「そうだね。
そのままの能力で魔女と戦わせるほど、僕らは非道ではないからね」
「オレや暁美先輩は、実弾銃使ってるじゃん?
軍隊あたり呼べば、魔女を駆逐できるんじゃね?」
「普通の人はそもそも、魔女を認識できないよ?」
「でも、普通の人でも、魔女結界に迷い込んだりするだろ?」
「普通の人は、異常な空間に連れ込まれたら、冷静ではいられないんじゃないかな?」
「……それもそうか」
杏子は縛鎖結界を使用し、迷い込んだらしい二人の一般人を隔離する。
「知り合いか?」
「うん……」
さやかの表情は暗い。
それも、仕方のないことだろう。
迷い込んでいたのは二人。
上条恭介と志筑仁美。
想い人と親友。
そして、さやかにとっての……。
「とっとと終わらせるぞ」
さやかの葛藤を察知したのか、杏子はそう言いながら、槍を構え。
「……わかってる」
数回首を振り、自身の蟠りを奥に仕舞い込んで、さやかも剣を構えた。
「……数が多すぎないか?」
リボルバーとショットガンの二丁拳銃で、使い魔を相手取る群雲が、疑問を洩らす。
マミもまた、マスケット銃で使い魔達を相手にしている。
双方共に、遠距離武器であり、その特性上迎え撃つ形となる。
「確かに……美樹さん達が先行している割には、数が多いわね」
自分の周りに新たなマスケット銃を作り出し、マミも同様の意見を出す。
「ここの魔女が、使い魔生成に特化しているのか。
先行した二人が、使い魔をスルーしたのか。
或いは、その両方か」
群雲が、使い魔の接近が途切れた頃合をみて、ショットガンを腰の後ろに戻し、リボルバーをリロードする。
「美樹さんが、使い魔を放置するとは思えないわ」
「それについては同感。
でも、一緒に居るのは佐倉先輩だし、使い魔との相性を考えると、やむなしって所じゃないか?」
リロードの終えたリボルバーを右腰にもどし、今度はショットガンのリロードを開始する。
その隙をついて、近づこうとする使い魔を、マミのマスケットが撃ち抜く。
「確かに、ありえそうね」
「そして、この状況なら。
使い魔を相手にするより、早急に魔女に辿り着いた方が、結果的に見滝原を守る効率がいいと思うんだが、そこんとこどうよ?」
「……」
考え込むマミをよそに、左手の振りだけでショットガンを元の状態に戻して
「……あ。
テレパシーがあるじゃん」
基本的な事を思い出した。
[こちら群雲と巴先輩なんですが、届いてます~?]
[……緊張感ないな、おい。
だが、助かる。
こっちはちょいと面倒な事になってる]
[届いてる人がいるなら、罰ゲームとして、パンツくれ]
[意味がわかんないわよ!]
[巴先輩の]
[私の!?]
[で、面倒な事って?]
[ちゃんと聞いてる辺りが腹立つわ……。
あたしらは魔女と交戦中だが]
[よっしゃ、サクっとシバキ倒してくれ。
また、使い魔が寄って来てるのを巴先輩がティロフィナってるから]
[それが出来たら、苦労はしない。
正直、劣勢だ。
今は、さやかが前に出てる]
[……マジで?
てか、なんで?]
[一般人が紛れ込んでた]
その言葉に、使い魔を相手にしながらも、テレパシーを聞いていたマミは、表情を硬くする。
[……ひとつ、確認]
そして、群雲は。
[その人に“魔女の口づけ”はあったか?]
[……いや、なさそうだな]
違和感を覚えた。
[……どちらにしても、使い魔スルーして合流した方が良さそうだな]
[出来れば“Lv2”を使ってでも、早期に来て欲しい]
[佐倉先輩って、大概ドSだよな。
あれ、肉体機能を簡単に限界突破するから、反動がえげつねぇんだけど。
てか、巴先輩置いて行っちゃうぞ?]
[……それも困るな。
一般人を守りながらの上に、魔女がガンガン使い魔召還するから、広範囲魔法が欲しい]
[ないからな、オレにはそんな都合のいい魔法は]
[あたしは無い訳じゃないが……縛鎖結界の方に魔力使わないと……]
[持ち堪えてくれ。
慌てずに急ぐ]
テレパシーを終えて、群雲は武器を両脇のハンドガンに持ち替える。
「聞いてたよな?
駆け抜けるぞ」
「解ってるわ!」
次の瞬間、マミの手から伸びたリボンが、空中で破裂するように無数に分かれる。
「レガーレ・ヴァスタアリア!!」
それは、前方の使い魔達を拘束し、縛り付ける。
「行くわよ!」
「……ん」
同じくテレパシーを終えた杏子は、襲い来る使い魔に対応する為、槍を多節根状に展開する。
「うぜぇんだよ!」
範囲攻撃の可能な槍。
それを、杏子は使いこなす。
そして、さやかもまた、何本もの剣を作り出し、投げつけながら、魔女への接近を試みる。
魔女は、最初の位置から動いてはいない。
どう見ても“門”なので、動かないのは当然。
故にさやかは、投擲する剣の標的を使い魔に絞っている。
少しずつ、だが確実に魔女との間合いを詰めて行き、射程内に入ったら、一気に仕留める算段だった。
「皆が、魔女結界に!?」
その頃、別働隊として街をパトロールしていたまどかとほむらは、キュゥべえの言葉を聴いていた。
「さやかと杏子が、偶然魔女結界を発見した。
その相手は、二人とは相性が悪くてね。
たまたま行動を共にしていたマミと琢磨が、それを知って救援に向かった。
僕は、キミ達に連絡するよう、琢磨に依頼されたのさ」
二人は“魔法少女の真実”を知っている。
それは、キュゥべえに対し、不信と不快感を覚えるという事と同義。
だが、それすらも割り切り、キュゥべえに連絡役を頼んでみせるのが、群雲琢磨である。
[キュゥべえは、嘘は言わないし。
群雲くんなら、充分にありえそうな事だけど……]
[さやかちゃんや、マミさんが大変なら助けに行かなきゃ。
きっと群雲くんも、キュゥべえに依頼した方が確実だと思ったんだろうし]
キュゥべえに悟られぬよう、念話で意見を纏めて、二人は頷いた。
「その結界まで、案内して」
次回予告
再び集結する、見滝原の魔女を狩る者達
前回のように、勝利を収める事が出来るかどうか
歯車は既に、決められた舞台へと、世界を運ぶ
五十八章 そんなのありかよ