「いい事……なのかしらね?」
「それに伴い、消費量も増えてきた」
「それは……どうなのかしら?」
「そして相変わらず、基礎が壊滅的」
「…………」
「オレ、才能あると思う?」
「……ノーコメントとさせてもらうわ」
魔女結界最深部。
縛鎖結界の前で、使い魔を相手にしている杏子と、魔女への接近を試みるさやか。
そんな中、遂にさやかが魔女を射程圏内に捉える。
剣を構え、一気に突進して斬りつける。
自分の周りの使い魔を一掃し、杏子が視線を向けた先。
魔女に対して剣を振るい続けるさやかと、斬られているだけの
結界内部。
駆け抜けるのは、二人の銃使い。
決して足を止める事無く、両腕の動きだけで、使い魔を撃ち殺すのは群雲琢磨。
その横で、進行方向にいる使い魔を、リボンで縛り上げて進むのは、巴マミ。
二人が最深部に辿り着くまで、あと僅か……。
結界外部。
その結界に急行する、二人の魔法少女。
未来から遡行し、真実を伝えて、新たな未来を夢見る為に奔走する、暁美ほむら。
ほむらから真実を伝えられ、絶望に負けそうになった時、魔人によって救われた、鹿目まどか。
仲間達の為、必死に走る二人が、戦場に立つのは、もう少し後になりそうだった。
芸術家の魔女VS美樹さやか
縛鎖結界で、一般人を守らなければならない為、杏子は前線に向かう事が出来ない。
故に、さやか単騎での魔女攻略となっている。
しかし、射程圏内に捉えてからのさやかの猛攻は、凄まじいものがあった。
巻き込まれてしまっている一般人が、知り合いだという事もある。
だが、それ以上に。
群雲や杏子に味わわされた敗北は、確実にさやかの糧となっているのだ。
回復能力の高さは、6人の中では髄一。
そういう意味では、さやかが近接戦闘型なのは、必然とも言える。
いい師に恵まれた、とも言える。
巴マミの実力の高さは周知の事実であるし、そのベテランに教わる事が出来るのは幸運であろう。
其処に加えて、実力上位である、群雲と杏子のコンビとの対立と共闘は、結果的にさやかの魔法少女としての成長を、一気に加速させていったのである。
使い魔を、新たに産み出される前に。
さやかは、一気に決めるつもりだ。
怒涛の連続攻撃。
マミが“スクワルタトーレ”と名付けた連撃で、さやかは魔女を追い詰めていく。
だが、そのまま好き勝手にやられるだけの魔女は存在しないだろう。
魔女だって、生きる為に抗うのだ。
そしてそれは、ある意味最適な形となる。
さやかが飛び上がり、一気に切り下ろそうとした瞬間。
芸術家の魔女は、自分を中心とした衝撃波を起こした。
「っきゃぁぁあぁぁぁ!!」
空中にいたさやかに、それを避ける術は無く。
衝撃波に吹き飛ばされるままに、その体は後方へと弾き飛ばされた。
そのまま受身を取れずに地面に激突し、勢いのままに転がっていく。
「さやかっ!!」
偶然にも、杏子の居た方向へ弾き飛ばされたさやか。
再び、使い魔を産み出す事に精を出し始めた魔女を視界に納めながら、杏子はさやかの名を呼ぶ。
「いたた……。
左腕が、完全に折れちゃった……」
すでに回復を始めている左腕を見ながら、さやかは右手に持つ剣を杖代わりにして立ち上がる。
「……焦りすぎだ、ばか」
五体満足、とは言えないものの、立ち上がる事が出来たさやかを見て、杏子は安堵する。
「もうすぐ、琢磨とマミも来るんだから、無理に一人で倒そうとするんじゃねぇよ」
「……あまり、あの子には頼りたくないんだけどなぁ」
「頼る必要はねぇよ。
むしろ“誰かを守る為に、利用してやる”ぐらいでいいんだよ、あいつは」
「自分の相方に、それはひどくない?」
「元々、あたしらは“利害の一致”で組んでるんだ。
変に気を使う必要なんてない。
ガンガン利用してやればいいんだよ。
死んだら、誰も守れないし。
死なれたら、二度と守れないんだから」
ほんの僅か。
杏子の表情に影が差した事を、さやかは察知した。
「そういえば、杏子はどうして魔法少女になったの?」
左腕の回復を待つ間、迫ってくる使い魔を右手の剣を投擲する事で凌ぎながら、さやかは問いかける。
「それ、今必要な事か?」
その横で、同じように槍を投げながら、杏子は眉を顰める。
「気になったのよ。
よく考えたら、そういった話をする機会なんて、まったく無かったし」
「……そりゃそうだ。
最初は敵対してたし、休戦したのも最近だし」
「暁美先輩の話が、まさかの最強の魔女襲来だったから、そんな話をする余裕なんてなかったしなぁ」
「でも、あたし達は結局共闘してる。
だから、杏子の事、少しは知っておいた方がいいかなって」
「……別に、聞いてて面白い話でもないぞ?」
「話したくないなら、いいよ。
でも……知る事で変わる事もあると思う」
「……まあ……機会があったらな」
「「そして、ナチュラルに会話に参加すんなぁ!!」」
「サーセンwww」
いつの間にか、自分達の横で両手の自動拳銃を乱射していた群雲に、二人のツッコミが冴え渡る。
「シリアスっぽい空気って……壊しにくいじゃん?」
「粉々だよ!」
「てか、マミはどうしたんだよ?」
「ん?
あそこ」
群雲が示した先。
前方ですでに、巨大なマスケット銃を構えて、魔女に狙いを定めていたマミがいた。
「一般人がいる以上、無駄に長引かせる訳にもいかないだろう?」
故に、群雲は使い魔に狙いを絞り。
マミは、魔女に狙いを定めていた。
「ティロ・フィナーレ!!」
そして、放たれる最後の射撃。
その攻撃が、魔女に反射された。
「え?」
まさか、反射されるなど夢にも思わず。
魔女を倒す為の砲撃が、自分に迫るのを、マミは呆然と見つめていた。
カチッ
「そんなのありかよ。
よりにもよって、反射って……。
火力で言えば、最上位であろう巴先輩の魔法が実質封印されたようなものじゃねぇか。
どうすりゃいいってのさ?」
<
そこで群雲は、独りで頭を抱えていた。
次回予告
それは、おかしな魔法の使い方
五十九章 全ての予想の斜め上