無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「それでもオレは。
 お前自体はそれほど嫌ってはいないんだよな」
「そうなのかい?
 大抵の人間は、認識の相違を僕らのせいにするけど」
「願いを叶えて貰ったのは、間違いないからなぁ……。
 対価を高いと見るか、安いと見るか……。
 或いは、人間が夢を見すぎているだけなのかもな」


五十一章 把握していない項目

 ひとまずの、休戦。

 

 それが、マミチームと、杏子と群雲コンビの出した結論だった。

 

 

 

「それで」

「なんだい?」

 

 マミチームが帰路に着き、杏子が夜の街へ繰り出した後。

 「今日は流石に動くのは辛い」と言って、独りで教会に残った群雲。

 最前列の椅子に横になり、会話する相手は異生物(キュゥべえ)

 

「この街に“ワルプルギスの夜”が来るのは、本当か?」

「なぜ、それを僕に聞くんだい?」

 

 祭壇の上で、無表情に群雲を見つめるキュゥべえ。

 

「お前は言ったよな?

 “見滝原には魔女が多い”と。

 それはすなわち“魔女の存在(グリーフシードの場所)を、ある程度は把握してる”って事だ。

 でなければ、オレ達を見滝原に招いたりはしないだろ?」

 

 これまでに得た情報。

 それは、キュゥべえに対する不信感を煽るには、あまりにも充分すぎる。

 だが、群雲はそれを“割り切って”話をする。

 ―――――自分の為に。

 

「全てを把握している訳ではないよ。

 孵化する前のGS(グリーフシード)を回収するのも、僕の役目だからね。

 ある程度は知っておかないと、魔法少女を導く事は出来ない」

 

 キュゥべえの言葉を聞き、群雲は思考する。

 

(自然に考えるな違和感を抽出しろ抜粋してまとめろ自分の中で形にしろ。

 暁美先輩の言葉は正しいか?それを聞いた自分の考えは事実か?そこにいる生物は真実を話しているか?)

 

 眼鏡を外し、群雲は立ち上がる。

 ボロボロのステンドグラスを背に、紅い瞳を向けるキュゥべえと、魂が位置を変えたが故に、緑色へ変化した群雲の右目がぶつかり合う。

 

「抜け目の無いナマモノだからな。

 オレ達の会話も、聞いていたんだろう?」

「もちろんだよ」

 

 臆面無く、淡々と言ってのけるキュゥべえ。

 それに対し、口の端を吊り上げる魔人。

 

「ならば、聞こう。

 “魔法少女が魔女になる”

 これは、真実か?」

「その通りだね」

「なら“ワルプルギスの夜も、元魔法少女”なんだな?」

「おそらくね」

 

 キュゥべえの言葉に、群雲は目を細める。

 

「おそらく?」

「魔法少女は条理を覆す存在だ。

 それは、魔女になっても変わらない」

「何が、言いたい?」

「言っただろう?

 僕だって、全てを把握している訳じゃない」

「把握していない項目の一つ。

 それが“ワルプルギスの夜”か」

「その通りだよ」

「把握していない項目の一つ。

 それが“暁美ほむら”か」

「それは仕方ない事さ。

 “未来で契約”したのなら“今の僕”が知る筈はないからね。

 彼女はまさに“イレギュラー”の名に相応しいよ」

「把握していない項目の一つ。

 それが“群雲琢磨”か」

 

 自分をそう言ってしまえる辺りが、群雲の異常性。

 

「個人差はあるけれど“魔法少女”よりも“魔人”の方が“短命”だ。

 でも、君は既に“2年”も魔人で居続けている。

 加えて、君の身に起きた“異常現象”は、僕らの知る限り、初めての事だ」

 

 口の端を持ち上げ、群雲は立ち上がると同時に変身する。

 緑の軍服に、黒い外套を翻す。

 

「でも、先日の戦いで君の“特性”が見えてきたよ」

「それはぜひ、ご教授願いたいね」

 

左手に日本刀を持ち、群雲はその場に佇む。

 

「君が使う“電気”は、微弱なんだ。

 下手に電力を上げたら、肉体には逆効果だからね」

 

 肉体を動かすのは、脳からの電気信号。

 “見る”という行為でさえ、網膜からの情報が神経を伝い、脳に届いているだけの“電気信号”に過ぎない。

 人の持つ全ての“感覚”は、脳が受けた電気信号なのだ。

 

 だが、高電力は肉体にとっては毒でしかない。

 人の死因の一つに“感電死”がある事が、それを証明している。

 

「分かるかい?

 君の魔法は“魔力消費量が物凄く少ない”んだよ」

 

 魔力を電気に変換する、群雲の魔法。

 それは、肉体を操作する程度の“微弱な電気”であり。

 “微弱な電気”を発生させる為の魔力は“極少量”で充分。

 

「君が魔女と戦うのに使用している魔力は、基本的に“体を動かす為の電気”だけ。

 杏子の槍や、マミのリボンのように“武器を魔力で生成していない”分、魔力消費は少ない」

 

 群雲が使用する武器は、魔力で造られた物()()()()

 

「君は“魔力消費を抑えている分、肉体に負担をかけている”んだ」

 

 そして“契約者の本体”は結晶化された魂(ソウルジェム)である。

 

「なるほど。

 なら」

 

 群雲はキュゥべえの言葉を聞き、それを自分の中で反復する。

 

()()は?」

 

 群雲の問いかけに、キュゥべえは答えない。

 否、答える事が出来ない。

 なぜなら。

 

「なんだ……。

 もう、聞いてないのか」

 

 キュゥべえの体は既に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 細切れにされていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……。

 <電気操作(Electrical Communication)>によるモノが『逆手居合 電光抜刀』だろ?

 <操作収束(Electrical Overclocking)>じゃ、使えない。

 両手に刀と鞘を持って、ぶん回してた方が良いしなぁ……。

 まあ、色々検証して、発展させるしかない、か」

 

 日本刀を()()()()()()に<部位倉庫(Parts Pocket)>に入れ、群雲は変身状態のまま、教会を後にする。

 

「まあ、オレの“望み”は契約時から変わらない」

 

“オレの、何時、如何なる時も、オレの想うがままに、笑って過ごせる事を”




次回予告

最強の魔女襲来までの僅かな時

それは、生きていられる、僅かな時か?

それとも、未来を得る為の、確かな時か?




それでも今、生きているのは確実で

五十二章 助けられるのは

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