無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「恋人、ねぇ……」
「作る気は無いの?」
「魔人や魔法少女が、恋人を作っちゃいけない理由はないだろうけど」
「デート中に魔女が現れたりすると、最悪よね」


五十三章 叶った願いと叶わぬ想い

 見滝原の街中にて。

 出会ってしまった四人の未熟者(こども)

 

 ショートカットの少女、美樹さやか。

 想い人の為に、戦いの運命を受け入れた少女。

 

 その幼馴染、上条恭介。

 さやかの願いにより、希望(ゆめ)を取り戻した少年。

 

 その横に立つのは、志筑仁美。

 想いを打ち明け、受け入れられた少女。

 

 そして、群雲琢磨。

 

「どちらさん?」

 

 初の邂逅となる少年。

 

「僕は、上条恭介。

 さやかの幼馴染だよ」

「私は志筑仁美。

 さやかさんのお友達ですわ」

 

 白髪に、右側が曇りガラスになっている眼鏡。

 そして、黒のトレンチコートに身を包む、明らかに自分たちよりも小さな少年。

 ある種、異常とも言える風貌ではあるが、二人は普通に挨拶をしていた。

 ……それは、その少年が先ほどまで会話をしていた相手が、美樹さやかであったからだろう。

 

「オレは、群雲琢磨。

 美樹先輩の……恋人候補?」

「はあ!?」

 

 挨拶と同時に、呼吸をするように嘘をついた群雲に、先ほどまでの会話と、知人との突然の遭遇に固まっていたさやかが、再起動する。

 

「あんた何言って「まあ!」って、仁美?」

 

 思わず、群雲に掴みかかろうとしたさやかだが、声を上げた仁美に、嫌な予感を感じた。

 

「さやかさんが年下趣味だったなんて……!」

「やっぱりかーっ!?」

(天然か、このお姉さん)

 

 予想通りに暴走(妄想)を始めた仁美に、さやかは頭を抱える。

 そして、そんな状況で、群雲が悪乗りしないはずもなく。

 

「大丈夫だよ、さやか。

 中学生と(元)小学生が愛し合っているのは異常かもしれない。

 でもそれは、時間が確実に解決してくれる問題さ!」

「そうですわ、さやかさん!

 愛し合うことに、年の差など些細な事ですわよ!」

(小学生なんだ、この子……)

「ちょっ、あんた何言ってんの!?

 仁美も誤解だから!!」

「やれやれ……二人の時は(オレの話に萎縮して)あんなにも大人しかったというのに……」

「これが、かの有名な“ツンデレ”と言うものですのね!」

「いいかげんにしてぇぇぇぇぇ!!!」

 

 最終的に、さやかの悲痛な叫びが、辺りに木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとか誤解を解き、食事に行く途中だった二人と別れて、さやかは思いっきり脱力した。

 その横では、群雲が二人の背中に手を振っている。

 

「それで」

 

 手を振り続けながら、群雲が放った一言で。

 

「どちらの為に、自分の人生を台無しにした?」

 

 再び、空気が張り詰める。

 驚愕に目を見開き、群雲を見つめるさやかと。

 

「……カマかけてみたが、当たりっぽいな」

 

 変わらず、口の端を持ち上げたままの群雲。

 

「どう……して……?」

「なに、率直な印象と、今までのやりとり。

 そして、そこからの簡単な推理でさ」

 

 初めて会った時から、これまで。

 何度も敵対し、最後には共闘した。

 だが、この時になって初めて。

 

「誰かの為に魔法を使う。

 むしろ“自分の為に魔法を使わないようにしている”。

 それが、美樹先輩の印象」

 

 さやかは、群雲に“恐怖”を感じた。

 

「まるで、()()()()()()()()()()()()

 これが、今までのやりとりから思った事」

 

 故に、群雲は以前にこう言った。

 

『オレは、いつだって“オレの為”にこの力を使う。

 誰かの為に、平気で命を懸ける。

 そんな、()()()()()()()()ような奴と、共闘するなど愚の骨頂だ』

 

「きっと、美樹先輩は“誰かの為”に、奇跡を使い。

 自分の望むモノを“得られなかった”んじゃないかと」

 

 群雲の言葉、その一つ一つが。

 

「普通に考えて、奇跡を使う“誰か(対象)”は、自分の近しい者だろう」

 

 さやかの心を抉っていく。

 

「家族、友達、幼馴染。

 簡単に思いつくのは、このみっつ」

 

 だから、カマをかけてみた。

 そして、その反応は是を意味していた。

 

「さて、選択肢はふたつ。

 友達か、幼馴染か」

「……恭介……幼馴染の方よ」

 

 観念したかのように、さやかは小さく呟いた。

 「流石に、どちらかまではわからないけど」と、言葉を続けようとしていた群雲は、さやかの言葉に口を噤んだ。

 そうとも知らず、さやかは自分が魔法少女になった経緯を話し出す。

 

 

 

 上条恭介が事故に遭った事。

 それが原因で、左手が満足に動かせなくなり、夢を失った事。

 腕が治るように願い、それを契約とした事。

 

 

 

 

「惚れてたのか」

 

 流石に、それが分からないほど、群雲は鈍くはない。

 

「でも、幼馴染はよりにもよって、自分の友達と付き合いだしてしまった。

 だから、誰かの為に力を使う事に“固執”してるのか。

 自分には、魔法少女として戦うしかないと()()()()()

「あんたに……なにがわかるのよ!」

 

 だが、無遠慮に紡がれた群雲の言葉に、遂にさやかが爆発する。

 

「……そう言った台詞に対して、必ず言い返してやりたい言葉がオレにはある」

 

 さやかの怒気を受け流さず、正面から受け止めた上で。

 群雲は眼鏡を外し、さやかに向き直って、告げた。

 

「知ったこっちゃないな」

「~~~ッ!!」

 

 その言葉に、さやかの感情がさらに高まるが。

 

「そういった台詞を言う奴ってのは大概、自分()()が不幸だと、勘違いしている奴がいうもんだ」

 

 次の一言に、さやかは二の句を告げなくなった。

 

「あんたになにがわかる?

 なら先輩は、世界のどれだけを知ってる?

 悲劇のヒロイン気取りたいなら、余所でどうぞ。

 不幸自慢に良かった探し?

 だったら、付き合ってやるよ。

 多分オレ、負けないよ?

 叶った願いと叶わぬ想い。

 はぁ~、大変でしたねぇ。

 魔法少女として、誰かの為に戦う。

 いいんじゃないの、それでも。

 自分の為に、魔法を使わない。

 そうしたいなら、そうすればいいさ。

 それが、美樹先輩の幸せなら」

 

 一気に捲くし立てられた言葉。

 そして、緑の右目でさやかを射抜きながら、群雲は静かに告げる。

 

「別に、自分の為に力を使ったからって“誰かの為に戦えなくなる訳じゃない”だろうに」




次回予告

群雲琢磨と美樹さやか

あまりにも真逆な二人



五十四章 後悔した事なんて

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