もっと、簡単に、シンプルに魔女退治って出来ないものかねぇ?」
「よっぽど強くならないと、無理だろ」
「ですよねー」
「使い魔が多いよっ!?」
魔女結界に辿り着き、中に入ったまどかの第一声がこれだった。
暁美ほむらは、時間遡行者である。
だが“前回”も含めて、彼女の魔法少女歴は、二ヶ月に満たない。
10歳の時に契約した群雲を含め、ほむらの経験は決して多い方ではないのだ。
加えて、鹿目まどかも、さやかほどではないが、契約してからそれほど日は経っていない。
二人が、最深部に辿り着くまで、もうしばらく掛かりそうである。
魔女結界最深部。
巻き込まれてしまった一般人、上条恭介と志筑仁美。
縛鎖結界を挟み、右腕を失った群雲琢磨。
そして、戦線に立つ3人の魔法少女。
その先にいるのは、芸術家の魔女。
左腕の治ったさやかが剣を投げ。
縛鎖結界が消えないように注意しながら、杏子が槍を投げ。
マミが、マスケット銃を撃ち。
使い魔を迎撃する。
ティロ・フィナーレの反射。
右腕が弾け飛びながらも、群雲が無理矢理凌がなければ、無事ではすまなかった事実。
魔女本体への攻撃を自粛するには、充分すぎる理由であった。
「ちまちまやってても仕方がないぞ?」
「でも、さっきみたいに大技を反射されたらどうすんのよ?」
「暁美さんがいれば、時間停止中に攻撃出来るのだけれど……」
(電撃系の魔法を発展させるのに必死で、時間停止中の攻撃手段を確立させてなかったのは、失敗だったな。
まあ、そもそも巴先輩のティロ・フィナーレが反射された事が想定外すぎたか)
魔女撃退の策を練る三人と、ここに至ってなおマイペースな魔人。
そして、相変わらず
[攻めないの?]
具体的な策が浮かばない三人を見ながら、群雲が念話を送る。
[反射を警戒してるんだよ。
琢磨は、なにか策はないのか?]
返事をしたのは杏子。
[策……と言うか、魔女を観察して、感じた事でもいい?]
[かまわないわ]
マミの返事を聞き、群雲は僅かに思考した後、眼鏡を押し上げるいつもの動作を。
―――――しようとしたが、右腕がない事を思い出し、苦笑した。
[癖ってのは、この状態でも抜けないらしい]
[何の話よ?]
[気にするな、独り言だから]
[念話で独り言とか、器用な事しないでよ]
さやかのツッコミを受けつつ、群雲は思考を切り替え、念話を続ける。
[使い魔生成に特化した上に、先程の反射能力。
そして、先程からの三人との戦いから見るに、魔女は基本的に移動しないと思われる]
[そう言えば、あたしが魔女を間合いに捉えて斬りつけてた時も、動かずに衝撃波で吹き飛ばされたっけ]
[……そんな事があったんかい]
さやかの独白を情報として組み込み、群雲は頭をフル回転させる。
地味に<
[遠距離攻撃に対しては反射、近距離攻撃に対しては衝撃波。
魔女の対応はそんな所か?]
[そう考えるのが妥当な所か]
[自身が移動しないのならば、死角の無い対応だな。
でも]
[でも?]
[普通に考えて“両方同時は無理”だろうな]
「「「!?」」」
右腕を失いながらも、ここまで冷静に状況を分析するあたりが、群雲琢磨の異常性。
[なら、近距離攻撃と遠距離攻撃を同時に行えば!]
[近距離攻撃してる人が、下手すりゃ死ぬぜ?]
[……ダメじゃねぇか]
[とりあえず、自分の考えを垂れ流してるだけだもの、オレ]
[……他には、なにかないの?]
[ふむ……。
普通に考えれば“常に反射する事は出来ない”って事か?
魔女にだって、魔力の限界があるだろうし]
[だとすれば、反射状態か、そうじゃないかをうまく見極める事が出来れば……!]
[大技を叩き込むのは、不可能じゃないだろうな]
[加えて予想するなら“反射状態を解除した直後に反射状態になる”ってのは、考えにくい]
[……狙い目は、反射状態を解除した直後ね]
[そして、オレの予想が外れてた場合、最悪自分の技で自分が死ぬ]
[……まあ、リスクの無い戦いなんて存在しないからな。
あたしらが執るべき作戦はやっぱり]
[反射されても、被害の少ない攻撃を魔女に行い、反射状態になるのを待ち]
[反射状態が解除された直後に、大技を叩き込む、ね]
作戦概要を決め、三人の魔法少女は、即座に行動を起こす。
(いざと言う時は<
自分の時計が、11時59分59秒で静止したのを確認し、群雲は戦局を見守る。
しばらく、使い魔を迎撃する傍ら、魔女本体にも攻撃を加えて、反射状態になるのを待つ。
(このまま、ダメージが蓄積されて倒せれば楽なんだろうけど)
そう群雲が考えた直後、さやかの投げた剣が反射され、他二人が慌ててそれを迎撃した。
(ですよねー。
そう簡単にいくなら、苦労はありませんよねー。
てか、反射状態が意外と解り易いな。
普通にバリア張ってる感じか)
マイペースな群雲を余所に、三人の魔法少女は大技の準備に入る。
一人は、その場に跪いて祈り。
一人は、周りに無数の剣を生み出し。
一人は、巨大な銃を構える。
そして、芸術家の魔女が反射状態を解除した直後。
魔法少女の魔法が、炸裂する!
「断罪の磔柱!」
「スプラッシュスティンガー!」
「ティロ・フィナーレ!」
次回予告
そして
状況は
最悪へ
六十一章 化け物