付くつもりだ?」
変身を解除し、眼鏡を指で押し上げながら、群雲は真剣な声色で問いかける。
「何の話だい?」
相も変わらず、一切表情を変える事無く、キュゥべえはそう言ってのける。
「誤魔化すなよ。
オレ達をこの街に向かわせたのは、お前だろう」
そう。
偶然出会い、行動を共にするようになった杏子と群雲。
互いに縄張りを持たず、気ままに放浪をしていた二人に「いい狩場があるよ」と、見滝原を推したのは、キュゥべえだった。
そこに、魔法少女がいる事を、知っていたであろう上で。
「オレ達が、目障りにでもなったか?
それとも、見滝原の魔法少女達が、邪魔になったか?」
変身せずに使える、唯一の魔法<
「わけがわからないよ」
「わからないのは、こちらだよ、ナマモノ」
「僕が君達を呼んだのは、君達が縄張りを持っていなかったからさ。
縄張りを持たない魔法少女は、誰よりも短命だ。
そして、縄張りを持たない魔法少女が生き続けるには“他人の縄張りを荒らす”しかない。
その結果、最悪共倒れになってしまうだろう。
魔法を満足に使えない魔法少女に、魔女を打倒できると思うのかい?」
「不可能じゃないだろ?
魔法の才能が皆無なオレでも、こうして生きてるんだからな」
「才能が無いんだったら、魔人になる事はなかったんじゃないかな?」
「慣れていただけだろ?」
ゆっくりと空を見上げ、群雲は息を一つ。
割り切る為に、息を吐く。
「で?」
「なんだい?」
「オレ達をここに呼んだ理由は“魔法少女を分散させる為”だろ?」
群雲は本質を突く。
「暁美ほむらもイレギュラーだけど。
キミは、もはや“異物”と呼ぶに相応しいね」
キュゥべえにとって、必要なのはエネルギーの回収。
それを主軸として考えれば、答えを導き出すのは、容易だ。
重要なのは、そうやって考えられるかどうか。
「異物か……。
まあ、契約前から変わらないな、それは」
そう言って、笑って見せる辺りが、群雲琢磨という存在の定義。
「まあ、今回に限っては、キミ達が縄張りを持っていないのが理由だよ。
この見滝原には、魔女が多すぎる。
正直、マミ達だけでは、カバーしきれない程の量さ。
だからこそ、トップレベルの実力者を、ここに呼ぶ必要があったのさ」
「ここの魔法少女と、共闘出来なくても、か?」
「キミ達と、マミ達では、主とする目的が違う。
住み分けが可能だと思ったんだけどね」
「感情を理解出来ないお前が、予測できる筈がないだろ?
バカジャネーノ?」
「随分と、酷い言い草だね」
「酷いとか、理解できないくせに、言葉にすんな、ナマモノ。
とか言ってる間に、マンション前なあたり、オレ達すげぇ」
マミの住む、マンション前。
いつ来たのかと問われれば、話をしている間に、としか、答えられない。
「まあ、オレの行動は変わらないぞ?
今の状況で、佐倉先輩と敵対するとか、笑えないってレベルじゃねぇし」
「なら、マミ達を敵にするのかい?」
「……そこが、問題なんだよなぁ……。
仲良くなれそうな気がするんだよねぇ……。
でも、佐倉先輩も、実は優しいからなぁ……」
「杏子が優しいのかい?」
「お前、マジ、何もわかってないな。
オレと一緒にいる時点で、優しくないはずがないだろうが」
キュゥべえと、群雲琢磨。
異常な生物と、異常な人物。
異質であるが故の、異質な会話。
「よし、帰るか」
「わけがわからないよ」
そんな、普通の人から見れば。
狂いきった、二つの会話。
次回予告
それぞれにある願い
それぞれにある想い
光を求め、闇を恐れ
解りあえる為に、必要なモノ
四十章 黒いアレ