「利害が一致しただけだよ。
それに……」
「貴方たちは、どうして一緒に居るの?」
「利害が一致したからな。
それに……」
「「自覚はないだろうけど、優しいから」」
魔女結界を進む、三人の魔法少女。
状況は、良くない。
まず第一として、相性の問題がある。
銀の魔女の使い魔。
その騒音波の持つ魔力は、対象の動きを迫害する。
近接型であるさやかは言わずもがな。
スピード型である杏子にとっても、その騒音波は、厄介極まるものである。
唯一、相性が良いと思われるマミは、動きに普段の精彩さがない。
まだ、魔法少女になって間もない頃。
マミは一度、この魔女に敵わず、逃げ出している。
その過去は、確実にマミの心に影を落としているのだ。
近接戦闘が、不利である為、三人の魔法少女は遠距離攻撃を選択する。
しかし、マスケット銃が戦闘においての主力であるマミはともかく、他二人が火力不足。
さやかの武器は剣。
召還しては投げるを繰り返すしかない。
杏子の武器は槍。
同じく、召還しては投げるを繰り返す。
杏子には他にも、槍を地面から召還し、相手を串刺しにする魔法が使える。
しかし、相応に魔力を消費する為、現在は自粛している。
奥から感じる魔女の気配が、かなりの大物である事も、理由の一つだ。
使い魔戦で魔力を浪費した結果、魔女と満足に戦えないのでは、意味が無いのだ。
火力不足を手数で辛うじて補いつつ、三人は最深部を目指す。
「一度退くってのも、一つの手だと思うがな」
「そういう訳にはいかないわ」
使い魔との戦闘がひと段落した時に、杏子が提案するも、マミはそれを却下した。
見滝原を守る魔法少女にとって、魔女や使い魔を放置するのは、選択肢には無い。
「放置しろって言ってる訳じゃねぇよ。
他の仲間と合流してから、改めて来ればいいんじゃねぇのかって話」
対して杏子は、必ずしも魔女を倒さなければならない理由は無い。
杏子がマミ達と行動を共にしている理由は二つ。
使い魔との相性の問題から、共闘した方が生存率が上がる事。
結界の展開に巻き込まれた形である為、出口が解らない事だ。
「その後、あんたはどうすんのさ」
「お前らが戦うんだろ?
だったら、あたしは手を出さずに帰るさ」
だからこそ、さやかの質問に杏子はこう答える。
はっきり言って、杏子にとってはこの魔女と戦うメリットが薄いのだ。
無理してここの魔女と戦うぐらいなら、他の手頃な魔女を探す。
そう考える程度には。
「でも、今は協力してもらうわよ。
進むにしても退くにしても。
現状、単独行動が危険なのは、理解しているんでしょう?」
「まあ、な。
でなきゃ、ここにいないよ」
マミの言葉に、杏子は渋々ながらも同意する。
「魔力の波動が近くなっているわ。
魔女まで、あと少しのはずよ」
マミの言葉を合図に、三人は魔女結界を進む。
主の元を目指して。
「やっぱり、妙だよなぁ……」
キュゥべえに案内された魔女結界の入り口前。
眼鏡を外し、それをコートのポケットに入れながら、群雲は呟いた。
「なにが、ですか?」
変身完了したほむらが、群雲の言葉に反応する。
右目を撫でた後、その手を振り上げ、自分の前に境界線を引くように、勢い良くその手を振り下ろす。
まるで、場面が切り替わるかのように、群雲は変身を完了させた。
「さっきの話。
理解できない事柄」
僅かに前髪が持ち上がることで、顕わになった両目を向けながら、群雲は質問に答える。
「魔法少女が魔女になる。
なら、見滝原にはそれだけ多くの“魔法少女がいた”のか?
オレと佐倉先輩は“余所者”だが……。
基本、魔法少女は“一つの街に一人”だろう?
でなきゃ、縄張り争いなんて、有り得ないんだから」
魔法少女の真実。
それは“見滝原の魔女の多さ”を説明するには至らない。
「使い魔が成長して、魔女になったんじゃ?」
「その場合、主人となる魔女と“同じ”になるはず。
だが少なくともオレは“同種の魔女”とは、戦った記憶がない」
同じく変身を終わらせたまどかの質問に、群雲は否定という名の答えを示す。
「なにを隠してる?」
見下すように、群雲はキュゥべえを睨み付ける。
それに合わせるように、まどかとほむらも疑惑の眼差しをキュゥべえに向ける。
「流石の僕も、すべての魔女を把握している訳ではないよ」
そんな視線など無意味であるように、キュゥべえはいつもの調子で言葉を紡ぐ。
口は、一切動いていないが。
「見滝原の魔女の多さを危惧したからこそ、僕は琢磨達にこの場所を勧めた訳だし」
「……まあ、今はそれは置いておくさ」
魔法少女の真実。
それを知った今、三人がキュゥべえの言葉を、素直に聞く事は無いだろう。
「さて、行きますかね」
思考を切り替えた群雲を先頭に、三人は魔女結界に入っていった。
「あれが、この結界の魔女か」
最深部、まるで朽ち果てた立体駐車場のようなそこで。
遠くを見つめるように佇む、魔女が居た。
「ここまで来られたんだ。
少しは認めてやるよ、トーシロ」
「……あたしは、美樹さやかよ」
どこからか取り出したスティックチョコを咥えながら、杏子はさやかに残りを差し出す。
若干不満そうではあるが、それを受け取るさやかを横目に、マミはゆっくりと歩き出す。
「今度こそ……必ず!」
銀の魔女 ギーゼラ
対するは、黄色と赤色と青色の魔法少女。
次回予告
希望により生まれる
それが、魔法少女
絶望により生まれる
それが、魔女
魔法少女という希望を
魔女という絶望に堕とす
それこそが
四十五章 spiral of despair