無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「色々詰め込みすぎて、右手の平の<部位倉庫(Parts Pocket)>がやばい」
「具体的には?」
「何が入ってるか、憶えきれてない。
 この間、文化遺産の壷が出てきた」
「……なにしてるのよ……?」
「ついでに、前回の魔女狩りで、それがトドメになった」
「ホントに、なにしてるのっ!?」


七十四章 殺されて、死ね

SIDE 巴マミ

 

「意外と、手間取ったわね」

「そりゃ、互いに手助けではなく、足の引っ張り合いしてたようなものだし?」

「……事実かもしれないけど、あえて言う必要は無いんじゃない?」

「あるよ。

 現実を正しく認識してこそ、最善への道は開かれる」

「群雲君……あなたは「って、なんかの歴史書で見たような気がする」色々台無しよ」

 

 本当にこの子は、碌な事を言わないわね。

 真面目かと思いきや、不真面目になり。

 不真面目な事を言ったと思ったら、次の瞬間には真面目な事を言う。

 

 そんな子と私は、魔女結界の最深部にまで辿り着く。

 

『まあ、あんまり『たら』『れば』を並べてみても、現実は変わらない』

 

 これは道中の、この子の言葉。

 だから、考える事に意味は無いかもしれないけれど。

 

 私一人で、ここまで来られただろうか?

 この子独りなら、もっと早かったんだろうか?

 

 この子と一緒に、もっと早く辿り着けはしなかったんだろうか?

 

「どした?」

 

 考え込んでいた私に、首を傾げながら群雲君が問いかける。

 

「少し、考え事をね」

 

 私の言葉に、群雲君は無言で返し、魔女を見つめる。

 私も、群雲君に合わせて立ち、魔女を見つめる。

 

「闘劇は、まだ続いている。

 故に、これは幕引きへの最終演目。

 主演は、見滝原の魔法少女。

 助演は、初めて共闘する魔人。

 敵役は、この魔女結界の主」

 

 口の端を持ち上げながら、芝居がかった口調と台詞。

 その、最後の言葉に合わせて、私はマスケットを設置した。

 

殺されて、死ね(Rock You)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE out

 

 落書きの魔女 アルベルティーネ その性質は無知

 

 女の子のようなその魔女の名を、魔法少女と魔人が知る術は無い。

 会話が出来ないので、当然ではあるが。

 

 しゃがみこんで、地面に落書きをしている魔女。

 周りにマスケットを設置したマミと、その間に器用に立ち、両脇から銃を抜く群雲。

 魔女がどう動いても対応出来る様に、神経を張り詰める二人。

 その二人に気付いた魔女は、ゆっくりと立ち上がると。

 

 一目散に、逃げ出した。

 

「は?」

「ぇー」

 

 流石に想定外だった二人は、思わず顔を見合わせる。

 

「逃げたわね」

「素の行動なのか、オレ達を誘い込む罠なのか」

 

 魔女の戦いは、基本的に一期一会である。

 敗北が死を意味するので、当然といえば当然であるが。

 使い魔が成長すると同種の魔女になるので、魔法少女歴が長いと、同種の魔女と複数回戦う事もある。

 しかし、マミも群雲も、落書きの魔女と戦うのは初めてであった。

 故に、慎重にもなる。

 

「どうする?」

 

 周りに設置したマスケットを消し、手に持つマスケットを構えながら、マミは問いかける。

 

「オレが前に出る」

 

 その問いかけに、群雲は銃を両脇に戻しながら答えた。

 

「相手がどう動いても良い様に、巴先輩は控えててくれ」

「解ってるわ」

 

 左手に納刀状態の日本刀、右手にナイフを三本、握り拳の間に挟み。

 群雲は慎重に歩を進める。

 離れた場所から、一丁のマスケットを構えながら、マミが続いていく。

 

「てか、魔女って絶望を振りまくモノなんじゃないんかい?」

 

 誰にとも無く、群雲が呟いた瞬間。

 地面に描かれていた落書き。逃げ出す前に魔女がいた場所。その場所に群雲が来る事で。

 使い魔に囲まれた。

 

「うぉおぅ!?」

「!!?」

 

 反射的にその場を飛び上がった群雲は、右手に持つナイフを投擲し、少し離れた場所にいたマミは、手に持つマスケットの引き金を引く。

 それぞれの攻撃が、確実に使い魔を捕らえ、消滅させた。

 

「群雲君、無事?」

「……ん」

 

 駆け寄ってきたマミに頷きながら、群雲は地面を注視する。

 そこに、落書きはない。

 

「落書きが使い魔になった? 落書きを使い魔にした? 使い魔を産む為に落書きを書いた?」

 

 疑問点を抽出しながら、群雲は思考の海に沈んだ。

 

 

 

 

 

SIDE 群雲琢磨

 

 いや~、びっくりした。それは、置いておくとして。

 落書きみたいな使い魔は、魔女の書いた落書きだった。

 ……なんじゃそら。

 

 だが、これなら魔女が逃げ出した事に説明がつく。

 落書きをする為=使い魔を増やす為だろう。

 書いてる最中に邪魔されるとウザイからねぇ。

 そうなると、オレ達が取るべき行動は……?

