無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「食料とかはどうしてるの?」
「基本的に<部位倉庫(Parts Pocket)>の中。
 この魔法ってぶっちゃけ万引きし放dゲフンゲフン」
「……実に貴方らしいけれど。
 魔法少女として、その魔法の使い方は許しがたいものがあるわよ」
「なに言ってんのさ?
 “魔の法を、人の法が裁けるはずがない”だろう?」


五十五章 してはいけない理由はない

 最強の魔女襲来まで、後5日。

 

 重要なのは、共闘しているのではなく、休戦していると言う事実。

 故に、マミチームと杏子、群雲のコンビは、足並みを揃えている訳ではない。

 加えて、普段は学校に行っているマミチームと、学校完全スルーなコンビ。

 合う時間は限られている上に、コンビの二人も、基本は行動を共にしていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

「お」

 

 故に、前回の群雲とさやかの遭遇も想定外だし。

 

「佐倉杏子……」

「フルネームで呼ぶな、ボンクラ」

「美樹さやかよ!!」

 

 今回の、さやかと杏子の遭遇も、想定外だっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら」

「ん?」

 

 そして、別の場所にて、巴マミと群雲琢磨が鉢合わせしているのも。

 

「群雲君……だったわね」

「そうだけど……。

 一応、休戦中なんで、出会い頭に敵意をぶつけるのやめません?」

 

 マミは、群雲をあまり信用してはいない。

 一度、殺し合いをした仲でもあるし、信頼できるほど、マミは群雲を知らない。

 そして、群雲はすでに割り切っている。

 

「貴方はここで何を?」

「特に何も。

 当てもなく、街中を彷徨っているだけだよ」

 

 別に、街を守らなければいけない理由は、群雲にはない。

 目的がない限り、日中は頭空っぽにしているのが群雲の日常だ。

 

 “考える事”を放棄する事で、精神状態を保たなければならなかったのが、契約前の群雲琢磨。

 “現実と言う名の最悪”から“思考を逸らす”為に、空想物に逃げたしたのが、群雲琢磨。

 真実を空想のように“上滑り”させながら認識、消化する事で、異常な理解能力を発揮するのが、この魔人なのだ。

 

 

 

 そしてそれは“絶望=死”を意味する魔法少女にとって、なによりも正しい生き方だと言える。

 

 絶望を、絶望だと認識する前に、割り切り、消化する。

 

 本来、魔法少女以上に“死”に近い、魔人という存在であるにもかかわらず、群雲が今日まで生き長らえてきた要因の一つが、この異常とも言える思考。

 

「そちらは、パトロールか?」

「そうよ。

 見滝原を守るのが、ここを管轄にしている私達の役割ですもの」

 

 対する巴マミは“生きたい”と願い、魔法少女になった存在。

 心がそれを望む限りは、彼女は命を繋ぎ続けるだろう。

 

 共に、家族を交通事故で亡くした者でありながら。

 二人は、あまりにも違う。

 

 家族と共に事故に遭い、唯一生き延びた少女。

 家族だけが事故に遭い、唯一死に損ねた少年。

 

 近く、でも違い、絶対的に真逆。

 

 

 

 

 

 

 

「で、付いてくるのね」

「当てがないよりは、当てがある方が有意義かと」

 

 そんな二人は今、並んで街を歩いている。

 

「私も、当てがある訳じゃないわよ?」

「でも、オレよりは魔女のいる方向が察知できるんだろ?」

「……横取りでもするつもり?」

「オレ達は、休戦中であって共闘中じゃない。

 なら、相手が魔法少女ではなく魔女ならば。

 漁夫の利狙いで動いたって、違反にならないんじゃね?」

「もう少し、隠す努力でもしたら?」

「隠す必要は感じないな。

 確かに、オレ達は休戦中だ。

 だが、相手を出し抜くような行動をしてはいけない理由はない。

 実際オレは、前回共闘して倒した魔女のGS(グリーフシード)を所有している」

「……やっぱり、貴方が持っていたのね……」

「そしておそらく、巴先輩はその事に気付いているだろうと思っていた。

 故に、隠す必要はないだろう?」

 

 歩みを止める事無く、口の端を持ち上げる群雲。

 それを横から見下ろしながら、訝しげな眼差しを向けるマミ。

 

「……どうしたら、そんな偏屈な考えになれるのかしらね?」

 

 皮肉を込めて、マミは問いかける。

 明らかに自分よりも年下の少年が。

 何故、これほどまでに歪んだ思考を持つようになったのか。

 そして、群雲はそれを。

 

「なら一度、学校中の生徒、先生を敵に回してみるといい。

 真のいじめは“無視される事”だ。

 完全に“自分が此処に居る事を認識してもらえない”事だ。

 そして、親戚に自分ではなく“自分に残された親のお金”だけを見てもらえばいい。

 もれなく、儚くも美しい悪夢が、先輩を生暖かく引き擦り込むだろう」

 

 明確に、簡潔に、淡々と言ってのけてみせた。

 

「……え?」

 

 思わず足を止め、マミは群雲を見つめる。

 足を止めた事に気付かず、変わらぬ歩調で進む群雲の背中。

 その背中が、何処か寂しそうに見えて。

 その背中が、その言葉の信憑性を顕著に表しているようで。

 

「……ん?」

 

 数歩先行した後、マミが横にいない事に気付いた群雲が、ゆっくりと振り返る。

 僅かに見えたのは、美しく輝く緑の右目。

 でも、それも一瞬の事で、それは前髪と眼鏡に隠される。

 そして、群雲はマミに向かって微笑む。

 

 あぁ―――

 

 それを見て、マミは素直に思ったのだ。

 

 どうしてこの子の笑顔はこんなにも―――

 

 この少年は“狂っている”のだと。

 

 心に、響かないのだろう――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「琢磨とマミが一緒とは、珍しいね」

 

 唐突に、群雲の肩に飛び乗ったキュゥべえが言った。

 

「珍しいも何もないだろ。

 休戦前は、ほぼ敵対していたし」

 

 さして驚きもせず、群雲は淡々と言ってのける。

 

「確かに、以前なら考えられなかったわね」

 

 気を取り直して、マミは一人と一匹に近づいていく。

 

「さっきは、杏子とさやかが仲良く魔女結界に入っていったし、今日は色々と珍しい事が起き易い日みたいだね」

「うん、ちょっと待とうか、そこの下等生物」

 

 決して表情を変える事無く、紡がれた言葉に、群雲は待ったをかける。

 

「あの二人が一緒にいるの?」

 

 マミもまた、その言葉に不安を感じる。

 

「この先の繁華街にいたね」

「なるほど、じゃあ行くか」

 

 そのまま、キュゥべえを肩に乗せて、群雲は歩き出す。

 

「……貴方も行くの?」

 

 その横に並びながら、マミは問いかける。

 

「協力してたらいいけど、喧嘩してたら目も当てられんしなぁ。

 それに」

 

 その問いに群雲は、口の端を持ち上げながら答えた。

 

「休戦中だからって、共闘してはいけない理由はないだろう?」




次回予告

近し者 遠き者

似てるもの 違うもの

魔法少女と魔人







絶望が天敵 同じモノ


五十六章 好ましくない感じ

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