無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「魔法には、ある程度の特性があり、それが本人の特徴にもなっている」
「それで?」
「基本的に、他人の魔法をそのまま使う事は出来ない」
「基本的? 応用的には?」
「自分に置き換える事は、不可能じゃない」
「……群雲君、本当に年下?」
「誰が、若作りだってぇ!!?」
「言ってないわよ、そんな事!?」


七十五章 魔女が描いた場所

SIDE 群雲琢磨

 

 なん……だと……!?

 死ななかった魔女。

 オレが驚愕したのはそこではない。確かに巴先輩の魔法(ティロ・フィナーレ)は威力が高かったし、オレもやったと思った。

 だが、生きていた。

 

 そして、それは重要じゃない。

 生き残った魔女が泣いた。痛かったらしい。当然だ、殺す為の行動だ。問題なのはその後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体が動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体が動かない? 何故だ? 魔女が泣いたからか? なぜ魔女が泣くとオレが動けなくなる? 魔女の能力か? なら最初からそれをしなかったのは?

 

 体が動かない中、状況を理解する為に頭がフル回転する。

 左半分の視界は、魔女が泣きながら歩いていくのを確認する。

 だが、解らない。結論が出ない。情報が少なすぎる。

 

 

 

 

 視界から魔女が消えて、しばらく後。まるでスイッチを切ったかのように。或いはスイッチを入れるかのように。

 オレは“行動”を取り戻す。

 

「……えっ!?」

 

 横では、巴先輩の驚く声。当然だな。突然体が動かなくなり、唐突に動くように

 

「魔女が、消えた!?」

 

 ……はい?

 

「消えた? 泣きながら歩いていったと思うが……」

「……え?」

 

 オレの言葉に、巴先輩が首を傾げる。

 

「……認識が違う?」

 

 ありえるか? 今まさに、魔女を倒そうと一緒にいる魔法少女と魔人(ふたり)が、たった今起こった事に対し、違う認識をしている。

 これが“印象”であったなら、理解できる。それは人それぞれであるはずだから。

 だが、起きた“現実”に対し、異なる“事実”を“認識”している。これはありえるか?

 そう、まるで――――――

 

「……まさか」

 

 フル回転中の頭が、納得できる“答え”を導き出す。時折聞こえる放電の音を無視して、オレは答えを理解する。

 

 

 

 

 

 納得する答えを出す為に、必要な仮定と過程。

 魔女は使い魔を産む。

 ここの使い魔は、まるで落書きのようだ。

 魔女が、落書きをしているのを見た。

 その場所で、オレは使い魔に囲まれた。

 

 ここで仮定。

 落書きが使い魔になるのではなく。使い魔を落書きにしたのではなく。

 

 

 

“あの魔女の能力が、落書きを現実にするものであったなら?”

 

 

 

 落書きが使い魔になったのが、過程ではなく結果なら?

 その過程の上で仮定する。

 

 

 

“オレが見ていた魔女が逃げる姿(せかい)を、巴先輩が見られなかったとしたら?”

 

 

 

 それはまさに、魔女が消えたように錯覚するだろう。

 そう、それはつまり――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“時間停止”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔女が書いた物が現実になるとしたら。

 それが魔女の能力であるのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“この場所が魔女が描いた場所であるならば”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、まさに。

 魔女だけの……世界…………ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 巴マミ

 

 呆然と呟いた後。群雲君は動きを止めた。前髪を絶えず放電させながら。

 なにをしているの? なにがおきているの?

 問いかけても、返事は無かった。

 でも、数秒後には放電は収まり、群雲君はこちらを見上げた。

 

「オレの仮定が正しいならば、あの魔女はオレと同じ力があるらしい」

 

 そして語られる、群雲君の推理。それに対して、今度は私が動きを止める事になった。

 まさか……そんなことがありえるの?

 

「正解かどうかは、確かめようが無い。

 だが、こう考えて結論付けるのが多分一番近い」

 

 私と群雲君の違い。

 時間停止を使()()()()使()()()()()

 使える群雲君だから、魔女の世界を認識し。

 使えない私だから、魔女の世界を認識できなかった。

 それが、群雲君の結論だった。

 

「だったら……どうすればいいの?」

 

 それが本当なら、致命傷を与える前に逃げられてしまいかねない。

 私の言葉に、群雲君は先ほどと同じように、眉間に右中指を当てて静止する。

 

「仮に“オレと同じ”であったなら。

 連続使用は出来ないはずだ」

「なら、今すぐに」

「それはアウト。

 オレが動けなかったのは、長くて数十秒。

 正確に計った訳じゃないが、おそらくインターバルは終えている」

 

 なら……どうすればいいの?

 先ほどのダメージが無い筈はない。同様に畳み掛ける?

 

「最初の作戦を続行したとして……巴先輩は魔力に余裕ある?」

 

 ……厳しいかもしれない。

 ここまでに消耗している分と、先ほどの魔法。

 元々、ティロ・フィナーレは連続使用する為の魔法じゃない。

 

「……撃てて、2.3発かしら?」

「だろうねぇ。

 ついでに、オレと繋ぐ為のリボンも魔法だと考えると……巴先輩に負荷が掛かり過ぎてる。

 出来れば、()で仕留めたい」

 

 ちょっとまって。

 

「次?」

「巴先輩単発で無理なら、次に考えるべきは同時攻撃。

 かと言って、オレにはあんな高火力な魔法なんてないし。

 ナイフや日本刀で突っ込んでたら、巻き込まれて死ねる自信がある」

 

 いらないわよ、そんな自信。

 でも……確かにその通りかもしれない。

 群雲君が死んでしまっては意味がない。

 

 それを、許容するほど、私は冷たい人間じゃないつもり。

 

 でも、そうなると……。

 

「同時が無理なら、波状攻撃?」

「手数で補うってか?

 ダメージがあるとはいえ、巴先輩の“ティロ・フィナーレ”に耐えた奴に、通用す…………」

 

 言葉の途中で、群雲君の動きが再び静止した。

 再び、前髪に起きる黒い放電。よく見れば、唯一見える左目は焦点が合っていない。

 ……不気味よ、群雲君……。

 少しして。

 

「策が浮かんだ。

 前提として聞く。

 ティロ・フィナーレは移動射撃とか」

「出来ると思う?」

「ですよねー」

 

 巨大なマスケット銃の射撃。あれに機動性を求められても困るわね。

 ……代わるに値する魔法を、模索しておくべきかもしれない。

 先ほどの話ではないけれど、匹敵するだけの波状攻撃とか。

 でも。

 

「なら、それ前提で動く。

 巴先輩に頼む。

 魔女に向かって、もう一度ティロ・フィナーレを」

 

 それを考えるのは、この後ね。

 今、するべき事は。

 

「演出は、魔人が行う。

 魔法少女は――――――」

 

 決着(カーテンコール)ね。




次回予告

そして、訪れるカーテンコール

されど、これはあくまでもひとつの事象

紡がれし第三幕はまだ




主演が、揃ってすらいない




七十六章 だった

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