それは、人間にも、魔法少女にも、魔人にも言える、至極当然な事なのかもしれない」
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群雲が、最初に使えるようになった魔法にして、最大の切り札。
自分だけが動ける世界で、群雲は打開策を練る。
が、それより先に、反射された“ティロ・フィナーレ”を何とかしないといけない。
このままなら、マミに直撃するし、後方にいる自分達にも届く可能性がある。
仮に魔法少女達を自分だけの世界に“招待”して、射線から逃れたとする。
砲撃は、そのまま杏子の縛鎖結界に直撃。
下手をすれば、一般人がフィナーレである。
かと言って、この世界では群雲は“魔法を使用できない”という制限がある。
時間停止中に何とかする方法が、残念ながら浮かんではこない。
「仕方がない、か。
試したい事もあるし」
そして群雲は、マミの前に立ち。
時が、動き出す。
「え?」
それは、誰の呟きであったのか。
いつだって自分の為に動くと明言している魔人が今。
明らかに、自らを盾とする為。
砲撃の最前線に立っていた。
右手の平を襲い来る砲撃に向けて。
群雲は、自分の魔法を発動する。
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体の一部と異空間を繋ぎ、道具を収容する、群雲の魔法。
基本、一部位に一つしか道具を収容できないが、その質量に制限はみられない。
そして、右手の平のみ、収容数に制限がない。
“収容する物に、部位が触れている事”
これが、発動条件であり、群雲が唯一、変身前でも使用出来る魔法である。
そして群雲は。
ティロ・フィナーレを。
右手の平に“収容”するという。
全ての予想の斜め上を、やってのけて。
代償として、右腕の肘から先が、弾け飛んだ。
「がああああああああ!!!!!」
体の一部が弾け飛ぶ激痛は、自然と咆哮へと変換され、群雲の口から発せられる。
そのまま群雲は、その場に倒れこんだ。
「たくまぁぁ!!」
その名を呼び、駆け寄る杏子。
「そんな……群雲くん!!」
もっとも近くで、その惨状を目撃する事になったマミも、その名を呼びながら、倒れた群雲を抱きかかえる。
「……せっかくの衣装が汚れるぞ……?」
歯を食いしばりながら、それでも口元を吊り上げ、群雲はそんな事を言う。
だが、状況は制止しない。
魔女は使い魔を産み出し、使い魔が群雲達に迫る。
「近づくんじゃねぇぇぇ!!」
それを、群雲達の前に立ちはだかり、槍を展開した杏子が凌ぐ。
「一度、さやかの所まで下がれ!」
「わかったわ。
群雲くん、立てる?」
「心配は無用。
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右腕が弾け飛んだ程度で、人生止めるほど、オレは自分を疎かにはしていないんでね」
激痛もまた、脳が受け取る電気信号によるものである。
それを群雲は<
三人は、縛鎖結界の前で、さやかと合流する。
「二度とやらんぞ、こんな事」
「無茶しすぎだ!
二度とやらせねぇよ、こんな事!!」
「ごめんなさい……私のせいで……」
「別に、謝る必要はない。
オレが、自分勝手に動いた結果だし。
きっと、その内生えてくるから」
「生えるって……」
「ナマモノいわく、魔法少女は条理を覆す存在らしい。
なら、魔人がそれを出来ない道理はない。
まあ、美樹先輩のような回復能力なんて持ってないから、時間と魔力を相当使いそうだが。
……てか、三人揃って、オレを心配そうに見つめるな、照れる」
「お前は、どうしてそう……!」
「落ち着きなって、杏子。
てか、群雲も照れるってなによ、照れるって?」
「もうほんと、魔法少女達は自分の可愛さをもっと自覚するべきだよね。
ただでさえ、異性との接触経験なんざ皆無なオレとしては、冷静さを保つのに必死」
「……右腕を失った直後の会話じゃないわよね、これ……」
「そんな訳で、オレを通常通りに戦力として数えないでくれよ?」
右腕の止血を終えた群雲が、言いながらその場に座り込む。
さやかのように、骨が折れたわけではなく、弾け飛んでしまった群雲の右腕。
それは、右手の平の<
弾丸の補充が不可能である事を意味し。
もちろん『逆手居合 電光抜刀』が使えるはずも無く。
「今のお前を戦わせるほど、あたしらは鬼畜じゃねぇよ」
「待ってて。
すぐに魔女を倒して、貴方の治療に専念しましょう」
「あたしの癒しの力で、腕ぐらいすぐに生えてくるわよ」
それぞれが言いたい事を言いながら、芸術家の魔女に向かう。
その三者三様の背中を見つめながら、群雲は腰の後ろのショットガンを取り出す。
「何が辛いって……ストックしていた
片手しか使えないながらも、弾丸を抜き、群雲は空になった銃を腰の後ろに戻す。
杏子の縛鎖結界に背中を預け、そのまま座り込みながら、群雲は弾丸を左手で弄ぶ。
「見届けさせてもらうぜ?
先輩達の闘劇を」
次回予告
魔女との戦い
それは、いつだって命懸け
六十章 決して多い方ではない