無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「魔法ってのを、常識で捉えてはいけない」
「それは、一つの例外無く、異常でなければならない」
「だからこそ“魔法(まのほう)”なんて、名付けられている」
「付けられた呼び名(なまえ)には、必ず意味があるものさ」


六章 Look at Me

SIDE out

 

 切っ掛けがあれば、意外と速く理解出来るものである。

 立つ事が出来なかった赤ん坊が、歩行器で歩き方を学ぶように。

 歩き方を理解出来れば、歩行器が無くても歩けるようになる。

 補助輪付き自転車しか乗れなかった子供が、一度でも補助輪無しで乗れるようになれば、すぐに自由に乗りこなす事が出来るように。

 少年は理解した。

 時を、止めた、と。

 オレが、止めた、と。

 それが、オレの、魔法だ、と。

 ここで重要なのは、時を止めた事であり。

 

「……で、この後どうするん?」

 

 攻撃した訳ではない事だった。

 

 

 

 

 

SIDE 少年

 

 思わず、尻餅をついたオレは、懸命に頭を回転させる。

 時を止めた、それは間違いない。

 今でも、右目の裏を意識すれば、0時0分0秒で止まっている時計の針が見える。

 ……が。

 それだけ、なのだ。ダメージを与えた訳でも、危機を脱した訳でもない。

 ただ、時を止めただけ、なのだ。

 

「とりあえず……殴るか」

 

 このまま、時を止めているだけでは、意味が無い。

 後ろへと下がり、十分に距離を置く。

 力に自信がある訳でも、喧嘩に慣れている訳でもないので、十分に助走をつけて。

 

「おおおおおおお!!!」

 

 気合の咆哮と共に駆け出し、飛び上がり、殴り抜ける!

 オレの拳が、使い魔の顔面を捉えた瞬間!

 

 

 

ゴシャアァァァァァァァ!!!!!

 

 

 

「がああああああああっっっ!!??」

 

 オレ“が”撥ね飛ばされた。

 そのまま、受身も取れず転がり続け、壁にぶち当たって、止まった。

 

「ああぁぁぁ……」

 

 全身に激痛が走り、自然と呻き声が出る。

 が、それでもオレの頭は状況を理解しようと回転する。

 

 何がおきた? 轢かれた? 撥ね飛ばされた? 何故? 時は止まっているはず?

 

 “オレの時計”はまだ、垂直に重なったままだぞ?

 

 激痛を我慢しながら、視線を向けると。

 殴られたのと、オレを撥ね飛ばした影響なのか、前輪を垂直に上げたまま、静止している使い魔が見えた。

 そう、静止している。時は、止まっているのだ。

 

「あぁぁ……」

 

 変わらず、自然と呻き声が出る体を、無理やり動かし、立ち上がる。

 撥ね飛ばされたにもかかわらず、まだ動かせる自分の体に、違和感を感じながらも、オレは“オレの魔法”を理解していく。

 

 時は、止まっている。

 動けるのは、オレだけ。

 ならば、何故使い魔が動き、オレを轢いたのか。

 殴ったからだ。

 

 正確には“オレが触れた”からだ!

 

 オレだけが動ける。

 正確には“オレが触れている物は、この世界で時を享受する事を許される”のだ。

 もしも、正確に“オレだけが動ける”のならば。

 “オレの身に着けている物”の“時も止まり”オレは身動きが取れなくなるはずなのだ。

 だが、オレは服を着たまま“動く事が出来て”いる。それが、オレの考えが正しい事を証明している。

 そして“オレが触れなくなれば、世界と共に止まる”のだ。

 前輪を垂直に上げたまま静止している使い魔が、それを証明している。

 これが、オレの魔法。

 

「あははははははははははははははははははっっっっ!!!!!!!」

 

 <オレだけの世界(Look at Me)>で、狂ったように笑う。

 何だこれ! なんだこれっ! ナンダコレッッ!?

 これが、魔法か!

 コレが、オレのチカラかっ!

 

 全身を襲っていたはずの激痛は、すでに無かった。

 そして、そのままオレは。

 

 “時計の針を動かした”

 

 

 

カチッ

 

 

 

 オレの時計が、0時0分1秒を射した瞬間。

 

 

 

ガシャァァァァァァァ!!!

