「その表現が出るあたりが異物だよn「そぉい!」ぎゅっぷい!?」
魔女結界最深部。
そこの魔女と対峙するのは、三人の魔法少女。
「ちっ!
硬いな!!」
金属音と共に、自身の槍が弾かれるのを見て、思わず杏子は舌打ちをする。
幸いなのは、銀の魔女の動きが鈍重である事。
ゆっくりと、腕と思われる部分を持ち上げ、杏子と同じように接近戦を行っているさやか目掛けて振り下ろす。
「遅いっ!!」
その腕の軌道を読みきり、さやかは横に飛んで避ける。
その合間を縫うように、マミの銃撃が魔女を襲う。
(……おかしいわ)
周りに、新たなマスケット銃を召還しながら、マミは違和感を感じていた。
(以前に戦った時よりも、硬い……。
佐倉さんや美樹さんの攻撃だけでなく、私の銃弾まで弾かれてる)
以前、戦った時よりも、マミは成長している。
それは、疑いようの無い事実。
では、魔女は成長しないのか?
答えは“否”である。
そして、それはすなわち……。
「一気に決めるわ!
二人とも、下がって!!」
思考を切り替え、マミは巨大なマスケット銃を造り出す。
それに合わせ、前線で戦っていた二人が、その射線の外へ避難する。
「ティロ・フィナーレ!」
巨大なマスケット銃による砲撃。
それから逃れられるほど、銀の魔女の動きは速くはない。
いくら、防御力が高くとも、それに匹敵する高火力技ならば、通らない道理は無い。
「!?」
だが、一撃で倒せるとも限らない。
砲撃による爆煙の中から、変わらない鈍重な動きで姿を現す、銀の魔女。
「はあああああ!!!」
その魔女に対し、真上から剣を振り下ろすさやかと。
「まだまだぁぁぁぁ!!!」
下から突き上げるように、槍を構えて突進する杏子。
二人の攻撃が同時に、銀の魔女に突き刺さる。
マミとさやかはチームである。
杏子はかつて、マミと共闘していた事がある。
さやかと杏子は、殺し合いをした仲である。
そして、彼女達は“
奇しくも、これまでの経験から、連携力は決して低くは無い。
このままならば、いずれ押し切る事が出来るだろう。
「「「!?」」」
そう、
まるで、自分の黒い体を削ぎ落とすかのように。
銀の魔女は、使い魔を召還した。
杏子とさやかにとって、相性の悪い使い魔を。
「うぜぇ!!」
自分の周りに召還された使い魔を、魔女もろとも攻撃する為、杏子は槍を展開し。
「このぉ!!」
同じように、自分の周りに召還された使い魔を薙ぎ払う為に、自身も回転するさやか。
マミは、マスケット銃を使い捨てながらの援護射撃。
だが。
魔法少女が使い魔を倒すより、魔女が使い魔を生み出す速度の方が速い。
[二人とも、一度退いて!
砲撃でまとめて仕留めるわ!]
マミの念話を合図に、二人は使い魔の攻撃を掻い潜り、マミの傍に帰還する。
「え……?」
振り返ったさやかは、予想外の事態に、思わず動きを止めた。
先程まで、黒い塊であったはずの、銀の魔女。
だが、今はまるで別物。
むしろ、その名に相応しい銀色の輝き。
その場に居た三人全員が、銀色のバイクを連想しただろう。
そして、まるでそのイメージに添うかのように。
後方に飛び上がりながら、さらに変形する。
「まさかっ!?」
声を上げた杏子のみならず、その場に居た全員が、魔女の次の行動を予測し、回避行動に移る。
予想通り、高速で一直線に駆け抜ける魔女。
自身の使い魔を轢き殺しながら。
辛うじて、轢かれる事は無かったものの、全員が対応に遅れを見せた。
魔女の動きが、先程とは雲泥の差であるからだ。
「はやっ!?」
まるで自分を縛るものが無くなったかのように。
自分の使い魔を轢き殺した事など、どうでもいいように。
ガシャガシャと音を立てながら、魔女は走り回る。
……足と思われる、二本の棒で。
「こわっ!?」
一々リアクションを声に出す辺り、さやかは感情に正直な少女である。
まあ、巨大な銀色のバイクベースのロボットが。
マラソンをするかのごとく、走り回っていたら、普通に怖い。
そして、速い。
「狙いが、定まらない!?」
通常の射撃ならともかく、大技を決めるには相手の動きは速すぎた。
状況を打開する為、三人それぞれが魔女と距離を離そうとして。
「うぇ~ん、ままぁ~~!!」
聞いてはいけない声を聞いた。
「そんな……」
かつて、マミが銀の魔女に敗走した際に、助ける事が出来なかった、男の子。
決して、忘れる事は無く。
決して、忘れる事が出来ず。
何度
それは、魔法少女となった巴マミの、絶望の原点。
「ばかっ!
なにやってんだ、マミ!!」
「マミさん、逃げてぇ!!!」
その泣き声は、杏子とさやかには
だが、マミには確実に届いていたのだ。
それは、奈落へと誘う、
「あ」
マミが声を上げた頃には。
銀の魔女は目前に迫り。
その腕を振り上げ終わった時だった。
そして、その腕が振り下ろされる。
一人の魔法少女を、其処へと叩き落す為に。
「はいだらぁー!」
突如飛来したソレが、銀の魔女の腕に直撃した。
それは、振り下ろされる腕の軌道を逸らし。
ギリギリのところで、巴マミへの直撃を避けた。
「!?きゃぁぁぁぁ!!!」
だが、その勢いを殺しきる事は出来ず、振り下ろされた腕の風圧と、腕が地面に激突した際に起きた衝撃波で、マミは真横に吹き飛ばされる事になり。
「いったーーーっ!?」
考えなく突進していったソレは、予想以上の硬さによる激痛で、悲痛な声を上げながら転がっていった。
「すごく……硬いです……」
額から流れる血を拭いながら、群雲は立ち上がった。
右手に持つ弾丸を指で玩びながら、周りを見渡す。
倒れている巴マミ。
それに駆け寄っていく、美樹さやか。
使い魔の攻撃を掻い潜り、群雲へと向かう佐倉杏子。
群雲を追いかけてきた、鹿目まどかと暁美ほむら。
辛うじて轢き殺されず、騒音波を撒き散らす銀の魔女の使い魔。
そして、再び黒い塊へと変化する銀の魔女。
異物の介入があったとしても、戦闘が中断される訳ではない。
「まいったねぇ」
呟く言葉と裏腹に、その口元を吊り上げるのは、介入した異物。
[みなさん!
私に掴まって下さい!!]
ほむらの念話が、頭に響き渡る。
それを聞き、魔法少女達がほむらの元へと集い。
「怖いよぉ~、ままぁ「うっさい」」
同じようにほむらへと向かう際、聞こえてきた
「泣き叫ぶだけで救われるのなら。
その呟きは、誰にも届かないままに。
全員が自分に触れた事を確認したほむらが。
時を止めた
次回予告
見滝原に存在する、魔女を狩る者達が
ついに、集結する
四十六章 ジョーカー