「マミの奴は、一人でコツコツ考えてたらしいが」
「……誤解を招く事を言わないで頂戴」
「群雲くんは、どうなの?」
「直感」
「え……?」
それは果たして、誰の呟きであったか。
少なくとも、杏子と群雲以外であったのは間違いない。
前髪を放電させながら、魔女に向かって歩いている群雲。
その体が、瞬きをする程度の一瞬で。
「前蹴りィィィィィィィィ!!」
既に、魔女への攻撃を開始していたのだから。
人が、体を動かす事。
それは、簡潔に言えば“脳からの電気信号”によるものである。
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群雲の持つ両手のグローブ、両足のブーツは、電気を発生させる。
その電気で、神経を刺激し、強制的に動かす。
両足のブーツからの高速移動。
両手のグローブからの、逆手居合。
脳からの電気信号よりも近く。
脳からの電気信号よりも速く。
脳からの電気信号よりも強く。
故にそれは、群雲の知る“限界”を超える動き。
その“電力”を上げ、繰り出されるのが
電気信号の出力を上げて、電気そのものを肉体の外へ。
そうして繰り出されるのが、群雲の“魔法”である。
「硬っ!?」
無造作に繰り出した前蹴りの感触から、群雲は思わず声を上げた。
さやかの剣、杏子の槍、マミの銃弾。
それらを弾いてみせる黒い塊が“ただの前蹴り”で、どうにかなる訳でもなく。
蹴られた事など意に介さず、その腕を振り上げる魔女。
「いや、遅いから」
そして、振り上げた腕の上に立つ群雲。
脳からの電気信号。
右手からの電気信号。
左手からの電気信号。
右足からの電気信号。
左足からの電気信号。
それぞれが、独立した“発生器官”である為に。
脳が発する指令速度以上の動きを見せる。
時に、反射神経を手足が凌駕する。
それが、群雲の魔法。
Lv1.<
では、それを
人間は、基本的に能力を抑えている。
それは、自分が“壊れるほど”の動きをさせないようにする、防衛本能である。
では、その本能を遮断する電気信号を送ったとしたら?
本能を押さえ込む“理性的な電気信号”が造り出せるとしたら?
“全ての命令を凌駕する電気信号を、脳に集中させ、発信する事が出来たなら”
狂う事を恐れず、壊れる事も厭わず。
余計な事など、考えず。
ただ、自分の想うがままに。
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それが、Lv2。
「やっと、召還……裸じゃねぇし」
周りに現れた使い魔を“瞬時に把握”し。
「まだ、やらないとダメかね?」
杏子の横で、呟いた。
「横に来た瞬間、突風が起こってるから。
少しは加減しろ、馬鹿」
「無茶言うなし。
そもそも“Lv2”自体、ほとんど使ってないんだから。
加減の仕方なんぞ、わかるかい」
口元の血を拭いながら、群雲は不満を漏らす。
「もう、このままの状態で逃げ出したら、絶対逃げ切れるぞ、マジな話」
「それじゃリターンにならんだろうが」
「ですよねー。
てか、使い魔がうるさくて、ぶっちゃけ近づきたくないんだけど」
「さっさと行けよ、囮役」
「ちくしょー!
佐倉先輩の、綺麗好きーーー!!」
「はいはい」
電気信号を脳に収束させ、群雲は動き出す。
収束された電気信号は、従来の速度を遥かに凌駕し、群雲の肉体を動かす。
故に、今の群雲の動きは、人間のそれではない。
「うっさいんじゃ、ボケー!!」
超速の前蹴りで、使い魔を蹴り飛ばす。
騒音波による悪影響を“認識する前に電気信号で遮断”して、群雲は左手から日本刀を取り出して、抜き放つ。
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故に、剣術の心得がない現状では、群雲に“抜刀術”は使えない。
武器を持ち、思うがままに振り回すだけである。
右手の刀が、魔女の腕を狙い。
「キレテナーイ!」
斬れなかった。
かなり硬いようだ。
そのまま、左手の鞘で使い魔を。
「キレ……ターッ!?」
使い魔は斬れた。
「どういうことだと思う?」
一瞬の攻防を終わらせて、さやかの横で問いかける群雲。
「知らないわよ!
てか、何してんのか、わかんないわよ!!」
突然、現れた群雲の問いに答えるなどできないだろう。
さやかだけではない。
誰一人、群雲の動きを、完全に捉えられてはいないのだ。
「使い魔よりも、魔女の方が硬いのは当然かね?」
一瞬で、刀で使い魔を切り裂いた群雲が呟いた。
そう、魔女を含めて。
ほんの数瞬前まで、自分の横で質問していた少年が、次の瞬間には使い魔を切り裂いている。
そんな、状況。
[聞いてもいいかしら?]
そんな、群雲の独壇場を見つめながら、マミは杏子に念話を送る。
[あの力を使えば、あの子は私達を簡単にあしらえたんじゃないの?]
[まあ、出来ただろうな]
杏子も、さして隠さずに答える。
[色々と理由はあるだろうが。
琢磨は殺す必要があるなら、一切躊躇わない。
逆に、殺す必要が無いなら、絶対に殺さない。
そういうやつだよ]
[殺すだけの価値が、私達に無かったと?]
[多分、逆だ。
琢磨が魔女を殺すのは“
絶望を振りまくからとか、人々に仇なすから、なんてのは理由にならない。
逆に、琢磨には基本的に“魔法少女を殺す理由”がないんだ]
さらに言うのであれば。
群雲は、基本的に“戦う事を好まない”のである。
“生きる事=
故に“生きる事=魔法少女を殺す事”にならない限り、群雲は殺しはしない。
もっとも、必要であると判断したならば、躊躇う事など皆無だが。
群雲琢磨の優先順位は、実に単純。
1.自分が笑う事
2.自分が生きる事
それだけである。
故に、最初の邂逅では、手を出されてから刀を抜いた。
次の邂逅では、銃を向けられたから、銃を抜いた。
[裸になったぞ]
いつの間にか、マミとまどかの後ろ。
ほむらの横に立っていた群雲が、魔法少女全員に、念話を送る。
気付いた魔法少女達が見た先には。
再び銀色に輝く魔女と、周りに居る2体の使い魔。
[じゃ、後はよろしく]
口元の血を再び拭いながら、群雲は役者交代を要請した。
次回予告
それは、希望と絶望のぶつかりあい
希望に進む魔法少女と
絶望に沈む魔女との
どちらが残り、振り撒くかを決める為の聖戦
四十八章 魔の法