 

 

 

 そんな、派手な音を立てて、下半身がバイクとなっている使い魔は、派手に転倒した。

 

「あははははははははははははははははははっっっっ!!!!!!!」

 

 それを見て、オレは笑う。

 ざまぁwwwww

 そのまま、使い魔は勢いに任せて滑っていき、視界からいなくなった。

 

「きっとお前は、自分に何がおきたのかを、理解出来はしない。」

 

 冷たく言い放つ。

 当然だ。

 オレが時を止めたんだ。

 オレだけが、あの中で動けるんだ。

 あれが<オレだけの世界>なんだ。

 

 そのままの、テンションが上がった状態で、オレは思考する。

 

 しかし、ぶん殴ったのは、愚策だった。

 <オレだけの世界>で、安全に攻撃が出来る手段を、考えないとな。

 どんな手段があr

 

 そこまで思考して。

 オレの耳は、再び音を拾った。

 それは、エンジン音。

 懲りずに、使い魔がオレを轢き殺そうとしているらしい。

 ……もうちょい、考えさせろよぅ。

 そう思い、音の方に向き直ったオレは。

 自分の下半身を“タンクローリー”に変化させて、こちらに向かう使い魔を見た。

 

 「いや……ないから」

 

 一気に、テンションが下がる。

 なんだそれ!? オレの魔法も大概だが、そっちも相当じゃねぇか!

 再び、オレは時を止めようとして。

 11時47分28秒を射している時計を、右目の裏に見た。

 

 止められない!?

 

 時を止めるには“オレの時計を0時0分0秒にする”必要がある。

 つまり、約13分経たないと、オレは“時を止める事が出来ない”のだ。

 連続使用は無理なのか!?

 それを理解した瞬間、オレは使い魔から必死に逃げ出した。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!!」

 

 必死に走るオレと、追いかける使い魔。

 しかし、2本の足とタンクローリーじゃ、速度が違いすぎる。

 これじゃ、13分も逃げ切れない。

 せっかく、魔法を理解したのに。

 オレの魔法が、発動できるようになったのに!

 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!

 早く! もっと速く! 動けよ、オレの足ぃ!!!

 ほぼ、真後ろにタンクローリーが迫った時。

 

「動けえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 オレの叫び声と共に。

 

 

 

バチッ

 

 

 

 放電したかのような音が、迫るエンジン音に掻き消される事無く、オレの耳に響き。

 

 ―――景色が、加速した。

 

「はあああぁぁぁぁぁ?????」

 

 自分の足が、明らかに限界以上の速度で動き。

 タンクローリーの追撃を横に避けて。

 

「へぶしっ!」

 

 壁に激突した。

 

「おぉぅ……鼻がぁ……」

 

 壁に顔面衝突とか、どこのギャグアニメだ、おい。

 そんな事を考えながら、オレは鼻を押さえながら、使い魔を探す。

 横に避けた為に、オレを見失ったらしい使い魔は、そのまま直進して、視界の外に消えた。

 またかい。

 まあ、タンクローリーじゃ、小回りきかんだろうに。

 そしてオレは、先程の自分の異常を考察する。

 いや、理解していた。

 先程の<オレだけの世界>と同じだ。

 一度、使えるようになれば、オレはそれを理解できる。

 

 

 

 放電能力。

 いや、むしろ<電気操作>とでも言うべきか。

 両足から電気が発生した。

 正確には、両足の黒いブーツが、だ。

 同じデザインの両手袋でも、発生出来るだろう。

 では、先程の異常な両足の加速はなんなのか。

 

 

 

 人間が体を動かすのは、脳からの指令によるもの。

 それが、神経を伝い、指令通りに動く。

 それは、微弱な“電気信号”だと言う事は、有名な事だろう。

 ようするに。

 両足のブーツが発した電気が“両足を速く動かす”と、直接神経に働きかけたのだ。

 その結果、脳からの信号を超えた速度で足が動き。

 (オレ)が、その速度に対応出来ず、壁に激突したのである。

 ……ぶっちゃけ、下半身だけダカダカと、異常な速度で動いていたら、キモい。

 が、そんな状態だったのは、確かだ。

 これが、オレの二つ目の魔法。

 むしろ、両手両足の装備の能力だと言ってもいいかもしれない。

 全身に纏うとかは、流石に無理そうだ。

 

 

 

 オレは、使い魔の走り去った方に向き直る。

 

<Look at Me>と<Electrical Communication>

 

 オレは“手段”を手に入れた。

 後は、それを“実践”するだけだ。

 軽く、右手を振る。

 

 

 

バチッ

 

 

 

 黒い放電が、右手に起こる。

 それを心地よく感じながら、オレは“使い魔討伐”の策を、脳内に練り上げていく。

 

「では、闘劇をはじめよう」




次回予告

全てのものにある始まり

されど、終わっていないのに、始まる事はありえない

だからこそ、これはオワリとハジマリの話



そして、幕を開ける為の必要事項

七章 魔法少女初日

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