「……一人で喋っても返事が無い上に、そもそも男の変身シーンとか、拷問じゃね?」
SIDE 少年
変身状態で、夜の街を色々と歩き回る。
無論、出来る限り人目を避けて。
……そりゃ、10歳の子供が軍服をきて夜の街にいれば、補導されるっちゅーねん。
そして、色々と回った結果、今日の修行場所を決めた。
絵の具で出来た整備工場である。
色々とおかしい気もするが、利点も多い。
1.一般人に目撃される心配の無さ
ナマモノの言葉通りなら、ここに来るのは“魔女”か“魔法少女”或いは“素質を持つ者”だけである。
人目を避ける事を重点に置くなら、ここほど理想的な場所も無い。
もし、オレ以外の魔法少女が現れたら、色々教えてもらえば良いし、ここにいるのは“オレを見て逃げ出した使い魔”だけのはず。
2.魔法少女(魔女)関係の場所なら、魔法に関するヒントが得られるかもしれない事
契約して、魔法少女(男)になったのに、魔法が使えないとか、納得いかん。
求めているのが、魔法なのだから、それに関する場所が適しているのではないか。
そんな考えだ。
3.そもそも、この場所ぐらいしか、思いつかなかった。
(´・ω・`)
さて、色々と試してみるかね。
後に、オレはこの日を振り返る。
この場所から始まった、長い“時”の旅の途中。
オレは、始まりの日を振り返る。
そして、笑うんだ。
運が
世界は
そして、笑うんだ。
オレは、この日にこそ、生まれたんだと。
SIDE out
少年は色々と試す。
火が出るか、水が出るか、風が吹くか、地が揺れるか。
生きていない、死んでいないだけの日々から逃避する為に、漫画や小説など、空想により生まれた物からの知識を元に。
魔法という、幻想的な物を、自らの物とする為に。
しかし、完全手探りの状態では、芳しい筈も無く。
時だけが、無為に過ぎていく。
だからこそ、少年は失念していた。
ここが“魔女の結界の中”だと。
使い魔でありながら、結界を生み出せる者がいる事を。
そして、それが“ナニ”から生まれたのかを。
「……ん?」
ありえない音を耳にして、少年は辺りを見渡す。
その音は、少年にとっては馴染みの音で。
だからこそ、この場所で聞く事に違和感を感じ。
それは“バイクのエンジン音”であり。
それは、先ほど逃げたお下げ少女姿の使い魔が、自身の下半身をバイクに変えて。
―――少年を轢き殺そうとする音だった。
「う、おおおおおぉぉぉ!!??」
半ば、条件反射的に、少年は横に飛ぶ。
ギリギリのところで、少年は轢かれる事無く、その場に転がり。
使い魔はそのまま、直進して見えなくなった。
「あ……あ?」
回避こそ出来たものの、少年の思考は混乱の極み。
何故? なぜ? ナゼ?
そんな思考を、再度近づくエンジン音が、急速に掻き乱す。
「ちょ……まじか!?」
少年の言葉を掻き消すエンジン音。
先ほど以上のスピードで、少年を殺そうと迫る。
次の瞬間、少年は完全に理解した。
“生きていない、ただ、死んでいないだけの日常”はすでに無く。
“生きる為に殺し合う日常”が、すでに始まっている事を。
“死んでないだけで、死の恐怖が無い日常”はとうに終わりを告げていて。
“死の恐怖と常に向き合う日常”は、すでに始まっていたのだと。
魔女は、絶望より産まれ、呪いを撒き散らす。
そんな“魔女の使い魔”が、絶望を求めない訳が無い。
その
大分類において、魔女も使い魔も“絶望側”である。
魔法少女は、希望により産まれる。
それは、魔法少女(男)である少年も、例外ではない。
その
大分類において、少年は間違いなく“希望側”である。
相反する
しかも、“
それを、黙って見過ごすほど“使い魔”という存在は、優しくはない。
さらには、先程とは違い、少年は単独であり、
ならば、使い魔が少年を殺そうとするのは、至極当然の流れであるのだ。
理解した瞬間、すでに目前にまで使い魔は迫っており。
反射的に、少年は叫んでいた。
「止まれえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
頭に浮かんだのは、時計の針。
“右目の裏”に見えたのは、3本の時を表わす物。
11:59:59を示していた、その三本の針が。
00:00:00を示し。
すべての針が真っ直ぐ上を向き、一つとなった瞬間。
カチッ
―――――時が、止まった
次回予告
必然と言える戦い
自業自得と呼べる初戦
少年の願いにより、目覚めた力は
少年が理解し、名付けた魔法は
その本心を、的確に射抜いていた
六章 Look at Me