無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「皆、魔法の名前ってどうやって決めてるんだ?」
「マミの奴は、一人でコツコツ考えてたらしいが」
「……誤解を招く事を言わないで頂戴」
「群雲くんは、どうなの?」
「直感」


四十七章 Electrical Overclocking

「え……?」

 

 それは果たして、誰の呟きであったか。

 少なくとも、杏子と群雲以外であったのは間違いない。

 

 前髪を放電させながら、魔女に向かって歩いている群雲。

 その体が、瞬きをする程度の一瞬で。

 

「前蹴りィィィィィィィィ!!」

 

 既に、魔女への攻撃を開始していたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人が、体を動かす事。

 それは、簡潔に言えば“脳からの電気信号”によるものである。

 

 

 <電気操作(Electrical Communication)>

 群雲の持つ両手のグローブ、両足のブーツは、電気を発生させる。

 その電気で、神経を刺激し、強制的に動かす。

 両足のブーツからの高速移動。

 両手のグローブからの、逆手居合。

 脳からの電気信号よりも近く。

 脳からの電気信号よりも速く。

 脳からの電気信号よりも強く。

 故にそれは、群雲の知る“限界”を超える動き。

 

 その“電力”を上げ、繰り出されるのが電光(plasma)球弾(bullet)であり電磁砲(Railgun)である。

 電気信号の出力を上げて、電気そのものを肉体の外へ。

 そうして繰り出されるのが、群雲の“魔法”である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「硬っ!?」

 

 無造作に繰り出した前蹴りの感触から、群雲は思わず声を上げた。

 さやかの剣、杏子の槍、マミの銃弾。

 それらを弾いてみせる黒い塊が“ただの前蹴り”で、どうにかなる訳でもなく。

 蹴られた事など意に介さず、その腕を振り上げる魔女。

 

「いや、遅いから」

 

 そして、振り上げた腕の上に立つ群雲。

 

 

 

 

 

 

 

 

 脳からの電気信号。

 右手からの電気信号。

 左手からの電気信号。

 右足からの電気信号。

 左足からの電気信号。

 

 それぞれが、独立した“発生器官”である為に。

 脳が発する指令速度以上の動きを見せる。

 時に、反射神経を手足が凌駕する。

 それが、群雲の魔法。

 

 

 

 

Lv1.<電気操作(Electrical Communication)>

 

 

 

 

 

 では、それを()()()()()したらどうなるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間は、基本的に能力を抑えている。

 それは、自分が“壊れるほど”の動きをさせないようにする、防衛本能である。

 

 

 

 

 では、その本能を遮断する電気信号を送ったとしたら?

 本能を押さえ込む“理性的な電気信号”が造り出せるとしたら?

 

 

 

 

 

 

 

 “全ての命令を凌駕する電気信号を、脳に集中させ、発信する事が出来たなら”

 

 

 

 

 

 

 

 狂う事を恐れず、壊れる事も厭わず。

 

 

 

 

 

 余計な事など、考えず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、自分の想うがままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 <操作収束(Electrical Overclocking)>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが、Lv2。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと、召還……裸じゃねぇし」

 

 周りに現れた使い魔を“瞬時に把握”し。

 

「まだ、やらないとダメかね?」

 

 杏子の横で、呟いた。

 

「横に来た瞬間、突風が起こってるから。

 少しは加減しろ、馬鹿」

「無茶言うなし。

 そもそも“Lv2”自体、ほとんど使ってないんだから。

 加減の仕方なんぞ、わかるかい」

 

 口元の血を拭いながら、群雲は不満を漏らす。

 

「もう、このままの状態で逃げ出したら、絶対逃げ切れるぞ、マジな話」

「それじゃリターンにならんだろうが」

「ですよねー。

 てか、使い魔がうるさくて、ぶっちゃけ近づきたくないんだけど」

「さっさと行けよ、囮役」

「ちくしょー!

