無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

7 / 173
「魔法、魔女、使い魔」
「例外無く“魔”という単語がある訳だが」
「オレには“魔=悪”だと、判断する事は出来ない」


七章 魔法少女初日

SIDE out

 

 自分の能力(魔法)を理解した少年は、使い魔を倒す為の策を練る。

 と、言っても、作戦は至ってシンプル。

 

 “時を止めて、電気で殴る”

 

 それが最も、確実な方法である。

 重要なポイントは二つ。

 

1.再び時を止められるようになるまで、時間を稼ぐ

 これは、先程のように両足に電気を流して操作すれば、可能であろう。

 相手の下半身はタンクローリーであり、小回りがきかないのだ。

 

2.相手を倒せるだけの電撃

 これは、やってみなければ分からないが、力を込めるだけの“時間”ならば、稼ぐ事は可能だ。

 

 幸いにも、使い魔が姿を見せず、時間はゆっくりと過ぎていく。

 少年は、自分の時計が11時59分59秒で、静止したのを確認する。

 発動は、可能になった。

 が、使い魔は一向に姿を現さない。

 ひょっとして、逃げたのだろうか?

 そう考え始めた少年の視界に、ついに使い魔が現れた。

 

 下半身を、戦闘機に変えて。

 

「まじか!?」

 

 反射的に、右手から放電させ、使い魔にぶつけるが、問答無用で突っ込んで来る。

 明確な意思が込められていない放電魔法では、効果は薄いのだ。

 そして、使い魔が目前に迫った所で。

 

 

 

カチッ

 

 

 

 世界は、少年だけを見る(止まる)

 

「下半身の変化に、時間が掛かっていたのか……?」

 

 疑問を口にしつつ、少年は使い魔の後ろに回り、右手に力を込める。

 戦いに決着を着ける為、右手に黒い電気が。

 ……溜まらなかった。

 

 

 

 

SIDE 少年

 

「あるぇ~?」

 

 予想外の事態に、オレは首を傾げた。

 さっきは、出来たジャン? 反射的に、放つ事も出来たジャン? 何で、今は発動しないのよ?

 とりあえず、使い魔の後ろにいるので、現状は安全だろう。

 そう考えて、オレは時を動かす。

 使い魔は、そのままオレを見失い、直進して視界から消えた。

 その隙に、オレは右手に力を込める。

 

 

 

バチッ

 

 

 

 あるぇ~? 普通に発動しおった。

 とりあえず、反射的に放った電気ではダメだったので、今度は明確にイメージする。

 ―――電気を束ねる。

 相手は戦闘機。

 ならば、猛スピードで突っ込んで来る筈。

 カウンター気味に当てるなら、殴るよりも放出した方が安全。

 電気を集めて、球状にして飛ばせないか?

 考察そのままに、イメージ。

 

 

 

バチィ

 

 

 

 ……出来そうだ。

 もはや何度目か、数えてはいないが、使い魔が突っ込んで来る。

 オレ的には助かるが、死角から襲うと言う発想が無いのだろうか?

 オレは右手を使い魔に向けて。

 

「いけぇ!」

 

 電気の球体を射出した。

 それは、一直線に使い魔に向かい……。

 

「おっそ!?」

 

 球体の飛行スピードが予測以上に遅かった。

 電気を使わずに走っても、追い抜けそうなほどに遅い。

 そんなものを、使い魔が食らうはずも無く。

 しかし、回避行動のおかげで、オレは跳ね飛ばされる事無く。

 

「……どうしよ?」

 

 自分の横を通り過ぎて行った使い魔を確認しながら、オレは考察する。

 

1.時間停止中は、電気操作が使用できない

2.反射的な放電では、効果がない

3.力を込めて射出したら、遅すぎて当たらない

 

 ……うわぁ……。

 せっかく手段を得たのに、実戦じゃ役に立たねぇ。

 使い魔が再び、こちらに狙いを定めたのを視認し、オレは魔法の準備をする。

 ……すでに時計は、11時59分59秒で静止している。

 あれ? さっきより準備が早い?

 要検証だが、それは後だ。

 使えるのなら、使うまで。

 使い魔がオレに接触する直前で、時間を止める。

 そしてその場から、助走をつけて飛び上がり。

 

 戦闘機の上に着地した。

 

 オレが触れた事で、使い魔の時が動き出す。

 しかし、オレも着地と同時に時を動かしていた。

 突然、目標であるオレが目の前に、しかも自分の上にいる事に、使い魔も驚いているだろう。

 だが、もう、遅い。

 着地し、時が動き出したとほぼ同時に、オレは行動を起こしていた。

 両手の薬指と小指を曲げ、残りを真っ直ぐに伸ばし、使い魔に向ける。

 

 ―――弾速が遅いのならば。

 

 両手から、黒い電気が迸り。

 

 ―――避けられない位置から、ぶち当てる!

 

 使い魔のほぼ眼前で、電気球体を射出した。

 時間停止を利用した、完全な奇襲攻撃。

 その策は見事成功し、使い魔は黒い放電と共に、消滅した。

 

「勝ったあああああぁぁぁあああぁぁあ!!!!!?」

 

Q.自分が乗っていた戦闘機が、飛行中に突然消えたらどうなりますか?

 

「がはぁ!!?」

 

A.放り出されます

 

 勝利の雄叫びは、途中から情けない叫び声へと変わり、為す術も無く地面に叩きつけられた。

 勢いそのまま、ゴロゴロと地面を転がり、壁にぶち当たって止まった。

 

「あああぁぁぁぁ……」

 

 激痛に呻き声を上げながら、オレは仰向けに寝転がる。

 瞬間、辺りの景色がぐにゃぐにゃと歪み、始まりの路地裏に戻った。

 おそらく、使い魔を倒した事で、結界が消滅したんだろう。

 

「ぐぐぐ……」

 

 無理やり体を動かし、痛みを我慢しながら立ち上がる。

 こんな所を誰かに見られたら、めんどくさい事になるのは確実だ。

 早急に立ち去る必要がある。

 

「勝利の余韻ぐらい、噛み締めさせろよぅ……」

 

 言いながら、オレは人目を避けながら、自分の家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、オレの“魔法少女初日”に起きた出来事だ。

 この日を境に、オレの日常が一変する。

 ある小学校のクラスから、一人の少年が姿を消し。

 魔法少女と魔女の戦場に、一人の少年が姿を現した。




次回予告

こうして始まった、一人の少年の舞台劇

その舞台の歯車が、別の舞台装置と噛み合ったとき

希望を願い、絶望を嗤う

ある、魔人の物語が



幕を下ろす為に、上がる

八章 オレは、この日にこそ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。