無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「一つ聞きたい。
 <電気操作(Electrical Communication)>を使えば、動けるんじゃないのか、お前?」
「動けるだろうね。
 その分、体の回復が遅れるだろうけど」


五十章 Raison d'être

「ここが、佐倉さんの指定した教会よ」

 

 見滝原の郊外に、ひっそりと存在する協会。

 いや、教会()()()場所。

 

 以前この場所が、一家心中事件の現場であった事も。

 その一家の一人が、現在も行方不明の上に、大して捜索されていない事も。

 

 時の流れが、無常に、確実に、風化させていく。

 

 その場所に、マミチームが全員集合していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀の魔女を倒す為、共闘した翌日。

 マミを先頭に、四人は約束の場所を訪れた。

 時は放課後。

 空が、茜色に染まる時。

 

 ゆっくりと、扉を開けた魔法少女達が見たのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらずの、魔人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 協会の中心、祭壇の前。

 真っ直ぐうつ伏せの群雲は、扉の開いた気配を感じて。

 

「ヴォー」

「また!?」

「むしろ、まだその状態かよ?」

 

 鳴いてみた。

 まどかとさやかのツッコミが来た。

 

「ヴァー」

 

 群雲は、喜びを表現してみた。

 魔法少女達は、ガチで引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話をしに来たんだけど?」

「ヴァー」

「……佐倉さんに、念話を送ってくれないかしら?」

「ヴィー」

「流石に、この状態じゃ話が出来ないんじゃ?」

「ヴゥー」

「群雲くん……大丈夫なのかな?」

「ヴェー」

「あまり、大丈夫には見えませんね……」

「ぶぅるあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「吼えた!?」

「何でよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来てたのか」

 

 そんな、くだらないやり取りをしている間に、杏子が教会に現れる。

 その手に持つ紙袋には、りんごが詰められていた。

 

「くうかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ワルプルギスの夜”

 

 曰く、結界を持たぬ者。

 曰く、天災の正体。

 

 様々な憶測、推測が“ソレ”を中心として飛び交う。

 されど、確実な事がひとつ。

 

 

 

 

 

 曰く、最強最悪の魔女。

 

 

 

 

 

 

「未来から来た……ねぇ……」

 

 暁美ほむらの独白。

 

 ワルプルギスの夜による、見滝原の壊滅。

 生き残った自分と、キュゥべえとの契約。

 その際に得た、過去へと戻る魔法。

 

「信憑性は、低い「ヴァー」うん、黙ってろ、マジで」

 

 変わらず、鳴き続ける群雲を完全に放置したまま、魔法少女達は会話を続ける。

 しかし、ほむらの言葉は、あまりにも突拍子が無い。

 現状、その言葉の全てを信じているのは、ほむら本人。

 そして、先日の公園での会話から、まどかは信じている。

 群雲「ヴァー」……地の文に割り込むな、マジで。

 

 さやかは否定的な意見。

 マミは、ほむらが未来人だとは信じてはいない。

 が、ワルプルギスの夜に関しては、見滝原を守る者として、放置する事は出来ない。

 

 そして、話を聞いた杏子は。

 

「信じられる証拠も無ければ。

 信じられない証拠も無いな」

 

 半信半疑。

 

「仮に“未来から来た”から、それを“知っている”のなら。

 その“強さ”は“魔法少女に打倒出来るレベル”なのか?」

 

 故に、杏子は疑問をぶつける。

 それを判断材料にする為に。

 

「倒す事は、可能だと思います」

 

 眼鏡越しに、真っ直ぐに杏子を見ながら。

 ほむらは言う。

 

 実際、ほむらは“以前の時間軸”で、ワルプルギスの夜討伐を成し遂げている。

 その代償が“まどかの魔女化”であった為、ほむらは“その先”に行く理由を失った為に、時間遡行したのだが。

 

「さて、琢磨はどう思う?」

 

 紙袋からりんごを取り出し、それを放り投げる杏子。

 いつの間にか、椅子に座っていた群雲は、それを手に取り、りんごに噛り付く。

 

「ひはいほむほむはへふほひへ」

「うん、飲み込んでから話せ、馬鹿」

 

 杏子のツッコミを受け、群雲は咀嚼し、飲み込んだ後。

 眼鏡を中指で押し上げながら、言葉を紡ぐ。

 

「未来うんぬんは別として。

 正直な話、オレには“最強の魔女と戦う理由”が、ないんだよねぇ」

 

 その言葉は、その場にいた魔法少女達の考えの、斜め上をいっていた。

 

「もう、言い飽きるぐらいに言いまくってるけど。

 オレは“オレの為”に魔人やってるわけで。

 ぶっちゃけ“見滝原がどうなろうと、知ったこっちゃ無い”んよ」

 

 群雲琢磨の、存在理由。

 その全ては、群雲琢磨に収束する。

 

「相手が魔女であるなら、オレには戦う理由がある。

 だが、勝てない相手に挑むほど、オレには戦う理由がない」

 

 今んとこね。

 そう締めくくり、群雲は再びりんごに噛り付く。

 

 “以前の時間軸”において。

 群雲は“マミチーム”だった。

 故に、ワルプルギスの夜と死闘を繰り広げるが故の“理由”があった。

 

 “現在の時間軸”において。

 群雲は“完全に余所者”だった。

 故に、ワルプルギスの夜と死闘を繰り広げるだけの“理由”がない。

 

「佐倉さんはどうなの?」

 

 りんごを食べる群雲を隅に置き、マミが杏子に語りかける。

 

「本当に“ワルプルギスの夜”が来るのなら、私達は敵対している場合ではない」

「オレとしては“共闘”を勧めるけどね」

 

 そこに、まさかの群雲の援護射撃。

 その場にいる全員が、群雲に視線を集中させる。

 

「……」

 

 その視線を浴び、群雲は……照れた。

 尤も、その姿ゆえに、非常に分かりにくくはあったが。

 一つ、咳払いをして、群雲は割り切り、言葉を続けた。

 

「ワルプルギスの夜が来るから、見滝原から逃げる。

 それも確かに“オレ達”にとっては、選択肢の一つだけど」

 

 それは、マミチームにとっては選択肢には成りえない。

 だが、現状”余所者”である二人にとっては、充分に選択肢に成り得る事。

 

「でも、佐倉先輩の性格的にはどうなの?

 尻尾巻いて逃げる?

 まあ、佐倉先輩がそうしたいなら、止めはしないさ。

 それが、佐倉先輩の幸せなら」

 

 そう言って、群雲は笑う。

 

―――――遠い。

 それが、鹿目まどかの感想。

 

―――――不気味。

 それが、暁美ほむらの感想。

 

―――――からっぽ。

 それが、巴マミの感想。

 

―――――造りモノ。

 それが、美樹さやかの感想。

 

―――――泣きそう。

 それが、佐倉杏子の感想。

 

 

 

 

 

 

 

 それでも、オレは、笑う。

 それが、群雲琢磨の―――――Raison d'être。

 

 




次回予告

余所者

イレギュラー

地球外生命体





異物

五十一章 把握していない項目

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