無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「暁美ほむら……時を越える魔法少女。
 彼女も、僕らにとってイレギュラーだけど。
 どういった行動に出るか、予測できないと言う意味では。
 琢磨も充分にイレギュラーだよね」
「褒めんなよ」
「わけがわからないよ。
 ただでさえ稀な、魔人という存在なのに。
 その中でも君は希有な存在なんだ」
「選ばれし勇者ってか?
 ガラじゃねぇっての」


五十四章 後悔した事なんて

 自分の部屋で、布団に包まりながら。

 美樹さやかは、日中の会話に思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレの、美樹先輩への印象は」

 

 外した眼鏡を、再び身に付け、群雲は告げる。

 

「うぜぇ」

「っな!?」

「が、同時に羨ましくもある」

 

 掴み掛かろうとするさやかを左手で制止ながら、群雲は想いを発露する。

 

「せっかく“自分が”得た力を“自分に”使わないとか、勿体無くてしょうがない。

 だから、うぜぇ」

 

 右手中指で、眼鏡を押し上げ、更に告げる。

 

「でも、オレには絶対に出来ないだろうね。

 誰かの為に願い、誰かの為に戦う。

 それはきっと“力を持つ者”として、なによりも正しい」

 

 群雲にとって重要なのは。

 

「後悔した事なんて、腐るほどある。

 最たるものは、契約の時に。

 “どうしてオレは、家族を生き返らせて欲しいと願わなかったのか”って事だ」

 

 一般的な、常識でも。

 

「オレにとってはそれが“最大の絶望”だ」

 

 理論的な、最善でもない。

 

「だが、嘆いた所でどうしようもないのなら」

 

 自分が受け入れ、飲み込む為に。

 

 

 

 

 

 

「割り切るしかないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに、言わさせて貰うなら」

 

 内緒にしてくれよ?

 そう付け加えて、群雲は続ける。

 

「佐倉先輩は“オレよりも美樹先輩の方が近い”ぜ?

 あの人も、オレのように“自分の為”にではなく。

 “大切な人の為に、たった一度の奇跡を願った人”だからな」

 

 それは、さやかにとっては眉唾な事実だったであろう。

 だが、この状況において、群雲は嘘を付く理由は、さやかには思い当たらない。

 

「詳しい経緯を知りたいなら、直接聞けばいいさ。

 案外答えてくれるかもよ?」

 

 そう言って、群雲は笑った。

 

 

 

―――――造りモノ―――――

 

 

 

 それが、美樹さやかの印象だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでも私は、自分の為には戦わない」

 

 それが、美樹さやかの意思表示。

 

「あんたの言う通り、あたしの願いは叶ったけど、想いは叶わなかった。

 それでも、あたしは願いの内容を後悔していない。

 魔女と戦う、この運命を後悔していない」

 

 真剣な眼差しで、さやかは真っ直ぐに群雲に言葉をぶつける。

 

「それが、美樹先輩の幸せなら。

 その生き様を貫けばいい。

 オレは、否定も肯定もしない。

 だってオレは“美樹さやかではない”んだから」

 

 同じく、群雲も真っ直ぐにさやかに言葉をぶつける。

 

「あんたは、それで寂しくないの?」

「寂しいよ。

 でもオレは、これ以外の生き方を知らない」

「誰かの為に戦ってみようとは、思わないの?」

「それが最終的に、自分の為になるならいいけど。

 無償奉仕が出来るほど、オレには余裕なんてない。

 そもそも自分すら満足に助けられない奴が。

 誰かを助けるなんて出来ないだろ?」

「そんなことない!」

「それは、美樹先輩だから言える事じゃないか。

 誰かの為に傷つくなんて、まっぴらごめんだ。

 オレは、自分の為になる事でしか動かない」

「あんた、それでも魔法少女なの!?」

「魔人だって。

 まあ、契約者と言う意味では同種か。

 でも、美樹先輩?

 “魔法少女だから、誰かを救わなきゃいけない”ってわけでもないんだぜ?

 オレ達の役目は“魔女と戦う”事であり“それが、何の為なのかは当人次第”だろ。

 魔法少女である前に、あなたが“美樹さやか”であり。

 魔人である前に、オレは“群雲琢磨”なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優しい先輩だねぇ」

 

 同時刻、展望台で街を見下ろしながら、群雲もまた、今日の会話に思いを馳せていた。

 結局、話はどこまでも平行線。

 これまでの生き様を、簡単に変える事など出来ない。

 美樹さやかも群雲琢磨も、そこまで器用ではない。

 

「美樹さやかの事かい?」

 

 群雲の肩に乗ったキュゥべえが、表情を変える事無く問いかける。

 

「ああ。

 優しくて、真っ直ぐで、正義感もあって。

 以前の学校で、彼女みたいな子がいたのなら。

 オレの生き様も、多少は違ったのかもな」

 

 ただの妄想に過ぎないが。

 そう付け加えて、群雲は真剣な声色で問いかける。

 

「オレに“殺された”のに、気にせずやってくるんだな、お前」

「無意味に潰されるのは、もったいないからやめてほしいけどね」

「そんなもんか」

「そんなもんさ」

 

 感情のない生き物。

 それを“生きている”と言えるのかどうか。

 群雲には、どうでもいい事だ。

 

「今日ははずれっぽいな」

「帰るのかい?」

「最強の魔女が来るらしいのに、無駄に魔力消費するほど、オレは自分を嫌ってないぞ?

 三つほど、使い魔の結界があったが、ガン無視したし」

 

 群雲琢磨は、そういうやつである。

 

「僕の役目は戦う事じゃないからね。

 琢磨が考えての決断なら、反対する理由はないよ」

 

 キュゥべえもまた、そういうやつである。

 

 そして、キュゥべえを肩に乗せたまま、群雲は展望台を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法少女と魔女の関係を知ってなお、僕とこれまで通りに接するんだね」

「まあ、普通は距離を置くだろうな。

 魔法少女がどういうモノなのか、聞かずに契約した自分達の責任。

 ナマモノ的には、そんな所だろう?

 確かにその通りだからな、オレ含めて。

 でも、少なくともオレは。

 契約内容こそ後悔したが、契約自体は後悔なんてしてないからな。

 人は、自分からは絶対に逃げられないんだから」




次回予告

歯車は廻る

刻一刻と

絶望に向けて






螺旋は巡る

五十五章 してはいけない理由はない

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