無法魔人たくま☆マギカ   作:三剣

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「どうしたって、予期しない事は起こる」
「それが人生だと言われちゃうと、それまでだけど」
「それでもあたしはまだ」
「幸せな夢を諦めきれてない」


八十一章 殲滅屍

SIDE 佐倉杏子

 

 その日のあたしは、最高に最低だった。

 

 偶然出会ったのは、まだ年端もいかない少女。

 名前を、千歳ゆま。

 親と一緒に、魔女結界に迷い込み。あたしが魔女を倒した時には、ゆまだけが生き残っていた。

 

 どうしても、放って置く気にならなかったのは……きっと、ゆまと妹――――――――モモがダブって見えてしまったから。

 

 少しの間、あたしはゆまと一緒に行動した。

 

「織莉子の言ったとおりだ」

 

 そう言って、久しぶりに会ったキュゥべえは。

 ゆまにも、魔法少女の資格があると告げ。

 結果的に、ゆまも、契約をする事になる。

 

 

 

 

 あたしは、自分の願いが家族を壊した事から、自分の為だけにこの力を使うと決めた。

 そのあたしの為に、ゆまが奇跡を願うんだから。

 

 やっぱり、世界は優しくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 美国織莉子

 

 私は、未来を見る。

 最悪の災厄を、何度も見続ける。

 

「あれは……?」

 

 世界の終焉、その片隅で。

 魔女を見上げ、呆然と佇む魔法少女が独り。

 長く黒い髪の少女。

 左腕に、円形の盾を着けている少女。

 

「……関係者、かしら?」

 

 もしかしたら、彼女の相棒(パートナー)が“アレ”の正体かもしれない。

 でも、残念ながらそれ以上の情報は……。

 

「……男の子?」

 

 そこに、ゆっくりと近付いて来たのは、独りの少年。

 白髪に軍服、眼帯をした少年。

 

「あれが……魔人?」

 

 右肩にキュゥべえを乗せて。その少年は黒髪の少女に近付く。

 会話をしているようだけれど、残念ながら私の“予知”は、観る事しか出来ない。

 読唇術でも、勉強しておけば良かったわね。

 

 しばらく、終焉の地で会話を続ける二人。

 少女の方は、徐々に感情が高ぶっているのが見て取れる。

 対する少年は、口元を吊り上げながら、態度が変わっている様に見えない。

 

「仮に少女が“アレ”の関係者だとして……。

 少年の方は違う?」

 

 何よりも、あの少年は何故。

 

 

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 背筋に、冷たいものが流れる感覚。

 まさか……。

 私が、あの少女を魔法少女になるように、誘導したように。

 

 少女と少年が動く。

 少女は盾に手を。少年は腰に手を。

 同時に銃を抜いて相手に向け、その引き金を――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ど、どうしたんだい、織莉子!?」

 

 慌てた声に、私は“今”に引き戻された。

 視線を向けると、キリカが心配そうに私を覗き込んでいる。

 どうやら、私の体を揺さぶり、私を引き戻したみたいね。

 

「……私が“魔法(チカラ)”を使っている時は、極力話しかけないようにと、言っておいたわよね?」

 

 私が“未来”を見ている間は“今”の事を、まったく認識できない。

 先程の様に“今の私”に直接影響を与えられると、私の意識は“今”に強制的に引き戻されてしまう。

 

「だ、だって織莉子、泣いてたから……」

 

 おろおろしながらのキリカの言葉に、私はようやく、頬を伝う雫を認識する。

 そう……泣いていたのね……私は…………。

 

「話しておく事があるわ、キリカ」

「うっ……」

 

 私の真剣な眼差しに、キリカがたじろぐ。

 どうやら、今の事を怒られるとでも勘違いしているのかもしれないわ。

 

「今の事を、怒っている訳ではないわ。

 それとは別の、大事な話よ」

 

 怒られる訳ではないと知り、キリカは胸を撫で下ろす。

 そんな彼女の仕草を、微笑ましく思いながら、私は言い聞かせるように告げる。

 

「いい?

 緑の服を着た、白髪の少年に会ったのなら、絶対に逃げなさい」

 

 突然の警告に、キリカは首を傾げる。

 

「きみの言葉なら、私は絶対に従うけど。

 邪魔なら全力で殺してみせるよ?」

「駄目よ。

 あの子だけは、絶対に敵に回してはいけないわ。

 あれは“世界の終末で嗤う殲滅屍(ウィキッドデリート)”なのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 佐倉杏子

 

 織莉子。

 理由はわからない。

 でも、そいつがキュゥべえにゆまの事を教えて、ゆまが魔法少女になるように誘導したのは間違いない。

 必ず、このオトシマエは。

 

「おや?

 意外な人と再会したな」

 

 突然のその言葉に、あたしはそちらを向く。

 

「久しぶりだね」

 

 なんで、お前がここにいるんだ?

 

「佐倉先輩」

 

 群雲……琢磨ッ!




次回予告

白い魔法少女の思惑

赤い魔法少女の記憶

巻き込まれた少女の把握

現れた魔人の疑惑




白い生命体の策略




八十二章 チームってのはそう言うものだろう?

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