無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「世界が優しくないのは、今に始まったことじゃない。
 だが、今回は最悪だ」


第三幕 共愛と狂愛のthird night
六十八章 無いだろう


SIDE ?????????

 

「はー……はー……はー……」

 

 自分の息が荒いのは自覚している。

 しかし、それも仕方の無い事であろう。

 

 これから試す“魔法”の成否で、運命が変わる。

 

 もし、失敗し、自分の意識が途切れるような事になれば。

 

 

 “オレは、二度と目覚める事は無いだろう”

 

 

 だが、これが成功したのなら……オレは…………。

 

「はー……はー……はー……」

 

 失敗=死。

 さすがに、死にたいなんて思ってないので、僅かに右手が震えるのも、仕方が無い。

 

 そして、オレは魔法を発動させ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は……はは…………あははははははははははは!!!!」

 

 魔法は確かに発動した!

 だが、オレは未だにオレのまま!!

 

 オレは、ここにいる!!!

 

「アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

 

 自分の思うがまま、自分の望むがまま。

 

 しばらくオレは、見滝原の展望台で、声が枯れるほどに笑い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び開く、絶望の舞台。

 真の開幕は“魔法少女 暁美ほむら”が見滝原を訪れてからの1ヶ月。

 

 されど。

 

 たとえ、彼女が現れずとも。

 

 歯車は廻り続ける。

 

 

 

 独りの魔人が“殺されにくくなった”この日は。

 

 

 

 

 暁美ほむらが見滝原を訪れる、およそ1年前。

 此度の舞台は、ここより始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

――――あたしは、その光景を、忘れる事は無いだろう――――

 

 家族を失い、マミと袂を別ってから。

 あたしは独りでの生活を享受していた。

 

 享受するしかなかったんだ。

 別れたのはあたしから。

 離れたのはあたしから。

 

 それでも、魔法少女であるあたしは、魔女を倒す事こそが使命で。

 それでも、独りで生きていくには、魔法少女という存在は、充分過ぎるほどの力があって。

 

 

 

 あたしが初めて“あいつ”と出逢ったのは、そんな風にやさぐれていた時で。

 

 あたしの中に、その“存在”を残すのには、充分過ぎるほどの力があったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく、当たりかな」

 

 安定した魔女結界の中を進みながら、あたしは意気揚々と使い魔を蹴散らしながら先へ進んでいた。

 国がどうなろうと、世間がなんと言おうと。

 民を無視した政治家が何をしようと、下らない法律が作られようと。

 

 独りで生きているあたしには、なんの関係もないし、ジャマならぶっ潰すだけ。

 

 でも、その為には魔力が必要だし。

 魔力を十分に確保する為にはGS(グリーフシード)は不可欠だ。

 だから、あたしは魔女を狩る。

 自分が生きる為に。

 自分が生きたいように生きる為に。

 

「ん?」

 

 そんな、あたしの視界に映ったのは、独りの軍人。

 緑の軍服に身を包み、黒い外套を翻し。

 僅かに持ち上がった白髪と、両手足の黒が印象的な。

 

「ここを管轄する魔法少女……じゃ、ないよな。

 どう見ても少女じゃないし」

 

 髪と同じ色をした眼帯で右目を覆った、一人の少年。

 魔法少女じゃないのなら、なんだってあいつは魔女結界の中に?

 一切の迷いなく歩を進める少年は、迷い込んだ一般人には見えず。

 かといって、あたしと同じ“魔法少女”であるはずもなく。

 どうしてあいつは、ここにいるんだ?

 興味の沸いたあたしは、気取られないように離れた場所から、少年を観察することにした。

 

 

 

 

 

 

 機嫌良さそうに、魔女結界をまっすぐに進む少年と、少し離れた所から尾行するあたし。

 ……なにやってんだろうな、あたしは?

 変わり映えする事のない状況に、退屈を感じ始めていた。

 そんな、気を抜いた一瞬で状況が動くんだから、世界はやっぱり優しくない。

 

「!?」

 

 後方からの気配に、あたしは槍を携えながら振り返る。

 視界に映るのは、無数の使い魔たち。

 まさか……誘い込まれたのか!?

 

 次の瞬間だった。

 

 使い魔が襲い掛かってくるより速く。

 あたしが、迎撃体制をとるより早く。

 

 ()()()()いた。

 

 あたしの瞳に映るのは。

 細切れになった、使い魔だったモノと。

 その中心で、右手の握り拳の間にナイフを挟んで。

 僅かに見える口元に笑みを浮かべる。

 白髪の少年だった。

 

 

 

 

 一筋の黒い放電と共に。

 周りで、命が終わる中心点。

 まるで、泣いているかのように微笑む独りの魔人。

 

――――あたしは、その光景を、忘れる事は無いだろう――――

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

「……違う……な」

 

 周りの使い魔を細切れにして、オレは呟いた。

 

 契約したあの日から今日まで。

 オレは“得た力を十二分に使いこなす”事に、すべての時間を費やした。

 

<オレだけの世界(Look at Me)>

<電気操作(Electrical Communication)>

<部位倉庫(Parts Pocket)>

 

 オレが扱う三種類の魔法を、徹底的に研ぎ澄ましてきたつもりだ。

 その為に必要な物も揃えた。

 

 日本刀、銃器とその弾薬。

 そして今、オレが右手に持つナイフ。

 

 シンプルな造詣のナイフを右手の<部位倉庫(Parts Pocket)>に入れて、オレは視線を魔法少女に向ける。

 赤を基本とした、槍を持つ魔法少女。

 

「なにか、用かな?」




次回予告

再び、幕を開けるのは

絶望に彩られた

惨劇の舞台

此度の主演は白い魔法少女

そして、白髪の魔人

これよりしばらくの舞台は

そこに至るまでの悲劇ですらない

ただの事象

六十九章 滅んじゃえば

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