無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「全てを知っている奴なんていない。
 オレは、知っている事しか知らない。
 オレは、出来る事しか出来ない。
 そして、出来る事を、常に最善の状態で出来るとも限らない」


六十一章 化け物

 三人の魔法少女の大技。

 

断罪の磔柱―――――自身が愛用する槍を巨大化させた物を地面より召還、突き上げる杏子の大技。

スプラッシュスティンガー―――――投げる為の剣を無数に召還、その全てを一息で投げきる、さやかの大技。

ティロ・フィナーレ―――――言わずと知れた、巴マミの代名詞。

 

 

 

 

 全てが炸裂し、反射される事もなく。

 巻き起こり、立ち昇る爆風の先。

 

 

 魔女の姿が、完全に消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 群雲が、真っ先に感じたのは違和感。

 それが、何に対しての違和感なのかを探ろうとした矢先。

 

 

 

 

「オウフッ!?」

 

 背を預けていた縛鎖結界が消え、そのまま抵抗する事無く、後頭部を地面に打ち付けた。

 

「消すなら言ってよ!?

 たんこぶ出来たじゃん!!」

「攻撃に魔力使ったんだから、それぐらい気付けるだろ?」

 

 群雲の抗議をサラッと流して、杏子はどこからかスティックチョコを取り出し、口に咥える。

 その横を、さやかとマミが通り過ぎた。

 

「……?」

 

 拭えない違和感。

 群雲は、何とか原因を追究しようと

 

「腕は大丈夫?」

「……考えさせんかい」

 

 した矢先、今度はマミに遮られた。

 

「オレの事はいいから、まずは一般人を何とかしたら?

 オレにとっては、知ったこっちゃ無いが、そちらは違うんだろう?」

「大丈夫よ。

 向こうには美樹さんが行ったわ。

 知り合いのようだし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よるな、化け物!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声に、マミと群雲が反応する。

 視線の先、手を差し伸べたまま硬直するさやかと。

 その場に座り込み、その表情を恐怖と拒絶で染める、上条恭介。

 志筑仁美も、恭介と同様の表情を見せている。

 

「てめぇ!

 命の恩人に向かって……!!」

「落ち着いて、佐倉さん!」

 

 その言葉に反応し、掴み掛かろうとする杏子を、それを察知したマミが止める。

 

「恭……介…………?」

 

 事態が飲み込めないさやかは、呆然のした表情のまま、想い人の名を呟く。

 

(違和感って事は、通常とは違うって事だよな)

 

 この期に及んでなお、自分中心な群雲。

 

 

 

「なんだよこれ!

 なんなんだよ、一体!!?」

 

 パニックを起こし、喚きたてる恭介。

 

「こんな訳の解らない場所で!

 見たこと無い化け物と、さやかみたいな化け物が殺し合うって、なんだよ!!?」

「恭介……あた「よるな、化け物!」……!?」

 

 錯乱する恭介をなだめようと、さやかが近づこうとするも逆効果。

 

「……群雲君が言っていたのは……この事?」

「なんだよ?

 琢磨が何だって?」

 

 その情景を見て、マミが真っ先に思い出したのは、結界内での群雲との会話。

 

 

 

 

 

 

『化け物を殺すのは、いつだって人間だ。

 でも“化け物を殺せる人間”を、他の人間は“同じ”だと認めるか?』

 

 

 

 

 

 魔人の事も、魔法少女の事も、魔女の事も。

 何も知らず、何も解らず。

 ただ、魔女結界に捕らわれた上条恭介と志筑仁美が経験したのは。

 

 

 

 自分達を殺そうとする、見た事の無い化け物。

 

 

 

 そして、其処に現れたのは。

 知り合いにそっくりな“化け物を相手取る存在”だった。

 

 繋がらないのだ。

 日常を共に過ごした友人(さやか)と。

 化け物を殺し、折れた腕が簡単に治る魔法少女(さやか)が。

 

「……こうなると、予想していたの?」

 

 マミの問いかけに、変わらず違和感の正体を探っていた群雲が、話半分に答えた。

 

「経験あるからな」

「……どういう事だよ?」

 

 マミに抑えられ、恭介に近づけない杏子も、マミと群雲の言葉に興味を示す。

 

「佐倉先輩と会う前か。

 見つけた魔女結界に、一般人が迷い込んでた事があってね。

 魔女狩りが目的だったオレは、一般人を無視して、魔女を殺した訳よ。

 で、GS(グリーフシード)を回収してた時に、その一般人に言われたんだよ。

 『化け物同士の殺し合いに、人間を巻き込むな!』ってな」

 

 仕方が無いと言えば、そうなのかもしれない。

 何も知らない人が、突然魔女結界で殺されそうになり。

 その“化け物”を、殺す存在が現れたのならば。

 何も知らない人が思うのは、どちらかだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“自分を助けてくれた英雄か”

“化け物を殺しにきた化け物か”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残酷な事に。

 群雲が結果的に助けた人も。

 上条恭介と志筑仁美も。

 

 

 後者の印象を受けてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!?」

 

 唐突に、群雲は気付いた。

 

 上条恭介はこう言った。

 

『こんな訳の解らない場所で!

 見たこと無い化け物と、さやかみたいな化け物が殺し合うって、なんだよ!!?』

 

 そして、群雲はこう言った。

 

『で、GS(グリーフシード)を回収してた時に、その一般人に言われたんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今の魔女のGS(グリーフシード)はどこだ?」

 

 杏子と群雲が組む理由は、利害の一致。

 効率良くGS(グリーフシード)を回収する事。

 

 目的は、GS(グリーフシード)だ。

 

 だが、前線で戦っていた3人が、回収した様子はなかったし、後方に居る群雲が回収できるはずも無い。

 

 

 

 

 

 そして、上条恭介が言ったように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは“今も”魔女結界の中なのだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 群雲が気付くとほぼ同時。

 

 まるで、切り絵を貼り付けるかのように。

 

 下部分から順に、巨大な門が姿を現わす。

 

 

 

 

 

 6人の間近に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にげろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 誰よりも真っ先に気付いた群雲の声が、あたりに響き渡る。

 それにあわせて、魔法少女が行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう……“魔法少女”が。

 

 突然の叫び声。

 魔女の出現。

 

 それを、何も知らない、巻き込まれただけの一般人が反応できるはずも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、残念な事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ先に行動したのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 門をくぐるかのように出現した巨大な拳。

 それは、人間を肉の塊に変えるのに。

 充分すぎる威力を持っていた。




次回予告

其処に至るのには、理由がある



これは、最悪の夜へと繋がる







最低の出来事

六十二章 魔法少女の失態

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