無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「人々の思いは、とても深い」
「それは、善と悪、その両方に向けられる」
「善の思いが神を創り」
「悪の思いが悪魔を創り」
「そうして世界は、バランスよく創られているのだわ」


八十章 見滝原の銃闘士

SIDE 美国織莉子

 

 私の願いは、一つの結末を映し出す。

 見滝原より始まる、終末の風景。

 私が契約により得た能力は、絶望の未来を映し出し。

 私は、それを回避する為に、この生を費やすと決めた。

 

「どうかしたのかい?」

 

 傍らに居たキュゥべえが、表情を変える事無く問い掛けてくる。

 私は、未来を観た。

 その過程で、私は魔女の“本質”を知った。

 もはや、この生命体に心を許す事は無い。

 ……しかし、どうすればいい?

 世界に終焉を告げたのは、巨大な魔女。

 アレには、絶対に勝てない。私はそれを本能的に理解していた。

 あの未来を回避する為には“前提を覆す”しかない。

 魔女は、魔法少女が絶望に変化した姿。

 ならば“アレになる魔法少女を殺す”のが、最も確実な方法。

 “今”が終焉ではない以上、その少女は魔法少女か、まだ契約前か。

 

「この見滝原には、私以外にも魔法少女が居るのかしら?」

「いるよ」

 

 冷静に見える様に努めながらの私の質問に、キュゥべえは即座に返答した。

 

「でも、あまり個人的な事を話す事は出来ないね。

 僕が出来るのは、あくまでも中立的な情報だけだ」

 

 その言葉に、私は僅かに唇を噛む。

 

「しかし、知名度のある魔法少女達の事なら、多少は話せるよ。

 もちろん、知名度と言っても、関係者の間に、と言う前提はあるけれど」

 

 魔法少女が魔女になる。魔女として強大な存在となるなら、魔法少女としても高い実力を持っていて当然だわ。

 

「話して貰ってもいいかしら?」

「もちろんだよ。

 “本人からも、極力話す様に頼まれている”しね」

 

 頼まれている?

 私の疑問をよそに、キュゥべえは情報を告げる。

 

「見滝原を縄張りにするコンビ。

 通称“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)“。

 現状唯一の魔人と、使い魔も魔女も関係無く倒して人々を護ろうとする、珍しいタイプの魔法少女の二人組みさ」

「魔人?」

 

 聞きなれない言葉に、私は首を傾げる。

 

「元々、魔法少女と言う呼称は、契約可能な素質者の大半が、第二次成長期の少女で占められている事から由来している。

 僕たちは、素質者にしか認識できないからね。

 だけど、僅かながらそれに当て嵌まらない素質者も存在する。

 そういった存在を、魔人と呼称するんだ」

 

 素質者にしか、認識できない……。

 この生命体の事だから、()()()()()()にしているのかもしれない。

 

「話すように頼んだのは?」

「魔人の方さ。

 魔力を回復させる為にGS(グリーフシード)が必要な以上、どうしても魔法少女同士での衝突も有り得てしまう。

 知名度を上げ、実力者だと認識してもらう事で、余計な諍いを避けるのが目的だと言っていたね」

「利用される、とは考えなかったのかしら?」

「自分の為に動く事を信条としている少年だ。

 利用しようとしても、逆に利用される可能性の方が高いんじゃないかな?」

 

 ……相手にそう認識してもらうのが狙い、かしらね?

 中々、強かだわ。

 でも、もしも“見滝原の銃闘士(アルマ・フチーレ)”のどちらかが“アレ”になるのだとしたら。

 衝突は免れない。

 でも、もしも“アレ”になる存在が、まだ契約していなかったとしたら?

 

 今の私にはまだ、判断するだけの材料が無いわ。

 

「どうかしたのかい?」

 

 黙って考え込んでいた私に、キュゥべえが再び問い掛けてくる。

 ……まずは、この生命体の動きを、ある程度抑制しないといけない。

 何よりも今、私に必要なのは“アレが元は誰だったのか”という情報。

 その為には、未来を観て情報を得るしかない。

 見滝原からの終焉、その最悪を回避する為に。

 

「あ」

 

 その時、私は気付いた。

 私は既に、絶望の未来を予知した。

 それはつまり“アレになる魔法少女との契約は、現状確定している未来”だと言う事。

 ならば逆に“私が魔法少女になるように仕向けた少女は、アレにはならない”と言う事。

 

「キュゥべえ、いいお知らせよ」

 

 だからキュゥべえには。

 

「私の魔法は、貴方の役にも立つみたい」

 

 一生懸命、勧誘活動に勤しんで貰いましょう。

 

「貴方にとって、とても良い素質者がいるみたいよ」

 

 その間に私は、必要な情報を手に入れてみせるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――その頃の魔人――――――――

 

「そこそこ長い付き合いになったなぁ。

 巴先輩も中学3年だし、オレも主夫家業が板についてきた」

「流石に琢磨君は、学校には行けないわよね」

「まず、身分を証明しようがないからなぁ。

 両親との家は、腐った親戚が速攻で金に換えてくれやがったし、捜索願も出されてないし。

 なにより、両親の名前も顔も、覚えてないから」

「……契約前は、どんな生活だったのよ?」

「両親の預金……300万ぐらい?

 それが欲しいけどオレはいらないって親戚が管理するボロアパートの一室で寝泊り。

 外面だけは良かったらしく、のらりくらりと法の間を潜り抜けてたらしい。

 詳しくは知ったこっちゃ無いけど」

「……聞けば聞くほど、壮絶な人生ね」

「まあ、当時小1のオレが、学校行かずに駆けずり回って、預金を全額引き出して隠し持ってたとは思わなかったらしいが。

 学校の先生も、オレなんかより親戚の方を信用してたみたいだしな。

 だから、仮に学校に行けるとしても、行かないと思うぞ、オレ」

「……本当に、それでいいの?」

「むしろ、両立してる巴先輩のほうがパネェ」

「そんな事無いわよ?」(そういえば、まだ課題が終わってなかったわ……)

 

 

 

 

 今の相棒(パートナー)と二人、のんびり紅茶を飲んでいた。

  




次回予告

一人の少女が、魔法少女と関わった

それが、善意からの行動であると

その魔法少女は、思いもしない








善意から、行動を起こした魔法少女は

そのチカラで捕捉する

自分と似て、非なるモノ

契約者であって、真逆のモノ

世界の終焉 そこに存在するモノ














八十一章 殲滅屍

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