 佐倉先輩の、綺麗好きーーー!!」

「はいはい」

 

 電気信号を脳に収束させ、群雲は動き出す。

 収束された電気信号は、従来の速度を遥かに凌駕し、群雲の肉体を動かす。

 故に、今の群雲の動きは、人間のそれではない。

 

「うっさいんじゃ、ボケー!!」

 

 超速の前蹴りで、使い魔を蹴り飛ばす。

 騒音波による悪影響を“認識する前に電気信号で遮断”して、群雲は左手から日本刀を取り出して、抜き放つ。

 

 <操作収束(Electrical Overclocking)>による、脳の処理速度の増大により、全ての動きが高速化している今。

 <電気操作(Electrical Communication)>による、高速肉体操作プログラム『逆手居合 電光抜刀』は、意味を成さない。

 故に、剣術の心得がない現状では、群雲に“抜刀術”は使えない。

 武器を持ち、思うがままに振り回すだけである。

 右手の刀が、魔女の腕を狙い。

 

「キレテナーイ!」

 

 斬れなかった。

 かなり硬いようだ。

 そのまま、左手の鞘で使い魔を。

 

「キレ……ターッ!?」

 

 使い魔は斬れた。

 

「どういうことだと思う?」

 

 一瞬の攻防を終わらせて、さやかの横で問いかける群雲。

 

「知らないわよ!

 てか、何してんのか、わかんないわよ!!」

 

 突然、現れた群雲の問いに答えるなどできないだろう。

 さやかだけではない。

 誰一人、群雲の動きを、完全に捉えられてはいないのだ。

 

「使い魔よりも、魔女の方が硬いのは当然かね?」

 

 一瞬で、刀で使い魔を切り裂いた群雲が呟いた。

 

 そう、魔女を含めて。

 

 ほんの数瞬前まで、自分の横で質問していた少年が、次の瞬間には使い魔を切り裂いている。

 そんな、状況。

 

[聞いてもいいかしら?]

 

 そんな、群雲の独壇場を見つめながら、マミは杏子に念話を送る。

 

[あの力を使えば、あの子は私達を簡単にあしらえたんじゃないの?]

[まあ、出来ただろうな]

 

 杏子も、さして隠さずに答える。

 

[色々と理由はあるだろうが。

 琢磨は殺す必要があるなら、一切躊躇わない。

 逆に、殺す必要が無いなら、絶対に殺さない。

 そういうやつだよ]

[殺すだけの価値が、私達に無かったと?]

[多分、逆だ。

 ()()()()()()()()理由が無かったんだよ。

 琢磨が魔女を殺すのは“GS(グリーフシード)を手に入れる”為だけだ。

 絶望を振りまくからとか、人々に仇なすから、なんてのは理由にならない。

 逆に、琢磨には基本的に“魔法少女を殺す理由”がないんだ]

 

 さらに言うのであれば。

 群雲は、基本的に“戦う事を好まない”のである。

 “生きる事=GS(グリーフシード)の入手=魔女狩り”の図式が出来ている。

 故に“生きる事=魔法少女を殺す事”にならない限り、群雲は殺しはしない。

 

 もっとも、必要であると判断したならば、躊躇う事など皆無だが。

 

 群雲琢磨の優先順位は、実に単純。

 

1.自分が笑う事

2.自分が生きる事

 

 それだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 故に、最初の邂逅では、手を出されてから刀を抜いた。

 次の邂逅では、銃を向けられたから、銃を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[裸になったぞ]

 

 いつの間にか、マミとまどかの後ろ。

 ほむらの横に立っていた群雲が、魔法少女全員に、念話を送る。

 気付いた魔法少女達が見た先には。

 再び銀色に輝く魔女と、周りに居る2体の使い魔。

 

[じゃ、後はよろしく]

 

 口元の血を再び拭いながら、群雲は役者交代を要請した。




次回予告

それは、希望と絶望のぶつかりあい

希望に進む魔法少女と

絶望に沈む魔女との







どちらが残り、振り撒くかを決める為の聖戦

四十八章 魔の法

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