「作る気は無いの?」
「魔人や魔法少女が、恋人を作っちゃいけない理由はないだろうけど」
「デート中に魔女が現れたりすると、最悪よね」
見滝原の街中にて。
出会ってしまった四人の
ショートカットの少女、美樹さやか。
想い人の為に、戦いの運命を受け入れた少女。
その幼馴染、上条恭介。
さやかの願いにより、
その横に立つのは、志筑仁美。
想いを打ち明け、受け入れられた少女。
そして、群雲琢磨。
「どちらさん?」
初の邂逅となる少年。
「僕は、上条恭介。
さやかの幼馴染だよ」
「私は志筑仁美。
さやかさんのお友達ですわ」
白髪に、右側が曇りガラスになっている眼鏡。
そして、黒のトレンチコートに身を包む、明らかに自分たちよりも小さな少年。
ある種、異常とも言える風貌ではあるが、二人は普通に挨拶をしていた。
……それは、その少年が先ほどまで会話をしていた相手が、美樹さやかであったからだろう。
「オレは、群雲琢磨。
美樹先輩の……恋人候補?」
「はあ!?」
挨拶と同時に、呼吸をするように嘘をついた群雲に、先ほどまでの会話と、知人との突然の遭遇に固まっていたさやかが、再起動する。
「あんた何言って「まあ!」って、仁美?」
思わず、群雲に掴みかかろうとしたさやかだが、声を上げた仁美に、嫌な予感を感じた。
「さやかさんが年下趣味だったなんて……!」
「やっぱりかーっ!?」
(天然か、このお姉さん)
予想通りに暴走(妄想)を始めた仁美に、さやかは頭を抱える。
そして、そんな状況で、群雲が悪乗りしないはずもなく。
「大丈夫だよ、さやか。
中学生と(元)小学生が愛し合っているのは異常かもしれない。
でもそれは、時間が確実に解決してくれる問題さ!」
「そうですわ、さやかさん!
愛し合うことに、年の差など些細な事ですわよ!」
(小学生なんだ、この子……)
「ちょっ、あんた何言ってんの!?
仁美も誤解だから!!」
「やれやれ……二人の時は(オレの話に萎縮して)あんなにも大人しかったというのに……」
「これが、かの有名な“ツンデレ”と言うものですのね!」
「いいかげんにしてぇぇぇぇぇ!!!」
最終的に、さやかの悲痛な叫びが、辺りに木霊した。
なんとか誤解を解き、食事に行く途中だった二人と別れて、さやかは思いっきり脱力した。
その横では、群雲が二人の背中に手を振っている。
「それで」
手を振り続けながら、群雲が放った一言で。
「どちらの為に、自分の人生を台無しにした?」
再び、空気が張り詰める。
驚愕に目を見開き、群雲を見つめるさやかと。
「……カマかけてみたが、当たりっぽいな」
変わらず、口の端を持ち上げたままの群雲。
「どう……して……?」
「なに、率直な印象と、今までのやりとり。
そして、そこからの簡単な推理でさ」
初めて会った時から、これまで。
何度も敵対し、最後には共闘した。
だが、この時になって初めて。
「誰かの為に魔法を使う。
むしろ“自分の為に魔法を使わないようにしている”。
それが、美樹先輩の印象」
さやかは、群雲に“恐怖”を感じた。
「まるで、
これが、今までのやりとりから思った事」
故に、群雲は以前にこう言った。
『オレは、いつだって“オレの為”にこの力を使う。
誰かの為に、平気で命を懸ける。
そんな、
「きっと、美樹先輩は“誰かの為”に、奇跡を使い。
自分の望むモノを“得られなかった”んじゃないかと」
群雲の言葉、その一つ一つが。
「普通に考えて、奇跡を使う“
さやかの心を抉っていく。
「家族、友達、幼馴染。
簡単に思いつくのは、このみっつ」
だから、カマをかけてみた。
そして、その反応は是を意味していた。
「さて、選択肢はふたつ。
友達か、幼馴染か」
「……恭介……幼馴染の方よ」
観念したかのように、さやかは小さく呟いた。
「流石に、どちらかまではわからないけど」と、言葉を続けようとしていた群雲は、さやかの言葉に口を噤んだ。
そうとも知らず、さやかは自分が魔法少女になった経緯を話し出す。
上条恭介が事故に遭った事。
それが原因で、左手が満足に動かせなくなり、夢を失った事。
腕が治るように願い、それを契約とした事。
「惚れてたのか」
流石に、それが分からないほど、群雲は鈍くはない。
「でも、幼馴染はよりにもよって、自分の友達と付き合いだしてしまった。
だから、誰かの為に力を使う事に“固執”してるのか。
自分には、魔法少女として戦うしかないと
「あんたに……なにがわかるのよ!」
だが、無遠慮に紡がれた群雲の言葉に、遂にさやかが爆発する。
「……そう言った台詞に対して、必ず言い返してやりたい言葉がオレにはある」
さやかの怒気を受け流さず、正面から受け止めた上で。
群雲は眼鏡を外し、さやかに向き直って、告げた。
「知ったこっちゃないな」
「~~~ッ!!」
その言葉に、さやかの感情がさらに高まるが。
「そういった台詞を言う奴ってのは大概、自分
次の一言に、さやかは二の句を告げなくなった。
「あんたになにがわかる?
なら先輩は、世界のどれだけを知ってる?
悲劇のヒロイン気取りたいなら、余所でどうぞ。
不幸自慢に良かった探し?
だったら、付き合ってやるよ。
多分オレ、負けないよ?
叶った願いと叶わぬ想い。
はぁ~、大変でしたねぇ。
魔法少女として、誰かの為に戦う。
いいんじゃないの、それでも。
自分の為に、魔法を使わない。
そうしたいなら、そうすればいいさ。
それが、美樹先輩の幸せなら」
一気に捲くし立てられた言葉。
そして、緑の右目でさやかを射抜きながら、群雲は静かに告げる。
「別に、自分の為に力を使ったからって“誰かの為に戦えなくなる訳じゃない”だろうに」
次回予告
群雲琢磨と美樹さやか
あまりにも真逆な二人
五十四章 後悔した事なんて