無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

74 / 173
「なんで、眼帯なんてつけてるんだよ?」
「ワイルドだろぉ~。
 ゴメン、冗談、だから槍を下ろしtアーッ!!」


六十九章 滅んじゃえば

SIDE 佐倉杏子

 

 そいつは、不思議な奴だった。

 名を、群雲琢磨。

 1年ほど前にキュゥべえと契約してから、ずっと独りで放浪していたらしい。

 

「以前、暮らしていた街?

 滅んじゃえばいいと思うよ」

 

 そう言って笑うような奴。

 でも、その笑顔が。

 まるで、泣いているかのように見える。

 

「ここまで安定した結界なのに、魔女がいねぇし。

 帰っていいかな?」

 

 始めて会った魔女結界で、そいつはそんな事を言い放つ。

 

「この街の人達? 知ったこっちゃないな。

 犠牲者が出る? だろうねぇ」

 

 自分の為にしか動かず、他者の事など顧みない。

 まあ、その点に関しては、あたしも人の事は言えないのだけど。

 

「そんな訳で、周りの使い魔に告ぐ。

 おとなしく帰してくれるのなら、これ以上の被害はない。

 だが、掛かってくるのなら……」

 

 その上で、自分の能力を全開で使う事に、一切躊躇わないのだから。

 

「Answer Deadだ!」

 

 性質(たち)が悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と」

 

 結局、使い魔を殲滅したあたし達は、結界の最深部だった高層ビルの屋上で。

 

「敵対するにしろ、共闘するにしろ……。

 まずは、自己紹介からだよね?」

 

 ………………変身を解いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々と話をした。

 相手の事を色々と聞いたし、自分の事を色々と話した。

 初対面、しかも“同業者”でありながら“性別が違う”相手に、興味があったのは間違いない。

 考え方が、マミのような“正義の為”じゃなく、あたしに近い“自分の為”だったのも、理由のひとつかもしれない。

 

 でも、なによりも。

 

 機嫌良さそうに、魔女結界を進む姿が。

 瞬きすら置き去りにする勢いで、命を細切れにした姿が。

 今にも泣きそうな、笑顔が。

 

 あまりにも異質で、あまりにも異端で、あまりにも異物で。

 

「そんなに凝視されると……照れるん……だけど…………」

 

 あたしとは、あまりにも違いすぎたから。

 

「やっぱり、年上か……。

 じゃ、佐倉先輩でいいかな?」

 

 もしかしたらあたしは……羨ましかったのかもしれない……。

 

「オレは、オレの為に願い、オレの為に生きると決めた。

 これだけは、絶対に譲らないし、後悔なんてするわけない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ行くかな」

 

 前髪が地味に長く、眼帯の上から眼鏡までしてるせいで、表情がほとんど見えないが、口元だけは相変わらず笑っている。

 そんな状態で、琢磨は言った。

 

「どこに行くんだよ?」

「見滝原ってとこ」

 

 以前、あたしの住んでた街の名を。

 

「……なんで?」

 

 若干不機嫌になりながらのあたしの質問に、琢磨は簡潔に答えた。

 

「ナマモノに勧められ「ナマモノ?」……契約して、願いを叶えたあの生き物」

「……キュゥべえの事か?」

「あ、そんな名前なんだ」

「知らなかったのかよ!?」

 

 そして、一気に毒気を抜かれた。

 キュゥべえの名前を知らないとか、いくらなんでも無理があるだろ?

 

GS(グリーフシード)を集める人と回収するモノ以外の接点がないからなぁ……。

 だからこそ、狩場を勧められた事自体に興味を持ってね。

 行ってみようかと」

 

 その道中に偶然、結界を見つけたので入ってみた。

 そこが、あたしと会った場所だった、か。

 

「それで、なんでキュゥべえは見滝原を?」

 

 気を取り直し、スティックチョコを咥えながら、あたしは聞いた。

 それに対し、右手の中指で眼鏡を押し上げながら、琢磨は答えた。

 

 その答えは……。

 

「見滝原って街は、近代的な都市開発が進められている。

 それは、発展する対価として、従来の物を破壊する歪みを生むんだ。

 その歪みに導かれるように、魔女や使い魔の数が増えてきている。

 狩場という意味では、理想的じゃないかな?

 それに加えて、そこで活動していた魔法少女の一人が街を離れてしまった。

 残った一人も、充分に実力のある魔法少女だけど。

 “一人”というのはやはり、限界があるんだよ。

 共存しろとは言えないけれど、折り合いをつけられれば、活動しやすい場所じゃないかな?

 ……って、ナマモノが言ってた」

 

 あたしも“理由”に入っていた。

 でも、最後の一言はいらないだろ?

 

「オレは、オレの為に生きると決めているが。

 その為の“場所”にはこだわりは無い。

 オレがオレであるなら、それで良いし。

 オレとして生きられない場所なら、立ち去るだけだし」

 

 向かう事は確定らしい。

 

「佐倉先輩はどうする?」

「あたしは……」

 

 さすがに、向かう気にはなれない。

 完全に喧嘩別れだった上に、あたしには謝る気は毛頭無いからだ。

 

「やめとくよ。

 あまり、大人数になって“取り分”が減るのも、アホらしい」

「……ん」

 

 あたしの言葉を聞いて、琢磨は一言頷くと、そのまま背を向けた。

 

「まあ、見滝原の魔法少女と仲良くなれるとは限らないしなぁ……。

 ナマモノは、今もせっせと営業中みたいだし。

 ま、次に逢った時に敵対しない事を願うよ」

 

 基本的に、魔法少女と戦う理由が、オレには無いからね。

 そう言い残して、琢磨は去っていった。

 

 

 

 

 

 しばらく後。

 琢磨と再会して、見滝原に行く事になるとは。

 その時のあたしは、想像だにしていなかった。

 

 




次回予告

見滝原を護る少女と

自分すら護れない少年



また一つ、歯車が噛み合う



七十章 え? なにこの子?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。