 

「速攻……かな?」

「?」

 

 オレの呟いた言葉が聞こえたのか、巴先輩が首を傾げる。

 

「魔女が使い魔を産む方法が“落書き”なら。

 書ききる前に、速攻で沈めるのが一番かなぁ、と」

 

 オレの意見に、巴先輩は顎に手を当てて考え込んだ。

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 群雲君の意見に、私は状況を整理する。

 自らの結界内(テリトリー)に進入した魔法少女(てんてき)を前に、一目散に逃げ出した魔女。

 描いた落書きが使い魔となり、襲ってきた現状。

 私の能力、群雲君の魔法。

 周りの状況に注視しながら、私たちは背中合わせに立って作戦を練る。

 

「確かに、魔女を早く倒さないと、一般人にも被害が出る可能性が高まるわ。

 でも、どうやって?」

「手っ取り早いのは<オレだけの世界(Look at Me)>だが……一回で殺しきれないと辛いな。

 止めていた時間の、倍のインターバルを必要とするんで、連続使用は無理なんよ。

 加えて、時間停止中はオレは魔法が一切使えない」

「時間停止の最中に、私の魔法でいくのは?」

「それって、射撃系?」

「ええ。

 巨大なマスケット銃を編み出しての射撃。

 私が“ティロ・フィナーレ”と名付けた魔法よ」

「ん~。

 オレの時間停止は“オレが触れているモノ以外の時を止める”から、多分射撃直後に止まるよ?

 銃の場合は、銃口から出た辺りで止まるし。

 ナイフを投げても、空中で静止するし。

 直接攻撃しようとすれば、相手が動き出すし」

「……使いにくいわね」

「……うん」

「……だったら“相手の眼前で射撃”したら?」

「…………………………その発想はなかった」

「決まりね」

「でも、それで仕留められないとやばくない?

 なにより、オレが触れてなければ、巴先輩は動けないぞ?」

「射撃後に、少し離れてから、時間停止を解除すればどう?

 接触に関しては……私のリボンでどうかしら?

 リボンを経由して触れているなら、条件は満たしていそうだけれど」

「……やってみないと解らないな、その辺は」

「試す価値はありそうね」

 

 こうして話していると、群雲君が年下なのを忘れてしまいそうね。

 そしてまだ、出逢って一日も経っていない事も。

 

「止める時間は短いほうがいいし、まずは魔女を補足しようか」

「そうね」

 

 作戦を練り、行動に移す。

 独りじゃない事。それを実感する。

 群雲君も、それを感じているかしら?

 そんな事を考えながら、私は群雲君と共に魔女を探す。

 

「居た」

 

 すぐに見つけた。

 少し離れた所で、魔女は座り込んでいた。

 こちらには……気付いていないようね。

 

「じゃ、手筈通りに」

 

 私は、リボンをひとつ編み出して自分の腰に巻き、端を群雲君の左手に巻き付ける。

 しっかりと結び、繋ぎ止められているのを確認して、群雲君はゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「<オレだけの世界(Look at Me)> 時よ止まれ!」

 

 そして、時が止まる。

 

「群れし雲が今、世界の流転を否定した」

「悪いけれど、人に仇なす以上、魔女(あなた)の存在を否定するわ。

 私、魔法少女ですもの」

 

 群雲君に合わせて、私も言葉を紡ぐ。

 どうやら私の予想通り“群雲君と物理的に繋がっていれば、この子の世界に介入出来る”みたいね。

 魔女に近づいて、私はそのまま、巨大なマスケット銃を編み出す。

 

「これで、終わってくれると助かるんだがね」

 

 群雲君の呟きを耳にしながら、私は自分の最大火力魔法を解き放った。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 放たれた射撃は魔女を捕らえると同時に、爆発を……起こす途中で静止した。

 

「……不思議な光景ね」

 

 役目を終えたマスケットを消し、私はゆっくりとその場を離れる。

 

「流石に、アレに触る度胸はないなぁ」

 

 そんな事を言いながら、群雲君も私に合わせて歩を進める。

 安全と思われる場所まで離れ、群雲君は言葉を紡いだ。

 

そして、時は動き出す(Look out)

 

 次の瞬間、停止していた爆発が起こる。

 私はリボンを解きながら、その爆発を見守る。

 魔法の威力には、自信があるけれど。それを過信はしない。それが独りで戦い、生き残る為の秘訣。

 群雲君も同じように、爆発を見守る。

 

 そんな爆発の中、立ち上がる魔女を見た。

 

「自信、なくしそうね」

「大丈夫、オレにはこんな魔法は使えないから。

 ……今度、ロケットランチャーでも使ってみようかねぇ?」

「なんで、持ってるのよ?」

「弾丸調達のついでに、お借りしてきた。

 残念ながら、ランチャー用の弾が一発しかないけど」

「なんで、一発だけなのよ?」

「弾丸は、リボルバーやハンドガンがメインだったし……時間停止中は<部位倉庫(Parts Pocket)>が使えないから、持ちきれなかった」

 

 そんな話をしながらも、私は新たにマスケットを構え、群雲君はリボルバーとショットガンを構えている。

 

 

 

 

 そして、魔女が泣き出した。

 

「!?」

「うるさっ!?」

 

 生き物が発するような声ではなく、その大音量から、私は堪らずに耳を塞ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ!?」

 

 そして、魔女がその姿を消した。




次回予告

生きる事 それは生命の定め

生きる事 それは当然の行為

生きる事 それは双方の願い






思考する それが人の特権



禁断を犯して得た、最初の罪



七十五章 魔女が描いた場所

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